昨年末、品川駅構内にオープンした和食店「おだし東京」が、行列のできる人気店となっている。実はこれ、スープ専門店「スープストックトーキョー(Soup Stock Tokyo)」(以下、スープストック)が“和のスープストック”と位置付けた新業態だ。

2016年12月にオープンした「おだし東京 エキュート品川サウス店」。営業時間は月~土曜が7~23時、日曜・祝日が8~22時。無休
2016年12月にオープンした「おだし東京 エキュート品川サウス店」。営業時間は月~土曜が7~23時、日曜・祝日が8~22時。無休
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 オープンから2カ月あまりたった2月中旬、店に足を運んでみた。スープストックと違ってフルサービスの接客で、席に座るとすぐに温かいおしぼりとお茶が出てくる。写真付きのメニューを見ると、「8種のおだしと真鯛のお椀」「二重(かさね)牛だしのみぞれ椀」など、料亭風の豪華なビジュアルの汁物。いち押しらしい「8種のおだしと真鯛のお椀」を頼むと、椀からはみ出すほどのボリュームの真鯛にまず圧倒された。

「8種のおだしと真鯛のお椀」(1180円)(税込み、以下同)。カツオ、昆布、シイタケなどでとった和風だし、フォン・ド・ボー、フュメ・ド・コキーユなどフランス料理に使われるだしに加え、鶏白湯などの中華だしを合計8種類かけ合わせた、おだし東京を代表するメニュー
「8種のおだしと真鯛のお椀」(1180円)(税込み、以下同)。カツオ、昆布、シイタケなどでとった和風だし、フォン・ド・ボー、フュメ・ド・コキーユなどフランス料理に使われるだしに加え、鶏白湯などの中華だしを合計8種類かけ合わせた、おだし東京を代表するメニュー
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 さらに、和のスープ=味噌汁と思いきや、食べてみると濃厚なブイヤベース風の味付けであることにも驚かされた。炊きこみご飯は具なしのシンプルなものだが、濃厚なだしの香りに、おろしショウガ、青海苔のトッピングが効いた手の込んだ一品。2つの小皿は、蒸し白菜の白和え風と浅漬けで、こちらも丁寧に作られている印象だ。これだけの内容で1180円。閉店間際の22時半まで行列ができていることも珍しくないほどの人気だというが、それも納得の内容だった。

 スープストックは洋風8割、和風2割くらいの割合だが、おだし東京ではその割合が逆転し、和風メニューが8割程度。ただスープストックでもオリジナリティーを出すために、洋風メニューにもしょうゆや味噌を隠し味として入れているように、おだし東京でもカツオと昆布のだしにオマールエビのだしを足したり、チキンブイヨンを足したりしている。また盛り付けも完全な和風ではなく、外国人がイメージする“和”の雰囲気にしているという。

 スープストックは1999年に1号店(お台場ヴィーナスフォート)をオープンして以来、現在は60店舗以上を展開し、冷凍スープ専門店「家で食べるスープストックトーキョー」、ファミレス「100本のスプーン」も好調。そんな同社がなぜ今、和の新業態をスタートさせたのか。松尾真継社長に聞いた。

「海老と魚介のおだし」(1180円)はフランス料理のだし3種類(フュメドコキーユ、ポワソン、コンソメヴォライユ)を使い、和の調味料で仕上げている(以下、写真のお椀メニュー3つにはそれぞれ季節のご飯と小鉢が付く)
「海老と魚介のおだし」(1180円)はフランス料理のだし3種類(フュメドコキーユ、ポワソン、コンソメヴォライユ)を使い、和の調味料で仕上げている(以下、写真のお椀メニュー3つにはそれぞれ季節のご飯と小鉢が付く)
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「二重(かさね)牛だしのみぞれ椀」(1180円)は和食で人気のすりながし汁風の一品
「二重(かさね)牛だしのみぞれ椀」(1180円)は和食で人気のすりながし汁風の一品
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「鱸のパイ焼きとブロッコリーのすり流し」(980円)は、見た目のインパクトの強さで、インスタグラムにアップするお客が多い一品。作るのに非常に最も手間がかかるメニューでもあるという
「鱸のパイ焼きとブロッコリーのすり流し」(980円)は、見た目のインパクトの強さで、インスタグラムにアップするお客が多い一品。作るのに非常に最も手間がかかるメニューでもあるという
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「はかたの一番鶏のおかゆ」(980円)。7時から10時までは朝食メニューとして580円で提供(小皿など内容に違いあり)
「はかたの一番鶏のおかゆ」(980円)。7時から10時までは朝食メニューとして580円で提供(小皿など内容に違いあり)
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以前から「味噌汁はないの?」という声があった

  スープストックはもともと“女性向けのファストフード”として誕生した業態。温かい食事を短時間でしっかりとれる手段として考案したのが、スープを主役にした現在のスタイルだという。「汁ものは体だけでなく心も温めてくれるし、熱いのでゆっくりと食べ進められる。忙しく働く人が通勤の喧噪をくぐりぬけ、おいしくて温かくて栄養のあるスープを体に入れて、15分か20分だけでもホッと我に返るシーンを想定し、素性のしっかりしたものを食べられる場所を提供したいと考えた」(松尾社長)。

  従来のファストフード店ではスープはサイドディッシュ的な扱いだったが、同店ではメーン料理となるように、ボリュームのある“食べるスープ”を提供。実はパンよりごはんを選ぶ人が約7割を占めるという。「温かい汁物をご飯と一緒に食べたい」というニーズがあるのだ。

 スープストックでは以前から「味噌汁はないの?」という声があり、商品化を検討したこともあったが、みそ汁はあまりに地域性が強くて正解がなく、“スープストックの味噌汁”という形で出すのは難しいという理由で見送ってきたという。

 「スープストックのメニューはさまざまな国のスープをヒントにはしているが、店名に『トーキョー』と名付けるからにはオリジナリティーを大事にし、必ず何かスープストックらしさを表現したいと考えている。利用者が求める“和のスープ”を提供するにしても普通の味噌汁ではなく、家庭では絶対に作れないオリジナリティーが必要」(松尾社長)。それを形にしたのが、おだし東京というわけだ。

セルフではなくフルサービススタイル
セルフではなくフルサービススタイル
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2月14日のバレンタインデーに同店で「8種のおだしと真鯛のお椀」を注文したところ、ハート型の飾りがトッピングされていた
2月14日のバレンタインデーに同店で「8種のおだしと真鯛のお椀」を注文したところ、ハート型の飾りがトッピングされていた
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最大の課題は、調理の手間とコスト

  予想以上の好評に気を良くしているかと思いきや、これまでと大きく異なるメニューや業態だけに、オープン2カ月でさまざまな課題も見えているようだ。

 最大の課題は、調理の手間とコスト。作り置きできないうえ、盛り付けの彩りも重視しているので、とにかく調理に手間がかかるのだという。「オマールエビのだしなどスープストックのリソースも使っているが、それだけでは効率化できない。どうしたらスピーディーに提供できるか、内部のフローを一から考えていろいろ試行している。完成するには半年はかかるとみている」(松尾社長)。さらに米はあきたこまちの単一品種、具のマダイは瀬戸内産、鶏は博多一番鶏などを使用しているため、原価率も非常に高いそうだ。

 スープストックと比較すると、利用時間帯も少し異なる。ランチとディナーの間のアイドルタイムの落ち込みがスープストックより大きいそうだが、これは軽食メニューがないためだろう。今後はアイドルタイムに、甘味を提供することも考えているという。

 またスープストックよりも滞在時間が長めで、遅い時間までにぎわっているのも特徴。「平均するとスープストックの滞在時間は15分くらいだが、おだし東京は20分くらいとやや長い。夜はビールを飲みながらゆっくり食事を楽しまれる方が多い」(松尾社長)。今後は要望の多い日本酒を提供することも検討中だそうで、そうなれば滞在時間はさらに長くなりそうだ。

和のスープストックを世界に発信

 品川駅に出店したのは、外国人も多いため、和のスープストックを世界に発信できるチャンスが多いと考えたことも理由のひとつだという。また乗降客数が多い巨大なターミナル駅なので、宣伝効果が高いこともポイントだったそうだ。「関西や北海道の商業施設からも出店要請が多数ある」(松尾社長)というから、オペレーションの効率化が進めば全国に広がるのは意外に早いかもしれない。

スープストックの和食店「おだし東京」に行列ができるワケ(画像)
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(文/桑原恵美子)