ここ数年、世界中でブームになっているという抹茶。最近では、チョコレートやケーキなどに形を変え、世代を問わず広く受け入れられている。追い風になっているのは、昨今の美容・健康志向だ。グウィネス・パルトロウやジェシカ・アルバなど美容や健康への意識が高いセレブがインスタグラムで紹介したことなどがきっかけで一般にも関心が高まり、海外のメディアでもその健康効果が頻繁に紹介されるようになっている。

 日本茶研究の第一人者で、お茶のいれ方や楽しみ方を伝える講座「お茶大学」の校長も務める大妻女子大学の大森正司名誉教授は、「抹茶に含まれるカテキンやテアニンには美容と健康に良い作用があると科学的に立証されている」として、抹茶のカテキンのがん抑制作用や動脈硬化抑制効果、老化・認知症予防効果などを紹介した。

大妻女子大学の名誉教授で、「お茶大学」校長を務める大森正司氏
大妻女子大学の名誉教授で、「お茶大学」校長を務める大森正司氏
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イベントの後半は、日本、中国、韓国、フランスから4人のお茶の専門家が出席してディスカッションした
イベントの後半は、日本、中国、韓国、フランスから4人のお茶の専門家が出席してディスカッションした
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 このような抹茶の人気を受け、2017年2月6日には「日本“MATCHA”サミット」というイベントが開催された。2月6日は、湯を沸かす風炉にかけて制定された「抹茶の日」。大森名誉教授や静岡産業大学の中村羊一郎特任教授といった研究者が主導し、中国、韓国、フランスを代表するお茶の専門家が出席して、抹茶を国内外に普及させていくにはどうするべきか意見を交わした。

中国、韓国、フランスでも抹茶の需要は伸びている。

 まずは、各国から集まった専門家たちが中国、韓国、フランスでの抹茶の現状について説明した。

 中国から参加した日本中国茶協会の王亜雷(オウアライ)代表によると「日本人にとって中国のお茶というとウーロン茶のイメージが強いだろう。でも生産量が一番多いお茶は、実は緑茶」という。現在、中国の1年間のお茶の生産量200万トンのうち、60%以上が抹茶を含む緑茶であるという。

 10年前からは抹茶(碾茶)の生産も伸びてきた。主な用途は食品などの材料で、抹茶加工商品は若者を中心に広がっており、アイスクリームやクッキー、チョコレートなどの菓子類、湯を注ぐだけで飲めるインスタント粉末茶もあるという。「インターネットや旅行などで日本や抹茶についての情報が得やすくなったことや、抹茶の緑色の美しさ、体に良いことへの関心が、若者に流行している主な理由」(王代表)という。

 こうした傾向は韓国にもあり、韓国茶道協会東京支部の李瑛子支部長は、韓国でも5、6年前から若者の間で抹茶加工食品が広く愛好されていると述べた。

日本中国茶協会の王亜雷代表
日本中国茶協会の王亜雷代表
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韓国茶道協会東京支部の李瑛子支部長
韓国茶道協会東京支部の李瑛子支部長
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 さらに、東京・日本橋にある日本茶の専門店「おちゃらか」のステファン ダントン代表は、フランスをはじめとするヨーロッパでも、抹茶を料理やお菓子に取り入れるケースが増えているという。フランスの場合は、有名なレストランのシェフが料理に使用したことで注目され、さらにレストラン業界からパティシエやショコラティエに情報が伝わって、スイーツやチョコレートにも使われるようになっていった。「まずは抹茶の色。美しい緑は料理に使いやすい。さらに、うまみ、甘み、苦みもある。抹茶のポテンシャルはとても高いと感じる」と、食材としての抹茶の強みを語った。

 一方でダントン代表は課題も指摘した。「受け入れられているといっても食材としてのみ。日本のように、飲料としては難しい。また、パリで流行しているだけで、ほかの地域への広がりもない」(ダントン代表)。なぜ飲料として受け入れられないのかということに関しては、日本の伝統文化としての抹茶にはこだわりが多く、フランス人にはハードルが高く感じてしまうこと、入れる手間や時間がかかること、フランスでは緑の飲み物を飲む習慣がないため抵抗が強いことなどを理由として挙げた。

 これを受け、日本代表として出席していた静岡産業大学の中村特任教授は、「日本人の抹茶を伝統文化として捉えるイメージと、食材として海外に受け入れられている現実にはギャップがあるように感じる」とコメントした。このギャップは、海外に限らず日本国内の生産者と消費者間にもいえる。抹茶のお菓子を食べることはあっても、抹茶を飲む機会は非常に少ない。

時代で変わる包装や抹茶の評価基準

 ダントン代表は自らの店舗運営の経験から、食材としてだけでなく飲料としても抹茶が受け入れられるためには、「消費者が何を求めているのかを知る必要がある。売る側に、抹茶の魅力を伝える工夫が足りない」と述べた。

 例えば、ダントン代表が経営するおちゃらかでは、以前から一般的な100g包装のほかに、40g包装のお茶商品を作り、販売しているという。かつては4人家族が多かったが、最近は子どものいない家庭、一人っ子の家庭も多い。家族構成が異なる今の時代に100g包装の商品だけでは対応できないこと、さまざまな種類のお茶を少しずつ楽しみたいという消費者の意見を受けてのことだ。

東京・日本橋にある日本茶の専門店「おちゃらか」のステファン ダントン代表
東京・日本橋にある日本茶の専門店「おちゃらか」のステファン ダントン代表
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静岡産業大学の中村羊一郎特任教授
静岡産業大学の中村羊一郎特任教授
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 その結果、100g包装の商品よりも、40g包装の商品がよく売れるという。しかも、2つずつ買っていく人も多い。ダントン代表は「100g包装を買うより値段が高くなっても、40g包装を組み合わせて2種類のお茶を楽しみたい人がいるということ」と分析した。

 このように、消費者の目線を取り入れる動きは業界全体にも徐々にだが広がり始めている。その一例が、世界緑茶協会が行っている「世界緑茶コンテスト」だ。これまで、お茶の品評というと専門家目線のものが多く、茶葉の形、味、香りが主な評価基準とされていたが、実際に商品を手に取る消費者にとっては、商品のパッケージやコストパフォーマンスも重要になる。そこで、世界緑茶コンテストでは、滋味(味)、香りに加えて、コンセプト、パッケージ、コストパフォーマンスを評価基準としている。

 今後、抹茶の人気を国内外で維持していくためには、抹茶の機能や味の魅力、活用方法などを日本から発信していくことが重要になりそうだ。現在中国や韓国でも抹茶の生産量が増えている。まだ日本の品質には届いていないというが、いずれ品質が上がれば、中国産、韓国産の抹茶にニーズが流れる可能性もある。中村氏は「日本のお茶産業としては、健康など抹茶の機能面だけでなく、日本の食材、文化としてアピールしていくことも必要だろう」と結んだ。

(文・写真/志田彩香)