自社ブランド名を看板に掲げたカフェや、日本初上陸の飲食店を続々とオープンさせているアパレル企業のベイクルーズ。前編では飲食業界に参入したきっかけや、海外の飲食店を誘致する際の基準などについて聞いた。後編は、飲食業とアパレルの違いや今後の展開について、引き続き、同社の野田晋作上席取締役副社長に聞く。

ベイクルーズ上席取締役副社長の野田 晋作氏は1976年東京都生まれ。高校を卒業後、文化服装学院ディスプレイデザイン科進学。卒業後、「エディフィス」のアルバイトとしてベイクルーズに入社し、24歳でPRに抜てきされる。プレスやクリエイティブ部門の統括責任者を経て現職。現在は主に経営企画、飲食、フィットネス部門の事業責任者を兼務。写真/シバタススム
ベイクルーズ上席取締役副社長の野田 晋作氏は1976年東京都生まれ。高校を卒業後、文化服装学院ディスプレイデザイン科進学。卒業後、「エディフィス」のアルバイトとしてベイクルーズに入社し、24歳でPRに抜てきされる。プレスやクリエイティブ部門の統括責任者を経て現職。現在は主に経営企画、飲食、フィットネス部門の事業責任者を兼務。写真/シバタススム
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コーヒーは3ブランド。でも切り口がまったく違う

――シティショップについて、「エリアの近い店が同じようなことをやっても顧客を食い合うだけ」と言っていたが、渋谷・表参道エリアにはコーヒー専門店が、業態違いで3つもある。「GORILLA COFFEE(ゴリラ コーヒー)」「COUTUME(クチューム)」「Roasted coffee laboratory(ローステッド コーヒー ラボラトリー)」と、3ブランドも持つ理由は?

野田晋作氏(以下、野田): コーヒー専門店と聞くとすべて同じように見えるかもしれませんが、ブランドの切り口がそれぞれまったく異なります。ゴリラ コーヒーはブルックリン発のデザインコンシャスな店。コーヒーの質にもこだわるが、どちらかというとインパクトで売っている。パリから持ってきたクチュームは繊細な焙煎をした高級な豆を紅茶のようにいれるという、ゴリラ コーヒーとはまったく違うアプローチした店。さらに、本社の1階にあるローステッド コーヒー ラボラトリーは、自社で焙煎した豆を使っているのが売り。ここで焙煎した豆はベイクルーズが運営するほかの飲食店でも使用しています。

1つの店にいろんなブランドのダウンがあるのと同じ

――各ブランドのターゲットは?

野田: ゴリラ コーヒーは店内に大音量でヒップホップを流すなど、10代から20代をターゲットにしています。今後は多店舗化していきたい。一方、クチュームは豆への強いこだわりがある店。いずれレストランへの卸売りもできればと考えています。これら2店舗の知見を生かし、オリジナルのブランドとして作ったのがローステッド コーヒー ラボラトリーです。本来は「このジャンルならこの業態」と絞るべきなのかもしれません。でも、同一ジャンルで複数の業態があっても、さほど食い合わないのではないでしょうか。出店エリアも異なるので。

「GORILLA COFFEE(ゴリラ コーヒー)」渋谷店。エソラ池袋にも出店している
「GORILLA COFFEE(ゴリラ コーヒー)」渋谷店。エソラ池袋にも出店している
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――クチュームは表参道だが、ゴリラ コーヒーはローステッド コーヒー ラボラトリーとかなり近い(400メートル以内)エリアにある。

野田: コーヒーを飲みたいとき、数100メートル離れていたらわざわざ別の店舗まで行かないのではないでしょうか。さらにセレクトショップの感覚でいうと「同じ店舗にいろんなブランドのダウンが置いてあってもいい」と思っています。

――しかし、複数の業態を持つことで、オペレーションが煩雑になるのではないか。

野田: たしかに効率は良くないですね。今後は、効率化できるところと個性をどう切り分け、どのようにコストを絞っていくのかが事業拡大のカギになるでしょう。

効率化しすぎると、大手チェーン店になってしまう

――ここ数年で、飲食ジャンルの店舗数が飛躍的に増えている(2011年度は17店舗、2016年12月時点で60店舗)。アパレルの不調を飲食で補うのが狙いなのか。

野田: 飲食事業を始めた以上、従業員のためにもその事業を拡大することが経営側の責任。アパレルの景気が良くても悪くても、考え方は変わりません。あまりマーケティング的な視点からは飲食事業を捉えていないし、いい店ができれば自ずと成功すると考えています。現在、ベイクルーズの飲食事業は約70億円。グループ全体の売り上げが約1000億円なので、まだまだアパレルが9割以上を占めている状態です。ただ、飲食が次の事業の柱になってくるのは間違いないでしょう。

――飲食事業としての売り上げ目標は設定しているのか。

野田: 一応ありますが、あまり大きな数字ではありません。飲食業界全体から見ると、ベイクルーズの飲食部門はまだまだ。(上場していないため)株主にコミットする必要もないので、明確な目標は設定せず、好きなことをやってきたらこうなった。でも、このやり方がベイクルーズらしいと思います。

――利益を追求して効率化しすぎると、ベイクルーズらしさがなくなる?

野田: 全部そぎ落として効率化してしまうと、ほかの飲食店と同じ。それこそ大手チェーン店のようになってしまう。付加価値をつける、さじ加減が重要です。だから、紋切り型で店を増やすようなことはしたくない。

20代はファッションよりも食にお金をかける

――2000年に飲食業を始めて、10数年たっている。アパレルと飲食の違いについて、発見したことは?

野田: 個人的には、どんなビジネスでも「客が何に対してお金を払いたいと思うか」「その欲求をどのように満たすか」が基本で、そこにフィットした事業ができれば、売り上げは絶対に上がると考えています。しかし、飲食業をやってみて分かったのは、席数と客単価、回転数という初期設定を間違うと、いくら頑張っても利益を出せないということです。洋服はトレンドや何かのきっかけで売れ始めるとどんどん加速し、小さい店舗でも1日200~300万、セール時には500万円くらい売れることもある。でも飲食では1日の売り上げの上限が例えば30万円と決まってしまったら、そこからさらに売り上げを伸ばすには、単価を上げるか、回転数を上げるか、営業時間を延ばすかしかありません。つまり、最初の立て付けが重要。それが飲食の難しさでしょうか。

――では、アパレルと比べて、飲食ならではの面白みは?

野田: 私見ですが、飲食は客の反応が早い。アパレルは、ブランド価値を作り、上顧客を作ってリピーターを増やしていかないといけないので、時間がかかります。まれに「テレビドラマで俳優の誰々さんが着てたから、このニットが1日に200枚売れました」ということもありますが、持続性がない。せいぜい1週間くらいの話です。でも、飲食店は一度火がつくとそのままどんどん上がっていく傾向にある気がします。いい商品が開発できたり、メディアに紹介されたりすると、そのまま人気がしばらく継続する。人が人を呼んでくるというか、いい店があると誰かに紹介したくなる心理が働くのではないでしょうか。ただ、飲食はそんなにもうかるビジネスではないということも分かりました。もうけようと思ったら、もっとほかのビジネスがあると思います。

――では、なぜベイクルーズは飲食を続けるのか? その原動力は?

野田: まず、食に対してお金をかける人が増えていること。さらにアパレル、特に僕らがやっているようなセレクトショップは、30代から40代が中心で、客層が限られています。それに比べて飲食は年齢や性別を問わず誰もがターゲットになり、多くの人に喜んでもらえるビジネスだと思っています。

――20代はファッションにお金をかけない時代になっている?

野田: 今の20代は古着店やフリマアプリを上手に活用しているので、ファッションにお金をかける人は昔に比べて少なくなったように感じます。でも、新しいパンケーキ店を開くと、10代、20代はたくさんやって来ます。

一人しゃぶしゃぶはインバウンド狙い

――現在、アパレルブランドから派生したオリジナル業態とライセンス契約している業態があるが、さらに今後手がけたいと考えている分野はあるか。

野田: オリジナルが第1フェーズ、ライセンスが第2フェーズだとすると、今第3フェーズとして力を入れているのは、アパレルとひもづかず海外からの輸入でもない、全く新しいブランドを作っていくこと。その一つが、2016年に表参道にオープンした「しゃぶしゃぶ 山笑ふ」です。

 これまでは職人が必要という理由で、和食には手を出していませんでした。優秀な職人を採用し、和食店を継続的に運営していくのは難しい。職人に辞められたら、その店は成り立たなくなりますから。一方で、海外で飲食業を展開したいという思いもずっと持っていました。だから、和食の中でも客が自ら調理するしゃぶしゃぶなら海外で成功する可能性があるのではないかと考えました。海外、特に欧米の方は、みんなで一つの鍋をつつくのをとても嫌がる。だから、「しゃぶしゃぶ 山笑ふ」のように、一人鍋というスタイルが好まれるのではないか。実験も兼ねて、インバウンド狙いで表参道に出店しました。

一人用の鍋が、カウンターを囲むようにぐるりと配置されている。ランチはすき焼き(1450円)、牛・豚盛り合わせのしゃぶしゃぶ(1500円)、ディナーは黒毛和牛ロースのしゃぶしゃぶ(4800円)などがある
一人用の鍋が、カウンターを囲むようにぐるりと配置されている。ランチはすき焼き(1450円)、牛・豚盛り合わせのしゃぶしゃぶ(1500円)、ディナーは黒毛和牛ロースのしゃぶしゃぶ(4800円)などがある
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――実際に、海外からの観光客は入っているのか。

野田: かなり入っています。ただ、インバウンドでいえば、ルークスの表参道がもっとも多く、7割くらいが海外からの観光客。インバウンド向けのグルメサイトで評価が高いのが、要因となっているようです。

――しゃぶしゃぶ、ルークスに限らず、海外出店の計画は具体的にあるのか。

 

野田: 何年までに何店舗、というような事業計画は持っていません。ただ、飲食業はタイミング。いい物件が見つかれば考えるかもしれない。

今後は「専門店」を増やしたい

――物件といえば、表参道への出店が特に目立っている。この土地にこだわる理由は?

野田: ルークスの表参道店である程度の実績を出したので、物件の情報がよく入ってくるようになりました。2017年春には新しく海外から持ってくるブランドを表参道にオープンさせる予定です。

――中長期的にはこういう業態をやりたい、という理想はあるのか。

野田: 専門店を増やしたいと思っています。複合店というか、メニューがあれもこれもあるような店は魅力がない。そういう複合店は商圏が狭い。専門店なら顧客がわざわざそのために来るので。商圏の広がりと扱っているメニューの相関関係というのは、肌感覚的には身についたと感じています。

――具体的に、専門店にすると商圏はどれくらい広がる?

野田: ルークスであれば、商圏は中国にまで広がっています。一般的な話をすると、半径1キロ圏内であればあれもそれもそろっている店のほうが便利ですが、10キロ、20キロで考えると専門店でなければお客はとれない。あれもこれもある店に、20キロ先からわざわざやってこないのではないでしょうか。

写真/シバタススム
写真/シバタススム
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――アパレルの飲食参入というトレンドはまだまだ続くと思うか?

野田: 飲食は参入障壁の低い業界で、料理上手な女性がカウンターだけの店を借りて料理を作って出したら、小料理店として成立します。でも、アパレル企業にはもともと飲食を運営するスキルがないので、参入しても生き残るのはなかなか難しいでしょう。アパレルの仕事をしていると海外に行くことも多く、海外のエディターが教えてくれた地元の人気店に行ったりもします。そこで得た知見を、社会に還元したいんです。そうしないと、おいしいものを食べることができたという自己満足に終わってしまうので。それも、僕らが飲食をやっている一つの理由かもしれないですね。

(文/樋口可奈子)

 
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