まもなくバレンタインデー。義理チョコを廃止する企業もあり、職場で義理チョコを配る女性は約5割と減るなか、実はバレンタイン市場は緩やかに右肩上がりのカーブを描いている。

 ただし、残念ながら男性にとっては決してうれしい理由ではない。ここ数年、バレンタインは“女子”にとっての大事なイベントとなっているのだが、イコール男性にあげるという意味ではなく、女子同士が楽しむ“お祭り”と化しているのだ。

バレンタインは友チョコをあげる一大イベント

 いわゆる“友チョコ”を渡したり、一緒に食べたりする10代から20代前半の女子が増加していて、その背景にはSNS、特にインスタが大きく影響している。しかも友チョコの場合は市販のチョコレートを買うのでなく、チョコを手作りする女子が増えているという。つまり、“チョコをたくさん作って配る”ことを楽しんでいるというわけだ。

 「友チョコを配るのは、主に小学校3年生から高校生までの女子たち。小学生の場合、特にママたちが率先して子供たちとチョコ作りを楽しんでいる。10年くらい前にあった女子が男子にあげる本命チョコのバレンタインというのは、ほぼ消滅しているかもしれない」。そう話すのは、製菓・製パン材料のECサイトcottaを運営するTUKURU取締役の佐藤綾希子氏だ。

製菓・製パン材料のECサイト「cotta」
製菓・製パン材料のECサイト「cotta」
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 cottaの2017年度の売り上げは60億円で18期連続増収。地道にコツコツとSNSを活用して会員数やフォロワー数を着実に増やしている。現在、サイトの正会員は57万人、インスタのフォロワーは8万人を超えている。「バレンタイン」と検索をかければ、2017年まで1位だったクックパッドに代わり、今年はトップに躍り出るほどcottaの伸びは著しい。その秘密はバレンタインの人気レシピを数多く掲載させたことにも関係している。 

若年層の子供を持つママたちを狙ったcotta

 若年層の女子同士で渡し合う友チョコがブームになっていることに早くから目をつけ、cottaは直接子供たちを狙うのでなく、この女子たちのママに向けて商品の情報を提供するようにしていたという。女子同士で渡し合うときに重要なのは、いかに他人とかぶらないチョコを作るか。サイトのアクセス数が最も多いのもたくさん配れるチョコレートのレシピだという。

 佐藤氏によると、売れ筋のポイントは3つ。「かわいくて、量ができて、100均とかぶらないもの」。この時期、100円ショップでもバレンタイン関連の商品はすごく売れるが、同じ物を買っている女子が多いのも事実。cottaで人気が高いのは動物をモチーフとしたもので、中でもシリコンのクマの型はすごい売れ行きとのことだ。

クマの形をしたチョコレートができるシリコンのクマ型(697円)が大ヒット
クマの形をしたチョコレートができるシリコンのクマ型(697円)が大ヒット
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 「簡単だけどガーリーで圧倒的にかわいく、一度に10個以上できるものが人気。最近ではメッセージを入れられるチョコレートバーの型も売れている」(佐藤氏)。それをまたインスタにアップして、いいね!をもらう。それを見た女子がまた真似をして……とどんどんSNSで広がっていく。

インスタに載せるのは手作り菓子を自慢したいから

手作りのチョコレートやお菓子が次々と投稿されるcottaのインスタ
手作りのチョコレートやお菓子が次々と投稿されるcottaのインスタ
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 インスタとお菓子作りの相性は抜群で、2016年くらいから見栄えのいい華やかなお菓子を作る女子が増えたという。ラッピングも重要なアイテムで、あえて手軽にできるラフな商品が売れるそうだ。「ラッピング商品も本命向けのニーズは少ないのではないか」と佐藤氏は分析する。cottaのウェブサイトではラッピングアイデアも数多く載っていて、どれも女子が喜びそうなかわいいものが多い。

多種多様なラッピング素材があり、袋1枚から購入できる
多種多様なラッピング素材があり、袋1枚から購入できる
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 これだけだと、見た目だけ良くて味は?と心配になるかもしれないが、そこは製菓材料専門店だけあり、クオリティの良い材料がそろっている。cottaで扱っているのはカカオバター31%以上、総カカオ35%以上のクーベルチュールチョコレートのみだ。

お菓子オタクはワンランク上のチョコを配りまくる!

 そして、顧客にはもっと高級なプロ顔負けの材料を買う“お菓子オタク”の大人女子も存在するという。「お菓子作りにハマっている彼女たちは作ること自体が楽しいので、このときとばかりに友達や家族以外に宅配便のお兄さんや近所の人にも配ったりする。普段は食べる口が少なくて、困っている(笑)」

 製菓材料で2017年から特に売れ行きが伸びたのは、テンパリングが簡単にできる「マイクリオ」というカカオバターパウダー。テンパリングとは光沢があり、なめらかな口溶けに仕上げるためにチョコレートの温度を上げ下げして、中に含まれるカカオバターを安定した細かい粒子に結晶させるための温度調整のこと。これを使うことでプロに近いワンランク上のチョコ作りができるそう。

「マイクリオ(カカオバターパウダー20g)」(291円)
「マイクリオ(カカオバターパウダー20g)」(291円)
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 「今までは専門店や大型スーパーでないと買えなかった製菓材料が簡単に廉価で一つから買えると気づいた消費者がECにどんどん流れてきている」(佐藤氏)。cottaのウェブサイトへの来訪者は平均して毎月約80万人だが、バレンタインシーズンはいっきに2倍に増えるというから驚きだ。

リアル店舗からECまで展開する富澤商店

 ECサイトでcottaを追いかけ、急成長を遂げているのが、ECサイト事業クオカを2017年に譲り受けた製菓・製パン材料の富澤商店だ。こちらは1919年創業で東京の町田市の小売店からスタートし、2019年に100周年を迎える老舗商店。2015年12月にTOMIZブランドを立ち上げ、現在全国の大手百貨店や駅ビルなどで77店舗を展開している。

リアル店舗からECまで「TOMIZ」ブランドを展開する富澤商店
リアル店舗からECまで「TOMIZ」ブランドを展開する富澤商店
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 ECを導入したことによって、売り上げが9-12月の4カ月経過時点で前年比176.1%だというから、いかにECの需要が大きいかが分かる。こちらはインスタのフォロワーが1万4000人、ツイッターが1万人、フェイスブックは10万人だが、SNSの手応えを確実に感じていると富澤商店広報担当の横山英里氏はいう。クッキングスタジオを併設した店舗もあり、そこではプロのパティシエも実演するのだが、同社が開くレッスンには申し込みが殺到。一度参加するとハマり、何度でも女性がリピートするそうだ。

 「手作りのお菓子が家事を超え、ちょっと特別なこととして女性に受け入れられた気がする。しかも以前までは主婦層がメインだったのに、10代や20代の若い女性たちも参加するようになった。それは誰かにあげるためではなくて、SNSで見せるためだと思う」(横山氏)。簡単にできそうな30秒くらいのレシピ動画もネット上に増えてきて、手作りが身近になったのではないかと、横山氏は分析する。

 富澤商店のECサイトのメインユーザーは30代から50代で、人気の高いレシピはチョコレートテリーヌやガトーショコラだというから、こちらはいわゆる“大人のお菓子オタク”が多いといえる。ただこちらにも共通しているのは、本命チョコではなく、友チョコを作る人が圧倒的に多いそうだ。売れるのはハイカカオの商品でカカオ70%以上のチョコレート。バレンタイン時期になるとほかの月よりも売り上げが2割増しになるという。

お菓子を手軽に作る楽しさを広げていきたい

 「料理を作る楽しさを世界へ」をモットーにしている同社が、今年さらにそれを若年層に広めるために新商品として出したのが「クオカバレンタイン手作りキット(全8種類)」だ。

「ミニDECOカップケーキセット(できあがり量30個)」(2000円)
「ミニDECOカップケーキセット(できあがり量30個)」(2000円)
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「キャラメルくまちゃんマドレーヌセット(できあがり量20個)」(2000円)
「キャラメルくまちゃんマドレーヌセット(できあがり量20個)」(2000円)
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 材料からラッピングまですべて入っていて、1時間もあれば手軽にバレンタインのお菓子ができる。「親子で作業することによってコミュニケーションが取れて、料理の知識も増えるし、良い思い出にもなり、一石三鳥なのかもしれない」と横山氏はいう。表面にイラストが描け、インスタ映えもする「アイシング・クッキー」の売れ行きもいいそうで、こちらは若年層のユーザーが増えそうだ。

 常時1500種類以上と圧倒的な品ぞろえの富澤商店。一般消費者だけでなく洋菓子店などプロの人たちにも卸しているが、中身は全く同じであることから、cottaと同様にクオリティの高い菓子作りが楽しめるというわけだ。

 勢いを見せる、2つの製菓材料サイト。今後の課題について、cottaの佐藤氏はこう語った。「アマゾンがもたらした影響はとにかく大きい。ネットで最安値の商品がすぐ届くのが当たり前という状況に消費者は慣れてきているので、アマゾンに打ち勝つにはcottaでしか買えないものを作るしかない。主力商品はオリジナルのcottaブランドが3割を占めるが、将来的にはそれが全てになるようにしたい」。

(文/カニリカ)

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