レコチョクが2016年12月15日、フィーチャーフォン向け「着うた」「着うたフル」の楽曲配信を終了した。モバイル向け音楽配信の先駆者でもある同社の取り組みを振り返り、着うた・着うたフルが音楽配信にもたらした影響、そしてスマートフォン時代に入って大きく変化している、音楽配信の現在と今後を追ってみた。

「着うた」はモバイル音楽配信の先駆け

 NTTドコモがiモード対応の端末を、一部を除いて年内に出荷終了すると発表するなど、一時代を築いたフィーチャーフォン(従来型携帯電話、ガラケーなどとも呼ばれる)の終焉(しゅうえん)を感じさせる出来事が相次いだ2016年。その年の瀬を迎えた迎えた12月13日にも、フィーチャーフォンの終焉を感じさせる発表があった。それは音楽配信サービスを手掛けるレコチョクが、フィーチャーフォン向け「着うた」「着うたフル」の配信サービスを終了すると発表したことである。

着うた・着うたフルの配信終了を発表した「レコチョク」のWebサイト。スマートフォンやPC向けのサービスは継続している
着うた・着うたフルの配信終了を発表した「レコチョク」のWebサイト。スマートフォンやPC向けのサービスは継続している
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 スマートフォン時代に入り、モバイルで音楽をダウンロードし、楽しむという行為は一般的なものとなっている。だが実は、モバイルで音楽を楽しむという文化を作り上げることに貢献した企業の1つがレコチョクであり、レコチョクを抜きにして、モバイルと音楽の歴史を語ることはできないといっても過言ではない。

 レコチョクは元々2002年に、エイベックスネットワーク(現・エイベックス・ミュージック・クリエイティヴ)やソニー・ミュージックエンタテインメント、ビクターエンタテインメント(現・JVCケンウッド・ビクターエンタテインメント)など複数の国内レコード会社が出資し、「レーベルモバイル」いう名称で設立した。その設立間もないレーベルモバイルが注目された大きな理由は、今回終了を発表した「着うた」の配信を、2002年に他社に先駆けて開始したことだ。

 着うたは、サビの部分など30秒程度の楽曲の一部を、そのまま携帯電話でダウンロードして聴いたり、着信音に設定したりできるサービス。auが同社の3Gネットワーク(CDMA2000 1x方式)の高速性を生かしたサービスとして着うたを採用し、同時にレーベルモバイルは、その着うたを配信する「レコード会社直営」というサービスを立ち上げたのである。

レコチョクが「着うた」終了 モバイル音楽配信の行方(画像)
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初の「着うた」対応機種の1つである、auの日立製端末「A5303H」。当時テレビCMにも起用されていた、ケミストリーの楽曲の着うたがプリインストールされていた

 2002年当時は、通信方式も現在の「4G」の2世代前となる2Gが主流であり、データ通信も現在とは比較にならないほど低速で、しかも高額だった。そのため当時、携帯電話で楽しめる音楽といえば、“譜面”となるデータをダウンロードし、携帯電話側でそれを再生して音を鳴らす「着メロ」のみだった。30秒程度とはいえ、携帯電話だけで楽曲を直接ダウンロードして楽しめる着うたは非常に大きなインパクトを与え、人気となったのである。

音楽配信の主流となった「着うたフル」

 その後着うたはボーダフォンの日本法人(現在はソフトバンク)やNTTドコモにも採用され、3Gサービスの広がりとともに人気を高めていった。そして2004年には、auが「CDMA20001 1xEV-DO」というより高速な通信方式を導入したのに合わせ、楽曲の一部だけでなく、楽曲を丸ごと配信する「着うたフル」を開始。レーベルモバイルもいち早く着うたフル向けの楽曲配信を開始したのである。

 着うたはあくまで楽曲の一部に限られていたため不満を抱くユーザーも多かったが、着うたフルは文字通り、フルの楽曲を手に入れられることから、着うたより一層大きな注目を集めて人気となった。着うたフルの楽曲は1曲当たり200~400円程度と、「iTunes Store」など当時のパソコン向け音楽配信サービスなどと比べ高額で、著作権保護の観点などから楽曲データの取り回しが難しいなど、必ずしもユーザーフレンドリーとはいえない部分もあった。だがそれでもなお、携帯電話から直接利用できる手軽さで若い世代からの人気を獲得し、一躍音楽配信の主役に躍り出たのである。

 実際、日本レコード協会が発表している「日本のレコード産業 2015」を見ると、着うたフルを含む、フィーチャーフォンの「シングルトラック」の売上金額は、2005年には約72億円だったのが、最盛期の2009年には約494億円と、4年で7倍近くにまで拡大している。いかに着うたフルの市場が急速に伸びていったかが、理解できるのではないだろうか。

 着うた・着うたフルで人気となった楽曲も、そうした時代背景を大きく反映しているようだ。着うた・着うたフルの終了に合わせてレコチョクが公開した、フィーチャーフォンで人気のあった楽曲ランキングを見ると、1位がGReeeeNの「キセキ」、2位が青山テルマ feat.SoulJaの「そばにいるね」、そして3位がやはりGReeeeNの「愛唄」となっている。これらはいずれも2007~2008年に提供された楽曲であり、ちょうど着うたフルの市場が大きく伸びた時期にヒットしている。

 同様にアーティストのランキングでも、1位がEXILE、2位が倖田來未、3位が浜崎あゆみと、やはり2000年代後半に高い人気を博したアーティストが多く名前を連ねている。当時からCDの売上減少は叫ばれていただけに、こうしたアーティストの人気を、着うた・着うたフルの伸びで支えていたともいえるわけだ。

ケータイ 着うた・着うたフルランキング
ケータイ 着うた・着うたフルランキング
(レコチョク発表資料より)
ケータイ 着うた・着うたフルランキング
ケータイ 着うた・着うたフルランキング
(レコチョク発表資料より)

スマートフォンシフトで音楽配信市場は激変

 着うた・着うたフルの人気によって、音楽配信の主流はパソコンからモバイルへと大きくシフト。先の「日本のレコード産業 2010」によると、着うた・着うたフルが全盛期の2009年には「モバイル」の音楽配信が、音楽配信の売上金額全体の87%を占めており、音楽産業全体でも欠かすことのできない存在となっていたことが分かる。そうした流れを受け、同年にはレーベルモバイルも、サービス名を取り入れて現在の「レコチョク」へと社名を変更している。

 しかしながらその後、モバイルの音楽配信は劇的な市場変化に見舞われることとなる。それは言うまでもなく、2008年に「iPhone 3G」が発売されて以降、急速に広がったスマートフォンの影響だ。

 中でもスマートフォンブームの火付け役となった、iPhoneシリーズを提供するアップルの影響は大きかった。アップルは元々iTunes Storeを持っていたことから、他社がiOS向けにダウンロード型の音楽配信サービスを提供することを、実質的に認めなかったのである。後に国内で主流となったiPhone向けの音楽配信サービスを提供できなかったことで、多くの音楽配信サービスを提供する企業が、ビジネス機会を失ってしまったのだ。

 一方のAndroidに関しては、音楽配信自体は開かれていたものの、パソコン同様インターネット上の楽曲を自由にダウンロードできる、オープンな環境となっていた。そのため、これまでクローズドな環境で、著作権保護の仕組みがしっかり働いていたフィーチャーフォン上で配信ビジネスを手掛けていた、レコチョクをはじめとした多くの事業者は、環境の違いに苦戦することとなったのである。

 フィーチャーフォンユーザーの減少に加え、スマートフォンがもたらした一連のパラダイムシフトにのみ込まれる形で、着うた・着うたを主体としたモバイルの音楽配信市場は一気に衰退。「日本のレコード産業 2016」によると、2015年にはフィーチャーフォンの「シングルトラック」の売上金額は約16億円となっており、たった6年で最盛期の3%にまで激減したことが分かる。レコチョクが着うた・着うたフルのサービスを終了するに至ったのも、そうした背景が大きく影響しているのは確かだろう。

 しかしながら一方で、スマートフォン向けの音楽配信が急速に伸びたかというと、そうではない。同じく「日本のレコード産業 2016」を見ると、PC・スマートフォン向けの「シングルトラック」の売り上げは、現在もなおフィーチャーフォンの2006年時点の水準に及んでいないのだ。その要因はいくつかあるが、YouTubeで音楽を楽しむ人が増えるなど、スマートフォンによる自由度の高まりによって、無料コンテンツの利用が大きく広がったことも、少なからず影響していると考えられる。

楽曲ダウンロードを主体とした「シングルトラック」の売上推移(日本レコード協会「日本のレコード産業 2015」「日本のレコード産業 2016」を基に作成)。急伸した着うた・着うたフルの市場だが、スマートフォンシフトの影響で激減したことが分かる
楽曲ダウンロードを主体とした「シングルトラック」の売上推移(日本レコード協会「日本のレコード産業 2015」「日本のレコード産業 2016」を基に作成)。急伸した着うた・着うたフルの市場だが、スマートフォンシフトの影響で激減したことが分かる
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月額課金制サービスが今後の主流に?

 とはいうものの、フィーチャーフォンからスマートフォンへシフトする流れは変えられないことから、配信する事業者の側はここ数年来、スマートフォンに適した音楽配信サービスの開発を進めてきた。レコチョクの事例を挙げるならば、2012年にはNTTドコモと、月額課金制でテーマに沿った楽曲をラジオ感覚で楽しめる、ストリーミング型の配信サービス「MUSICストア セレクション Powered by レコチョク」(現在は「dヒッツ Powered by レコチョク」)を開始。そして2013年には、やはり月額課金制を採用したストリーミング型のサービスながら、多数の楽曲の中から好みの曲を選んで再生できる「レコチョク Best」を開始している。

レコチョクは2012年に、NTTドコモと「dマーケット」上のコンテンツ「MUSICストア セレクション」を開始。後に「dヒッツ」と改名し、dマーケットの主要コンテンツの1つとなっている
レコチョクは2012年に、NTTドコモと「dマーケット」上のコンテンツ「MUSICストア セレクション」を開始。後に「dヒッツ」と改名し、dマーケットの主要コンテンツの1つとなっている
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 そして現在、そうした月額課金制のストリーミングサービスが、モバイル音楽配信の今後の主流になるとして注目されつつある。実際、昨年5月にサイバーエージェントとエイベックス・デジタルが共同出資したAWAが運営する「AWA」がサービスを開始したのを皮切りとして、LINEの「LINE MUSIC」やアップルの「Apple Music」、そしてグーグルの「Google Play Music」など、月額課金制の音楽ストリーミングサービスが相次いで国内でのサービスを開始。数千万単位の楽曲を、スマートフォン上でストリーミング再生できる月額課金制のサービスが増え、人気を高めているのだ。

 また今年の9月には、同種のサービスの先駆けともいえる「Spotify」が、満を持して日本上陸を果たしている。Spotifyは既に海外で高い人気を獲得しているのに加え、月額課金制の有料サービスだけでなく、再生方法などに制約はあるものの、フルの楽曲が無料でも楽しめることから、やはりサービス開始当初より関心を集めているようだ。

今年の9月には、海外で人気の音楽ストリーミングサービス「Spotify」が上陸。有料だけでなく、無料でもフルの楽曲を楽しめることから注目を集めている
今年の9月には、海外で人気の音楽ストリーミングサービス「Spotify」が上陸。有料だけでなく、無料でもフルの楽曲を楽しめることから注目を集めている
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 月額課金制のサービスの人気が高まっていることは、数字からも見て取れる。「日本のレコード産業 2016」によると、PC配信・スマートフォン向けの、月額課金制を採用した「サブスクリプション」の売り上げは、2012年には約5億円だったのが、2015年には約123億円にまで急拡大している。

 月額課金制のサービスは、ユーザーにとっても多数の楽曲を、比較的リーズナブルな月額料金で楽しめるメリットがあるし、楽曲を配信する側にとっても、ダウンロード型とは異なり毎月安定した収入が得られるというメリットがある。加えて最近では、ソフトバンクの「ギガモンスター」に代表されるように、20GBもの大容量通信を月額6000円で利用できる、安価なデータ通信サービスも提供されている。そのため今後、月額課金制のサービスが、モバイルにおける音楽配信の主流になっていく可能性は高く、同種のサービス同士の競争が非常に激しくなるといえそうだ。

(文/佐野正弘)