ニュースフィードに表示する内容の選定や不適切な投稿のチェックなど、SNS全体の運営にAI(人工知能)を活用している米Facebook。米国など一部の国では、メッセンジャーアプリで会話中に、関連するサービスや製品を推測して提案するAIアシスタント「M」などもリリースしている。

 同社には、AIの研究者集団「Facebook AI Research(FAIR)」がある。FAIRの使命は、AIの最先端技術を研究し、社会全体のAI技術の底上げを図ること。利益は追い求めない。研究結果はオープンソースで公開しており、「必ずしもFacebookのために研究しているわけではない」とさえ言う。

 FAIRのAI開発責任者の1人で、エンジニアリング・マネージャーを務めるアレクサンドル・ルブリュン氏に、FacebookでのAI活用の現状と、先端技術の研究体制について話を聞いた。

Alexandre Lebrun(アレクサンドル・ルブリュン)Facebook AI Research(FAIR)のエンジニアリング・マネージャーであり、MessengerのAIアシスタント「M」などのプロジェクト責任者。ソフトウエア開発者を対象に、音声認識機能と自然言語処理技術を提供していた企業Wit.aiの共同創立者兼CEOを務めていたが、2015年1月にFacebookが同社を買収したのを機に、Facebookに入社した
Alexandre Lebrun(アレクサンドル・ルブリュン)Facebook AI Research(FAIR)のエンジニアリング・マネージャーであり、MessengerのAIアシスタント「M」などのプロジェクト責任者。ソフトウエア開発者を対象に、音声認識機能と自然言語処理技術を提供していた企業Wit.aiの共同創立者兼CEOを務めていたが、2015年1月にFacebookが同社を買収したのを機に、Facebookに入社した
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いまやAIなしにSNSは成り立たない

――現在、FacebookではAIをどのように活用していますか。

ルブリュン氏: Facebookでは安全なコミュニティーを維持するためにAIを活用しています。まずはコンテンツ・フィルタリング。例えば、Facebookには1日10億回の写真の投稿がありますが、これらにポルノや犯罪、暴力に関する写真が含まれていないかを随時チェックしています。また、自殺をにおわせるような投稿、フェイクニュースなどのチェックにもAIが登場します。

自殺をほのめかす投稿や動画内での発言を検知し、必要に応じてサポートする機能を米国で試験導入してきたが、それを世界展開すると11月に発表した。検知した投稿はFacebookの専門チームが確認し、必要に応じてサポートのメッセージを送ることもできる(米Facebookのリリースから)
自殺をほのめかす投稿や動画内での発言を検知し、必要に応じてサポートする機能を米国で試験導入してきたが、それを世界展開すると11月に発表した。検知した投稿はFacebookの専門チームが確認し、必要に応じてサポートのメッセージを送ることもできる(米Facebookのリリースから)
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 2つめは、コンテンツの選定です。Facebookのコンテンツは多すぎますからね。各ユーザーのニュースフィードに何を表示するかをランキングして表示するわけです。

 例えば、猫が好きな人のニュースフィードには猫を表示しますし、赤ちゃんの写真はもう見飽きたよという人には赤ちゃんの写真は表示しません。こうした機能を発揮するには、その写真の内容をよりよく理解する必要があります。そのためにAIを使っています。

 3つめは、割と最近、本番環境に導入したのですが、写真の内容を言葉で説明する機能です。例えば、この取材風景を写した写真なら、「会議室に男性が1人、女性が5人います、会議をしているようです、窓の外にはビルがたくさん見えます」などと表現します。視覚障害者の方などに役立つ機能ですね。

 Facebookではこれらの機能を実現するAIを段階的に導入してきました。大量の投稿を整理し、ユーザーに何を見せるかを判断するために使っています。現在のSNSはもはやAIなしでは存在できないといっていいでしょう。

Facebookに導入された写真の内容を説明する機能。写真の内容を自動で認識し、音声で読み上げる
Facebookに導入された写真の内容を説明する機能。写真の内容を自動で認識し、音声で読み上げる
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Facebookでは約120人の研究者が先端技術を研究している

――AIを活用しているFacebookの中で、FAIRはどんな役割を果たしていますか。

ルブリュン氏: FAIRの役割は先端技術を研究することです。FAIRの研究成果はオープンソースで一般に公開されています。

――将来的にFaceebookで活用するための技術を研究しているのですか。

ルブリュン氏: 必ずしもそうではありません。

 Facebookには、Applied Machine Learning(AML)、「適応する機械学習」のチームもあって、ここはFAIRよりももっと大きなチームです。彼らは、Facebookの本番環境に技術を実装するチームです。一方で、FAIRは純粋に研究をするためのチーム。チームとして「こういう分野を研究しよう」といった方針などは一切なく、研究者が必要だと思うこと、研究したいと思うことを研究しています。

 だから、FAIRの研究で得られた知見や技術は、Facebookが将来的に使うかも知れないし、使わないかもしれません。また、オープンな情報ですから、ほかの企業が使う可能性もありますね。

――Facebookの利益とは別に、AI技術の底上げを図るのが目的ということですね。FAIRには今、何人くらい研究者がいるのでしょう?

ルブリュン氏: 約120人です。ニューヨーク、パリ、カリフォルニア州のメンロパークに約40人ずついます。

FAIRをはじめ、Facebookの研究チームのウェブサイト。FAIRはサイトなどでも研究結果を公表している
FAIRをはじめ、Facebookの研究チームのウェブサイト。FAIRはサイトなどでも研究結果を公表している
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FAIRには約120人の研究者が在籍している(Facebook researchのウェブサイトから)
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――FAIRでは今、どんなことを研究していますか?

ルブリュン氏: 研究トピックはたくさんあります。例えば、動画認識はまだ難しいですし、自動翻訳についても、データが多い言語は妥当な翻訳ができますが、データが少ない希少言語は改善の余地があります。

 会話に関しても、まだまだ不十分です。チャットボットなどもありますが、まだインテリジェントとは言えません。より自然な会話ができるAIを作っていきたいと思っています。

 あとは、質問に答えられるAI。今、開発しているのがWikipediaの全記事を読み込んだAIです。このAIに何か質問すると、Wikipediaから関連する複数の記事を参照し、その情報を統合して答えを導き出すということもしています。

――なるほど。Wikipediaは百科事典のようなものですから、私たちが何かの事象について調べるときは、必要に応じて複数の単語を調べ、各単語の記事から得られた情報を総合して理解します。そうした作業もAIがやって、トータルな情報を教えてくれるということですね。

ルブリュン氏: はい、そうです。ただ、FAIRではアプリ開発までは考えていません。こうした研究の中で、十分な機能が得られれば、それを誰かがサービスとして活用するかもしれませんが。

アレクサンドル・ルブリュン氏
アレクサンドル・ルブリュン氏
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――これまでのFAIRの研究で、実用化されたものにはどんなものがあるんでしょうか?

ルブリュン氏: 自動翻訳とか、先にお話した画像の内容を説明する機能、FacebookメッセンジャーのAIアシスタント「M」の会話システムなどがそうです。

 それ以外にもたくさんのオープンソースを公開しています。例えば、「ファストテキスト」というものはテキストを理解して分類する機能で、世界5万以上のデベロッパーで使用されています。ウェブサイトのコメントのフィルタリングやスパムの排除などに使われています。これは、現在、Facebookに導入されているコンテンツ・フィルタリングの機能と非常に似ています。

――AIには期待が集まる一方で、「職を奪われるのではないか」「支配されるのではないか」といった脅威論を唱える人もいます。AIは今後、社会にどんな影響をもたらしていくでしょう。

ルブリュン氏: われわれはAIの研究をしていますから、AIに対してポジティブな考えを持っていますが、今のAIの状況は、クルマが発明されたときに似ているのではと思っています。クルマも最初は人々に怖がられたのではないでしょうか。危険なものだ、人を殺しかねないというようにね。でもその半面、クルマには速く移動できるという利点があります。それによって、救急車などはたくさんの人の命を救えるようになったわけです。いい面、悪い面があるクルマを使いこなすため、人間はルールを作りましたよね。お酒を飲んだら乗ってはいけないと決めたり、さまざまな標識を作ったりしました。

 AIも同じだと思います。AIが新しい可能性を人間社会にもたらすことは間違いありません。例えば、AIを活用すれば、人間にはもっと時間ができるでしょう。その時間で好きな人と過ごしたり、旅行に行ったり、好きなことができます。一方で、人間の働き方ががらりと変わってしまうということもあります。倫理的な面も含めて、話し合いやルール作りがこれから必要なのだと思います。

(文/平野亜矢=日経トレンディネット、写真/志田彩香)

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