メカトロニクス分野では日本が優位

 シンギュラリティーやAI、ロボットなどについて語られた書籍は無数にあるが、業界内にいる吉田氏の目から見ると、首を傾げざるを得ないものばかりという。しかし、鈴木貴博氏の著書である『仕事消滅 AIの時代を生き抜くために、いま私たちにできること』(講談社+α新書)は、唯一、「納得がいく論考がなされている」(吉田氏)と話す。

 壇上に現れた鈴木氏は冒頭で、「20年以内に日本人の仕事における49%がAIかロボットに置き換えられるだろう」というオックスフォード大学のオズボーン准教授の予想や「5年以内に15の先進国において、510万人分の仕事が消滅するだろう」という今年のダボス会議で発表された報告書を引き合いに、仕事消滅は「意外と早い時期に迫ってきている」と警告した。

 また、人工知能開発においては「GoogleやAmazonといった1兆円単位で開発投資を続ける海外企業に日本の国内企業が勝つのは難しいだろう」(鈴木氏)とも。

経営戦略コンサルタントである鈴木貴博氏。氏は大の野球ファンらしく、AIが囲碁の名人をねじ伏せたように、ソフトバンクのロボットが大谷翔平選手を三塁打で打ち崩す日が来るのが待ち遠しいという
経営戦略コンサルタントである鈴木貴博氏。氏は大の野球ファンらしく、AIが囲碁の名人をねじ伏せたように、ソフトバンクのロボットが大谷翔平選手を三塁打で打ち崩す日が来るのが待ち遠しいという
[画像のクリックで拡大表示]

 しかし同時に、お家芸であるメカトロニクスの分野においては日本は米国など他国の追随を許さないだろうという予想も披露。著書のタイトルともなった「仕事消滅」にしても、職を失うのではなく、ロボットで生み出された利益を適正に配分できるシステムを構築することで、「働かずに済む楽な暮らし」ができるものに変えられるはずであると鈴木氏は続ける。

 「日本をパラダイスにするためには、各企業が人の生活を楽にするような新たな仕組みの構築の研究に加えて、技術の進化にきちんと向き合い、その動向にきちんと追従していくことが大事である」として、鈴木氏の話は結ばれた。

シンギュラリティーに向け、先行者として利益を確保

 シンギュラリティーに向けて、AIやビッグデータの活用がいよいよ加速していくが、そこで重要となるのが、それらの活用ノウハウだ。特に大事なのはAI構築のベースとなるビッグデータの収集だ。これは早ければ早いほどより多くのデータを集めることができ、精度の高い結果を生み出す基礎となっていく。

 基調講演の締めとしてマイクを取った吉田氏は、こうした先行者利益こそがこれから大事であり、「シンギュラリティーへの対応も早いに越したことはない」と強調した。日本は他の先進国に比べ、労働力の減少や高齢化などの課題がいち早く表出している「課題先進国」であるが、これは逆手に取ることで大きなアドバンテージとなりうる。

 時期はともかくAIやロボットによるビジネスモデルの崩壊は世界的に避けられないが、「少なくとも日本は世界のなかでも格段にロボットを受け入れやすい土壌がそろっている」(吉田氏)という。世界に先駆けてロボットとの共存を図った社会を構築することで、日本はシンギュラリティー以降、先行者利益を享受するポジションに着けるはずだ。「ロボット革命で人々を幸せに」というスローガンを掲げ、この日の基調講演は幕を閉じた。

(写真・文/稲垣宗彦)