スマートフォンでの“自撮り”が全盛の昨今、20代の女性を中心に大ヒットしているアプリがある。サイバーリンクの子会社、パーフェクトが提供する「YouCam(ユーカム)メイク」というバーチャルメークアプリだ。アプリ内でアイシャドウや口紅などのメークグッズを選ぶと、スマートフォンのインカメラに写った顔にリアルタイムでメークを施して、写真や動画を撮影できる。あらかじめ撮影しておいた写真にメークすることも可能だ。

 2014年8月のリリースから2年ほどの間に世界で合計2億ダウンロード、国内だけでも330万ダウンロードを突破。月間のセッション数は270万セッションと使用率も高い。

元のサンプル写真。画面下のリストからメークパターンを選択する
元のサンプル写真。画面下のリストからメークパターンを選択する
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1940年代の女優風メーク「40sメイク」を選んだ。写真にメークするだけでなく、インカメラで写した自分の顔にもリアルタイムでメークできる
1940年代の女優風メーク「40sメイク」を選んだ。写真にメークするだけでなく、インカメラで写した自分の顔にもリアルタイムでメークできる
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 YouCam メイクは単なる自撮りアプリや画像加工アプリではなく、化粧品ブランドとコラボして、化粧品に関する情報収集、情報発信の場にもなっているのが特徴だ。かわいく加工した自撮り写真をシェアすることはもちろん、有名化粧品ブランドの新製品をアプリ上で好きなだけ試すことができる。また、ユーザー自身が自分が使用しているメーク用品の情報やハウツーを発信できるソーシャルメディア機能も持っている。

 YouCam メイクの機能やビジネスモデルなどについて、パーフェクトの磯崎順信社長と営業担当の中川良子氏に聞いた。

PCソフトの画像処理技術を無料のアプリに投入

 You Camメイクは、カメラに映った顔を自動で認識してメークを施せる。昨今、LINEのグループ会社であるSNOWが開発した「SNOW(スノー)」など、顔を認識してスタンプやフィルターを重ねられるカメラアプリが流行しているが、YouCam メイクは「いかにも合成」という感じがなく、自然な感じでメークの色が重ねられる(関連記事:なぜ自撮りSNSが「50代男性」にヒットしているのか?)。現実世界の映像に対して付加するという意味では、AR(拡張現実)の一種としても面白い。

バーチャルメークアプリが20代女性に人気のワケ(画像)
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バーチャルメークアプリが20代女性に人気のワケ(画像)
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インカメラに自分の顔を写し、リアルタイムでメークできる。分かりやすいように派手めのメークを施してみた。左がメーク前、中がガッツリメークの「クレオ」、右がアジア風。いずれも加工は自然だ

 そもそも、YouCam メイクはどのようにして成長してきたのか。「親会社である台湾のサイバーリンクは、日本でも『PhotoDirector』や『PowerDirector』などパソコン用の画像編集ソフトで知られている会社。サイバーリンクとして20年間培った画像処理技術を、モバイル分野でも生かそうとしたのが企画の始まり」と磯崎氏は言う。

 ちょうど「Instagram」などのSNSで“自撮り(セルフィー)”の文化が盛り上がってきたことに目をつけ、サイバーリンクが持っていたゴミや傷の除去機能、美顔・美肌機能をスマホアプリ用にパッケージし直した。そうして2014年3月に第一弾となるカメラアプリ「YouCam Perfect」をリリース。「あくまでも模索の過程だったので、そこまで期待していなかったが、これが思いのほかヒットした」(磯崎氏)。

 時期を同じくして、スマホアプリの市場では自撮り写真にメークを施すバーチャルメークアプリが登場していた。だが、磯崎氏たちがそれらを見たとき、合成独特の「ペタッと感」があり、自然に感じられなかったという。

 「当社ならもっと徹底的に自然にできる」(磯崎氏)ということで、同年の2014年8月に今度はYouCam メイクをリリース。これもまた予想を上回るヒットとなる。「サイバーリンクの製品のメインユーザーは“アキバ系”を中心としたパソコンに詳しい男性。これに対して、YouCam メイクのユーザーは、F1層(20~34歳の女性)が中心」(磯崎氏)。実に6割が24歳以下だという。ベースの画像処理技術はサイバーリンクの製品と共通だが、ターゲットは180度異なる新しい市場の開拓に成功した。これを機に、サイバーリンクから分社化し、パーフェクトになったのだそうだ。

有名ブランドとのコラボで人気を拡大

 YouCam メイクの大きな特徴は、化粧品ブランドとのコラボレーションだ。2015年のレブロンを皮切りに、現在は資生堂の「MAQuillAGE」(マキアージュ)や「MAJOLICA MAJORCA」(マジョリカ マジョルカ)、花王の「AUBE couture」(オーブ クチュール)、イヴ・サンローラン・ボーテやジル スチュアートなど、マスカラ、ネイル、カラーコンタクトまで含めると国内26ブランドがYouCam メイクに参加している。

 You Camメイクをリリースした当初は、自撮りアプリということで、自社でつくったメークのパターンだけを用意していたというが、リリース後1年で10ほどのブランドとのコラボが決まった。今では、人気ブランドの新製品をバーチャルに試せるという用途で存在感を発揮し始めている。

ブランド一押しのメークのパターンや、新製品の色合いを試すことも可能
ブランド一押しのメークのパターンや、新製品の色合いを試すことも可能
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 コラボでは、各ブランドから新製品のサンプルをもらい、パーフェクトのデザイナーがそのブランドのメークが画面上で再現されるように色味を調整してメークパターンを作成する。そうしてつくったメークパターンを一人ひとり違った顔にのせるには、サイバーリンクが開発したセキュリティー用の顔認証技術を応用している。100カ所を超えるキーポイントで顔のパーツを認識し、眉毛よりもアイシャドーがはみ出すことがないようになどコントロールしている。

 女性ならよく分かると思うが、国や地域、ブランド、シーズンによってメークのトレンドは全然違う。例えば、北米ならセレブ風メーク、韓国ならオルチャンメークなどが人気だ。日本ではふんわりと女の子らしいメークが人気だが、これは特にチークを入れる位置が独特なのだとか。アイシャドーをぼかす位置、アイラインをのばす長さなども異なってくる。このため、メークパターンをつくる際は、ブランドと密にコミュニケーションをとり、色を入れる座標を調整していくそうだ。ただ、「今は、設定の蓄積がある。完全に一からではなく、ある程度近いメークパターンを基に調整することで、季節ごとの新色にも速やかに対応できるようになった」(磯崎氏)。

100カ所近い点で顔のパーツを認識し、適切な場所に適切な色をのせていく。若干位置がずれたときには、「微調整」のボタンを押せば、顔のパーツを認識するキーポイントを動かせる
100カ所近い点で顔のパーツを認識し、適切な場所に適切な色をのせていく。若干位置がずれたときには、「微調整」のボタンを押せば、顔のパーツを認識するキーポイントを動かせる
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化粧品ブランドと潜在顧客との出会いの場に

 YouCam メイクとコラボする化粧品ブランドが狙うのは、新規顧客との出会いだ。「YouCam メイクには多数のブランドが集まっている。ユーザーはアプリのコンテンツをぐるぐる回遊する中で、今まで使ったことがない新しいブランドと出会うきっかけになる」(中川氏)。

 化粧品ブランドがこうした新規顧客との出会いを求める背景には、今の化粧品業界の課題が隠れているのだという。それは、若い人が百貨店の化粧品売り場に来ないことだ。

 かつて、化粧品ブランドの営業の最前線は、各ブランドが設ける接客カウンターだった。高級ブランドならば、高級感や特別感を売りにして、顧客を囲い込んでいた。だが、今の若い世代はそういった特別感を敬遠する傾向がある。

 そんな中で、「今の化粧品メーカーの課題は、いかに若い女性の『マインドシェア』をとるかだ」と磯崎氏。磯崎氏によると、女性のメーク市場は2020年までに7%減るといわれている。数年後、今の20代が購買力をつけたときに憧れのブランドとしていられるかは、各化粧品ブランドにとって重要なのだ。

 若い女性でも気軽に立ち寄れるよう、自由にサンプルを試せるセミセルフの業態を取り入れる高級ブランドも出てきているが、自宅にいながら新製品を好きなだけ試せるYouCam メイクならば一層カジュアルだろう。「例えば、あるブランドから30色のリップが発売となったとき、すべてを店頭で試すのは難しい。でも、アプリを使って自分の顔で試し、ある程度絞り込んでから店頭に行けば選びやすくなる」(中川氏)。製品によってはYouCam メイクアプリから通販サイトにアクセスし、そのまま購入することもできる。いくつも試せるからこそ、2個買い、3個買いする人も多いという。

 一方のメーカーにとっては、マーケティングツールとしてのメリットも大きい。YouCam メイクではユーザーが試した商品や色のデータをビッグデータとして蓄積している。そのデータから、ユーザーの人気の傾向が分かるからだ。

パーフェクトの磯崎順信社長(右)、ビジネス デベロップメント マネージャーの中川良子氏(左)
パーフェクトの磯崎順信社長(右)、ビジネス デベロップメント マネージャーの中川良子氏(左)
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SNSが活性化、ただの自撮りアプリではない

 化粧品ブランドとのコラボレーションのほかにもう一つ、YouCam メイクの成長をけん引してきたのが、「Beautyサークル」というSNS機能だ。磯崎氏は、「目指しているのはメディア化。純粋なカメラアプリではなく、情報共有、情報発信の場として発展することを意識している」と話す。

 Beautyサークルでは、YouCam メイクでメークを施して自撮りした写真をシェアできる。シェアした写真には、使用したメークパターンやファンデーション、アイシャドー、口紅などの製品の名前や色番号などの情報が付加される。このほか、ユーザーがほかのウェブメディアなどで見つけたファッションやメイクのハウツー記事などをコレクション、シェアすることも可能だ。つまり、ユーザー自身が自分のメークセンスを披露したり、メークに関する情報や口コミを共有したりできるのだ。

ビューティーサークルで公開されているメークのパターン。「この人のメークが素敵だな」と思ったら、アプリ上で自分の顔で試せて、使われている商品や色が分かる
ビューティーサークルで公開されているメークのパターン。「この人のメークが素敵だな」と思ったら、アプリ上で自分の顔で試せて、使われている商品や色が分かる
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バーチャルメークアプリが20代女性に人気のワケ(画像)
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バーチャルメークアプリが20代女性に人気のワケ(画像)
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自分でメークを施してシェアすると、使用した化粧品の情報も公開される

 「われわれが目指すのは、モバイル上でビューティー・ファッションに関して“知る”“試す”“買う”を完結できるプラットフォーム」と磯崎氏は言い切る。中川氏も、「ユーザーの6割が24歳以下、8割がF1層以下で、しかもメークが好きというターゲッティングができているメディアはほかにほとんどない。コスメ好きな若い方にグサッとささる」と自信を示す。

プロ向けにパソコン用ソフトも発売

 今年の夏以降は、化粧品ブランドからから得るYouCam メイクの掲載料に加え、運用型広告やブランドとのコラボレーションにも力を入れ、順調に収益を伸ばしているそうだ。

 さらに、YouCam メイクの人気を受けて、2016年8月にはサイバーリンクからパソコン用ソフト「MakeupDirector」(5980円、税込み)も発売された。こちらはメークのプロ向けで、アプリよりも細かくメークの調整ができる。想定される用途は広告用ビジュアルの作成やモデル撮影のレタッチ、化粧品の通販サイト用のサンプル画像作成など。美容専門学校の先生が教材の作成に利用したいなどのニーズもあったという。

 中川氏は「以前にプロのメークアップアーティストとコラボしたとき、とても感動してもらえた。そのとき、これは加工して遊ぶだけのアプリとは違う、いろんなニーズを満たせるツールなんだと確信した」という。

 YouCam メイクの後に続けとばかりに、他社の参入も始まった。2016年10月にはLINEも「LOOKS」というアプリを公開した。こちらもバーチャルメークが施せる自撮りアプリ。化粧品を試して購入できるなど、サービス内容は非常に近い。コラボしている化粧品ブランドはまだ少ないが、「クリニーク」や「ディオール」や「M・A・C」など有名ブランドが参加しており、今後、企業間の競争も活発になりそうだ。

(文/越智理奈)