インターネット回線を介し、パソコンやスマートフォンでラジオが聴けるサービス「radiko」で、2016年10月11日から「タイムフリー聴取」機能の実証実験が始まった。聞き逃したラジオ番組を、放送後1週間に限り無料で聞ける。

 radikoは元々、難聴取エリアでもラジオが聞けるようにするためのサービスだ。2010年12月に本格運用がスタートした。その後、リスナーの要望を受け、2014年4月からは月額350円で日本全国のラジオ局の放送を聞ける「エリアフリー」機能を提供。放送エリアの制限がなくなり、以前住んでいた地域の番組や、好きな芸能人が出演するローカル番組などを聞けるようにした。

 それに今回、タイムフリー機能が加わった。エリアフリーと並んで、リスナーから要望が高かった機能だそうだ。まだ実証実験ではあるが、これで放送エリアだけでなく、放送時間による制限もなくなる。radiko 業務推進室長の青木貴博氏によると、最大の目的は「ラジオリスナーを増やすこと」だという。まずは、仕事などでラジオ番組をリアルタイムで聴けない人、聞き逃してしまった人にラジオを聴いてもらう機会を増やす。

radikoアプリなどを立ち上げ、「タイムフリー」タブでは、過去1週間にさかのぼって日付とラジオ局を指定し、ラジオ番組を聴ける
radikoアプリなどを立ち上げ、「タイムフリー」タブでは、過去1週間にさかのぼって日付とラジオ局を指定し、ラジオ番組を聴ける
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 さらに、SNSを通じたラジオや番組の認知向上も狙う。聴取中の番組の画面には「シェア」ボタンを設置し、LINEやTwitter、Facebookに簡単に投稿したり、「URLをコピーする」からブログなどに番組URLを貼り付けたりできるようにした。特徴的なのは、ほかの人に聴いてほしい部分をピンポイントで指定してシェアできること。数時間に及ぶような番組でも、面白かったシーンを選んで拡散できる。

聴取中の番組の画面に「シェア」ボタンを設置した
聴取中の番組の画面に「シェア」ボタンを設置した
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ラジオのタイムシフトでSNSの番組「拡散」急増中(画像)
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ラジオのタイムシフトでSNSの番組「拡散」急増中(画像)
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「シェア」ボタンをタップすると、シェアしたいポイントとSNSを選んで投稿できる。画面はTwitterの例。別のユーザーがURLをタップすると、シェアしたユーザーが指定したポイントから再生される

 実証実験開始から日は浅いが、すでに効果も出始めている。「放送後に、『これ、面白かったよ』と口コミでラジオ番組が拡散されるようになった」と青木氏。従来は、ラジオ番組を聴いて面白いと思った人がその番組のことをつぶやいても、放送が終了してしまえばほかの人が後から聴くことはできなかった。だが現在は、放送から1週間以内なら聴くことができる。放送局や出演者にとっても、放送後にも宣伝ができるメリットは大きい。

ラジオ×SNSで若者を呼び込む

 radikoが特に期待するのが、若年層への訴求効果だ。若者に深夜ラジオが人気だった1960年代後半から半世紀。現在、radikoのユーザーは40歳代、50歳代、30歳代の順に多く、最も少ないのが10歳代という構成だ。ビデオリサーチの調べによれば、35~49歳のラジオ番組聴取率が6%前後であるのに比べ、12~19歳の聴取率は1%台と低い。

 「若年層にどう切り込んでいくかは、ラジオ業界全体の課題。若い人はSNSで友人とやりとりする機会が多いので、その会話にラジオの話題が乗るようになることが重要と考えた。高校生や大学生のリスナーがラジオ番組についてSNSに投稿すれば、その友人たちにとっては一般的な広告以上に影響力のある宣伝になるはずだ」(青木氏)。

 すでに導入していたエリアフリーが有料なのに対し、タイムフリーは無料にしたのも、SNSからの新規リスナー層の取り込みを意識したからだ。「せっかくシェアされたラジオ番組に興味を持ち、URLをクリックしても、有料だったりユーザー登録が必要だったりすると、再生するのをあきらめてしまう人が多いだろう。その機会損失は、ラジオ業界にあってはならないもの。デパ地下の試食のように気軽に利用できてこそ、興味を持ってもらえる」(青木氏)。無料で利用できるタイムフリー機能が浸透すれば、動画サイトなどにラジオ音源を違法にアップロードする人や、そうした音源を聴く人も減っていきそうだ。

 なお、タイムフリーの実証実験に期間は設定していない。利用者数や、利用者数に応じて必要になるシステムの規模(サーバ負荷など)、コンテンツがどう利用され、どう広がるのかなどを把握すると共に、新たな課題を見出していく。2016年内にはユーザーアンケートも実施予定であり、放送局へも随時、ヒアリングする予定だ。そして、無料のまま、タイムフリー機能を本サービスへ移行したい考えだ。現在のところ、一部の番組が、タイムフリー機能を含め、radikoのサービスに対応していないが、それについても「いずれはすべての番組がradikoで聞けるようになることを目指す」(青木氏)とする。

radiko 業務推進室長の青木貴博氏
radiko 業務推進室長の青木貴博氏
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次の一手は「使い勝手」の向上

 ラジオファンの中には、ラジオの魅力は、放送エリアに密着した内容や放送時間と相まって醸し出す番組の雰囲気にあるという人もいるだろう。また、視聴者が多いテレビよりも自由に話せると感じる出演者も多いという。エリアフリー機能、タイムフリー機能が導入されたことで、ラジオ番組の作り手側も「全国向け」を意識したり、後々まで聞かれることを前提に、穏当な内容を心掛けたりすることになるのだろうか。

 青木氏は「それはあくまで番組制作サイドが考えること」と前置きした上で、次のように私見を述べた。「発言を柔らかくする人や、地元色を弱める人も出てくるかもしれないが、ラジオの面白さはどこにあるのか、本質に立ち返れば答えはおのずと出る。今年はプロ野球セ・リーグで広島東洋カープが優勝した。ファンの気持ちに寄り添った野球中継を求めて、広島の放送局『RCCラジオ』を選んで聞いたファンも多かったはず。地方のラジオは地方らしさがあってこそ、全国から求められるコンテンツになるのでは」。

 放送時間が内容に与える影響についても、「深夜番組はやはり深夜に聴くのがいい。まずはタイムフリーでラジオに触れ、ラジオはリアルタイムで聴くのが一番楽しいとリスナーに気づいてもらえれば」と話す。

 エリアフリー、タイムフリーと、いずれもユーザーの要望が強かった機能を実現してきたradiko。今後はユーザーインターフェース(UI)の改良に力を入れるという。「ラジオを楽しむ上で必要な基本機能は、エリアフリーとタイムフリーで実装できた。今後は例えば、ユーザーが登録したキーワードに関連する番組の放送予定や放送1週間以内の番組をピックアップする機能の新設など、使い勝手を改良していきたい。スマホ用アプリのUI改良も含め、継続的に取り組んでいくテーマになると思う」(青木氏)。

 最近は、SMAPのメンバーやベッキーなど、話題を集めた芸能人がラジオで心情を吐露する例が相次ぎ、テレビや活字では語られない話が聞けるメディアとしてラジオに注目する人も増えている。口コミや聴取が簡便になって、新たなユーザーを獲得できれば、ラジオ文化の再興につながりそうだ。

(文/赤坂麻実)

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