Pepperにしかできないのは「背中をかくこと」

津田: 握手のしすぎで手が壊れてしまうといったハードウエアの問題、置かれる環境によって会話がしづらいというセンサーやスピーカーにまつわるコミュニケーションの問題、それと全体を制御するソフトウエアの問題。お話をうかがってみて、Pepperが今より進化するための課題は大きく分けるとこの3つになるかと思うのですが、解決に一番苦労されているのはどれでしょう?

蓮実: ケースによりますが、ハードウエアは比較的に解決策を見つけやすい問題が多いですね。ほかの2つはどうかというと、Pepperをどう使いたいかという人間側の問題とも言えるんです。

津田: アップルのApp Storeができた直後、エンジニアはどんなアプリを作ればいいのか悩んでいました。それと同様、想像力が及んでいない状態なんでしょうね。

蓮実: まさにその通りだと思います。ロボットを使えるものにするにはどうすべきか、何が必要かを具体的にイメージできる人がまだほとんどいないんです。

 もちろん僕らがハードウエアの性能を高めることも大事ですが、一方でこの大きさで手足が付いていることの意味をきちんと考えるのも重要です。

 例えば、新入社員に「Pepperにしかできないことを3つ考えろ」と出題すると、よほど優秀な人間でも3つは思いつきません。というのも、たいていのことはPepperでなくともスマートフォンやタブレットでできてしまうんです。

 僕がこのときに例として挙げるのが「背中を気持ちよくかいてくれる機能」。「ここですか?」とユーザーと会話しながら、かゆい場所を見つけ、そこをかいてくれる、と。これはスマートフォンでは絶対にできませんよね。

手があるPepperだからこそ、できることを考えるのが重要
手があるPepperだからこそ、できることを考えるのが重要
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津田: 手があるからこそですね。そういう意味では、ハグなんかも手があるからできますね。

蓮実: そこなんです。「背中をかく機能」は冗談と受け取られがちですが、半分以上は本気。三次元の体を持っていることが親しみや楽しさを増強してくれるので、そんな用途に向いています。例えば売り場に立つ「Pepper」からかわいく商品を薦められたらつい買ってしまう、なんていうことも起こったりする。

 逆に、顔認識なんて、高性能カメラとスマートフォンがあればよっぽど高速で高精度のものが実現できます。便利さや即応性を求めるような用途にヒューマノイド型のロボットは向きません。

津田: ロボットの用途としては、人口が減った地方都市での顧客サービスとか、独居老人の介護や見守り、コミュニケーションの相手としての可能性が語られたりすることが一般的には多いですよね。

蓮実: 一般の人向けにはまさにそういった用途が分かりやすいですよね。ほかには介護施設など、コミュニケーションが重要な意味を持つ場所では活躍が期待できます。受付業務なんかでも、スピーカーから「いらっしゃいませ」と音声が流れてくるよりも、「Pepper」がお辞儀をしたほうがより親しみを感じやすくなるでしょう。

 発売から今までの時間をかけて、ようやくPepperのようなロボットの得意分野、不得意分野が見えてきました。こうしたロボットならではの使い方を提案したり、逆にユーザーに思いついていただく環境を整えたりすること、そしていかに新たな得意分野を見つけていくかが、今、取り組んでいることであり、開発上、最も難しいと感じている部分ですね。

津田: ところでPepperは背中を上手にかいてくれるようになったんですか?

蓮実: 試してみたんですが、あまりうまくいかないので、自分で動いて位置を合わせるようにしています(笑)。

津田: でもそれこそロボットなんですから、背中をかくことに特化した手につけ替えるといった方法もアリですよね? 人間でないからこそ拡張性という強みを持たせられる。

蓮実: さすがですね。まさにその通りで、人間に限りなく近づけていくことに実用面での意味はあまりないんですよ。人間に近づけないとできない仕事は人間がすればいいわけですから。それでもPepperが人間に近い姿をしているのは「そのほうが人に好かれるから」です。

 人に好かれる外観を持たせた上で、足りないところはソフトウエアなら専用アプリやアドオンの開発、ハードウエアならアタッチメントでの拡張やリプレースで対応すればいいというのが僕らの考え方です。やっぱり最後は「Pepperみたいなロボットに何をさせたら面白いか?」という発想が勝負なんですね。