ソニー・ミュージックエンタテインメント(SME)がAI(人工知能)に個性や人格を確立させ自由な対話を可能にするシステムを2018年11月から提供する。認識モデルAIシステム「OMOHIKANE(オモイカネ)」は、言葉に内包された「欲求」をくみとり、感情や記憶を経験として蓄積する仕組み。対話AIのコミュニケーション・プラットフォームの開発・運用を行うemotivEが開発した。同社と今後設立予定の新会社PROJECT Samanthaを通じて、AIキャラクタービジネスを展開したい企業などに売り込む。

 SMEはAIを活用したキャラクタービジネスを、同社が2015年から始めたアプリサービス「めざましマネージャー アスナ」などで続けてきた。こうした中でAIをキャラクタービジネスに生かすポイントが見えてきており、新サービスに踏み切る。人格を保ち会話する「自由対話AI」と、声優の声で自然な発話をつくる「音声合成」。この2つのテクノロジーを掛け合わせることで、AIキャラクタービジネスは今後どう展開するのか――SMEが主催し9月19日に開催されたセミナー「AI MEETUP 2 ~AI キャラクタービジネス最前線~」にその可能性が見て取れる。

AI MEETUP 2が開かれた当日、会場は満員だった
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 機械=ロボットと会話ができる技術にキャラクターを掛け合わせることで、「キャラクターと会話ができる」という付加価値を与える「AIキャラクタービジネス」。昨年も開催され、第2回となったセミナーで話題の中心となったのは、進化した「自由対話AI」と「合成音声」が組み合わせ可能になること。そしてそこから発展するビジネスについてだ。

 第1部は、ゲームAIの第一人者である三宅陽一郎氏が、「なぜ人工知能は人と会話をできるのか」をテーマに登壇した。三宅氏は、今後の日本のキャラクタービジネスにおけるAI活用について、大きく3つのポイントを紹介した。

 1つ目のポイントは、AI=人工知能の捉え方には、宗教観が影響するということ。欧米では、神の下に人が、人はその下に位置するAIを「従える」というタテの概念がある。一方、日本では「八百万の神」という土壌があり、あらゆるものに神を投影し、並列に考えるため、ヨコの概念となる。人型でないキャラクターを「仲間」として対等に捉える日本人の感性は独特のもので、「海外ではウケない」と三宅氏。日本の、あらゆるものに神を投影する風土はある種「擬人化」であり、人ならざるものが「言葉」を持つことへの抵抗感が海外より少ないものかもしれない。三宅氏は「日本の世界観は、一世を風靡したペット型ロボット「AIBO」、音声合成ソフト ボーカロイドの「初音ミク」や、人、神までも同列とする『懐の深さ』がある」と述べた。

第1部に登壇した三宅氏。AI技術とキャラクタービジネスの相性の良さなどを指摘した
第1部に登壇した三宅氏。AI技術とキャラクタービジネスの相性の良さなどを指摘した
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 2つ目は、AI技術が日本のキャラクター文化と相性がいい点。AI技術では海外に先を行かれているが、日本は「キャラクターという土台からAIを展開できる」(三宅氏)。日本の街には、メッセージを代弁する「言葉を話す」デフォルメされたキャラクターが溢れており、日ごろから無意識にキャラクターに触れているからという。

 3つ目のポイントについて三宅氏は、「AIキャラクターに息を吹き込むことは、執着を持たない機械に“煩悩”を持たせること」とたとえた。無意識のうちに人は、言語によって物事を理解し、言語のバリエーションを増やすことで、世界を細かく認識していく。AIにとって、「『言葉』の引き出しの量はそのまま『感情』につながると言える」という。AIキャラクターに物語を動かす動機を与えるには、AIに学習させる「言語構造」の分解精度を高め、「執着」を理解させる必要があるとのこと。三宅氏はそれを「もともと解脱した状態にあるAIを堕落させる作業」と表現し、会場を沸かせた。それが人間らしさであるとは皮肉だが、セミナーのメインテーマである「AIキャラクタービジネス」は、こうした日本の土壌があってこそ成り立つ、いわばガラパゴス的進化を遂げた市場とも言える。

AIとの会話は「愛」と「欲望」がカギ

 第2部は、「音声合成と自由対話AIが切り拓くAIキャラクタービジネス」をテーマに、ソニー・ミュージックコミュニケーションズの松平恒幸氏、SME井上敦史氏、emotivEの結束雅雪氏が登壇。「Xperia Ear」や「バーチャルアナウンサー沢村 碧」の音声データを担当する寿美菜子さんをゲストにクロストークを展開した。

 AIは会話を重ねることで学習し、対話精度が向上していく。しかし、人がAIに「飽きずに」話しかけ続けるには多くの動機が必要になる。それを解決するのがキャラクターだという。SMEがこれまで展開してきたAI×キャラクター事業から明らかになった例から読み解くと、どうやらキーワードは「愛」と「欲望」のようだ。

 井上氏は、2018年にマルイとのコラボ企画で実施した対話型AIサービス「罵倒少女:素子」の例を挙げてこの点を指摘する。利用者がサイトを通じてAIキャラクターの素子(もとこ)と会話できるという企画だったが、ユーザーが入力した上位10位の言葉に、「愛している」「好き」などがランクインした。「人はAIに愛をささやく」生き物であり、「30分以上会話を続けたユーザーは1万人以上、好きなキャラクターと話したいという欲求は強いモチベーションとなる」(井上氏)。この動機がAIとキャラクタービジネスの相乗効果を生むのだという。

寿さんが自身で音声モデルを務めた「バーチャルアナウンサー沢村  碧」とAIスピーカーで会話し、あらためてその技術の高さに驚く一幕も
寿さんが自身で音声モデルを務めた「バーチャルアナウンサー沢村 碧」とAIスピーカーで会話し、あらためてその技術の高さに驚く一幕も
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 最新の音声合成テクノロジーは、「ロボットっぽい」話し方から、劇的な進化を遂げてなめらかになった。こうした音声合成技術と高相性なのが、結束氏率いるemotivEの「自由対話AIテクノロジー」だ。AIは、言語構造をより高度に分析できるようになり、人の発話の意図を汲み取れるようになった。しかし、より自由度の高い対話には、さらに意図の根底にある「欲求」をくみとることが求められるようになった。そこでOMOHIKANEを開発した。

これまでの企画などについて説明するSME井上敦史氏(左)、右はemotivEの結束雅雪氏
これまでの企画などについて説明するSME井上敦史氏(左)、右はemotivEの結束雅雪氏
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 OMOHIKANEは、欲求や感情、記憶、分析といった人の認識をエミュレーションできるようにした。感情や経験を記憶として蓄積・分析・利用することで、AIに個性や人格が確立され、より人間らしい自由対話を可能にするという。対話AIビジネスをしたい企業に対し、対話AIの企画から運用までワンストップでサービスを提供する。AIスピーカーが提供するAPIを使う仕組みで、よりキャラクターの人格に近い対話AIをつくれるとのこと。自由対話が可能になったAIは今後どういうビジネスにつながるのか――「スマートスピーカーに、エージェントとしてキャラクターを立てることで、目的+αの価値生まれ、愛着も湧くはず」と松平氏。スマホやスマートスピーカーに搭載される、忖度(そんたく)するAIが生まれる日も近いかもしれない。

ソニー・ミュージックコミュニケーションズの松平恒幸氏。「OMOHIKANEは、IoTなどを舞台にスマホを飛び出して活躍するようになるのでは」と期待する
ソニー・ミュージックコミュニケーションズの松平恒幸氏。「OMOHIKANEは、IoTなどを舞台にスマホを飛び出して活躍するようになるのでは」と期待する
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(文/小西 麗)

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