前編では、日本でもゲーム動画市場が盛り上がりを見せていることを紹介した(関連記事)。このように市場が加熱する中、「Twitch」を展開する米トゥイッチが2017年9月、日本にオフィスを開設して本格参入した。Twitchはゲームに特化したリアルタイム動画の配信サービスの先駆けだ。2015年から日本語に対応するなど、進出の機会をうかがってきた。

 動画配信者はゲームのプレー動画をリアルタイムに配信する。視聴者はチャット機能を通じて、配信者にコメントをしたり、活動資金を寄付して応援したりできる。「ゲーム特化」「リアルタイム動画」という大きく2つの特徴で、既存の動画配信サービスと差異化を図り、支持を集めた。グローバルでは1日当たり1500万人が利用する。月間220万人の動画クリエーターがコンテンツを配信する。2014年に米アマゾンが約1000億円で買収したことで話題を呼んだ。

 そのトゥイッチが、なぜこのタイミングで日本への本格参入を決めたのか。また、日本市場に対する期待や、マーケティング戦略をどう考えているのか。トゥイッチコンテンツ部門シニア・バイス・プレジデントのマイケル・アラゴン氏、および日本市場を掌握する同APACディレクターのレイフォード・コックフィールドIII世氏に聞いた。

――日本への本格参入を決めた理由を教えてください。

アラゴン氏: 日本はグローバルで見ても3番目に利用者数の成長率が高い国です。具体的な数字は申し上げられませんが、利用者数は毎年2倍のペースで増加しています。それだけ急成長している市場のため、本格的な参入を決めました。

コックフィールド氏: 実はオフィスを設置する前、2015年ごろから日本への対応を地道に進めてきました。まず、2015年は日本のゲーム利用者からニーズを聞き、そこで学んだ知見を生かして、2016年は動画クリエーターの勧誘、コンテンツの強化やウェブサイトの最適化に取り組んできました。それが成長につながっています。

トゥイッチコンテンツ部門シニア・バイス・プレジデントのマイケル・アラゴン氏
トゥイッチコンテンツ部門シニア・バイス・プレジデントのマイケル・アラゴン氏
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――多数ある動画配信サービスの中で、Twitchが支持を集めた強みはどこにあるのでしょうか。

アラゴン氏: 「コミュニティー」を中心としている点が大きな強みだと思います。

 ゲームの動画配信者と視聴者がチャットで会話をしたり、動画配信者同士が情報交換をしたりすることでコミュニティーが生まれる。このコミュニティーが動画と並ぶ1つのコンテンツだと考えています。常にコミュニティーがサービスの中心にあり、それを拡大していくことで利用者が増えていく。

 例えば2011年にサービスを始めたTwitchに最初にできたコミュニティーは、「スタークラフト」という戦略シミュレーションゲームの愛好者を中心に形成されました。このコミュニティーが拡大したことが、成長のドライバーとなりました。それがTwitchの強みになっています。

コックフィールド氏: コミュニティーの結びつきの強さは収益を得るうえでも必要不可欠です。基本的にTwitchのサービスは、すべて無料で利用でき、コンテンツの閲覧に料金はかかりません。その代わり、動画配信者を応援したいと思った時に、応援資金を寄付してもらいます。それによりコメントを目立させて、配信者にアピールできます。

 このようにコンテンツではなく、視聴者からドネーション(寄付)で収益を得る仕組みは、当初は成功しないと見られることが多かった。ですが実際には多くの視聴者がお金を払っています。それは動画配信者がコミュニティーを通じて、視聴者であるファンとの強いつながりが中心にあるからだと考えています。

クリエーター育成企画を年内に開始

――日本でもコミュニティーを形成することが戦略の要となるのでしょうか。

コックフィールド氏: そう考えています。例えば、日本では以前から格闘ゲームの動画が特に人気を博しています。そこで、2016年に格闘ゲーム業界で知名度の高い梅原大吾氏をグローバルのアンバサダーに迎えました。梅原氏はこれまで、リアルタイム動画の配信はしていませんでしたが、Twitchに設置した「DaigoTheBeasTV」というチャンネルを通じて初めてリアルタイム動画の配信に取り組んでもらい、新たな視聴者の獲得に努めています。

アンバサダーの梅原大吾氏は「DaigoTheBeasTV」をTwitchに開設
アンバサダーの梅原大吾氏は「DaigoTheBeasTV」をTwitchに開設
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――日本では「OPENREC.tv」や「YouTube」などの先行企業が優れた動画クリエーターの獲得でしのぎを削っています。

コックフィールド氏: 当社ではすでに知名度のある人を獲得するよりも、著名になる可能性を持つ人を見つけて、人気配信者へと育てるケースが増えています。例えば、国内では対戦型アクションゲーム『リーグ・オブ・レジェンド』の成功を一例として挙げられます。このゲームは当初、日本ではそれほど人気ではありませんでした。ですが、新たに動画の配信者を発掘してきて、人気の動画配信者へと育てました。そうした活動が実を結び、2016年を通じて日本でもTwitch上で人気のタイトルとなりました。

トゥイッチAPACディレクターのレイフォード・コックフィールドⅢ世氏
トゥイッチAPACディレクターのレイフォード・コックフィールドⅢ世氏
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 動画配信者の教育体制を強化するための施策にも、新たに取り組み始めているところです。サービスの登録後に速やかに動画を配信できるように、利用法などを動画で学べるプログラムを開発しており、2017年末までに提供を始める方針です。

――日本展開に併せたサービスのローカライズについてはどう考えていますか。

コックフィールド氏: Twitchでは各国ごとにデータを集めて、カテゴリー名の表記などを最適化しています。細かい部分ですが、チャット機能の絵文字の呼び名もその1つ。グローバルでは日本発の「絵文字」という呼び名が定着しているため、「Emotes」という表記にしています。一方、日本ではチャットで使う絵文字は「スタンプ」という呼び名が定着していることが分かりました。そこで、日本ではスタンプという表記に変更しました。

 このような各国ごとの事情に合わせるために、2018年には国別にウェブサイトのデザインを変える取り組みを実施する計画です。動画プレーヤーやチャットといった根本的な機能を変えるわけではありませんが、より利用しやすいように適切なデザインを採用していく方針です。

――各国の利用者のニーズはどのように把握しているのでしょうか。

アラゴン氏: 各国ごとに動画クリエーターのネットワークを作り、当社の社員が中心となって、常に情報交換をしています。使うツールは国ごとに異なりますが、日本ではLINEなども使います。そこで、求める機能や新たな機能の意見を直接、得られる環境を作っています。

アラゴン氏(左)とコックフィールド氏(右)は各国ごとの慣習に合わせた、ローカライズを強化すると語る
アラゴン氏(左)とコックフィールド氏(右)は各国ごとの慣習に合わせた、ローカライズを強化すると語る
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 またサービスの利用者が一堂に会する「TwitchCon」という自社イベントも開催しており、そこには数万人が訪れます。そのようなリアルの場でも、実際に意見を聞いています。そうしたデータを基に、各国ごとに最適化すべきポイントの優先順位付けをしたリストを作り、対応を進めています。

――アマゾンと連携した施策を日本向けに考えていますか。

コックフィールド氏: アマゾンとは製品やサービスに革新をもたらすためにグローバルで取り組むことが一般的です。例えば、「Twitch Prime」もその1つ。アマゾンの有料会員組織「Amazon Prime」の会員が、Twitchと会員IDを連携することで、動画視聴時に広告を非表示にできるといった優遇を得られます。ですが、各国ごとにローカルの取り組みをすることはほとんどありません。ですから、日本のアマゾンと連携した施策も今は予定をしておりません。

(文/中村勇介=日経トレンディネット)

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