エコシステムとしてのScratch

――私は最近、「日本でScratchがこれだけ広く使われるようになってよかったですね。成功ですね」とよく言われます。でも、現実は逆で、むしろ前より悪くなっているような気がしています。

レズニック氏:何が悪くなっているのですか?

――活用の仕方です。Scratchが広まるにつれて、プログラミング環境、エコシステムとしてのScratchではなく、それらが完全に切り離されて、単にプログラミングソフトと捉えて導入されている場合が増えていると感じています。そのうえで、「Scratchを使っているから創造的である」という誤解が広がっている気がしています。

 このようにあまり創造的でない導入をしている人たちに、Scratchはコミュニティや思想を伴った環境なのだということを分かってもらうにはどうすればいいのでしょうか。

レズニック氏:まずできることは、Scratchはただのソフトではなくて、クリエイティブ・ラーニングのためのものであるということを知ってもらうことです。そして、教育的なアプローチであり、手段であり、哲学であるということを伝えていく必要があります。

Scratchは創造的に学ぶためのツールだ(画像)
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 こうした教育的なアプローチを広めていくのは、ソフトだけを普及させるよりもずっと難しいことだと考えています。それでも、教育的アプローチを広めるための第一歩は、「単なるソフトである」と「クリエイティブ・ラーニングのためのツールである」という違いを、しっかりとみんなに理解してもらうことです。そのために、4つのPを伴ったScratch活用の価値をきちんと伝えていくことが必要なのです。

 この違いを分かってもらったうえで、実際にどうやって現場で活用していくかをサポートしていくことになります。これも、大きな目標だと思っています。なぜなら、既存のやり方、システムの中に、1つのソフトを導入する方がずっと簡単だからです。新しいテクノロジーを導入して効果的に使い、既存のやり方を変えることは、とても難しいことです。

 でも、新しいテクノロジーには、さまざまな可能性があります。新しいテクノロジーに接して「うわぁ、すごいな」と感じたときは、既存のやり方を変えてみようかなという気持ちになりやすいのではないでしょうか。Scratchのような新しいテクノロジーを紹介することは、既存のやり方を振り返って考え直すよい機会になると思います。もちろん、Scratchがなくても既存のやり方を見つめ直すことに取り組んでほしいと思いますが、Scratchが人の考え方をよりオープンにし、考え直してもらうよいきっかけになるでしょう。