「当社サービスの利用者の中にも、月間で数百万円を稼ぐ人が現れ始めている」

 ゲームに特化した動画配信サービス「OPENREC.tv(オープンレック)」を展開するCyberZ(東京都渋谷区)の山内隆裕社長はこう明かす。OPENREC.tvは、ゲームのプレー動画に特化したリアルタイム動画の配信サービスだ。月間で約200万人が訪れる。「利用者数は1年間で3倍に拡大」(山内氏)しており、急成長中のウェブサービスの1つだ。

 数年前から、「YouTube」に投稿した動画の視聴者数を集め、そこに配信される広告収益などで生計を立てるクリエーターが「YouTuber」として脚光を浴びている。同様にゲーム動画の世界においても、動画配信で生計を立てるプロのゲーム動画配信者が現れ始めている。

 こうしたプロの動画配信者が利用するゲーム動画に特化した動画配信サービスと、一般的な動画投稿サービスの違いは動画配信者が多角的に収益を得られる仕組みを整えている点が挙げられる。

 OPENREC.tvの動画配信者は、ゲームをプレーしている動画をリアルタイムで配信しながら、視聴者とコミュニケーションを取る。視聴者はチャット機能を使って、動画配信者に対してコメントを送ることができる。動画配信者は、このコメントを読み上げたり、コメントで寄せられるリクエストに応えたりして、視聴者とコミュニケーションを取れる。動画配信者は視聴者と関係性を築くことで、それが収益に結びつく。

CyberZの山内隆裕社長は、自社サービスで月間数百万円を稼ぐ利用者も表れていると語る
CyberZの山内隆裕社長は、自社サービスで月間数百万円を稼ぐ利用者も表れていると語る
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ゲームに特化した動画配信サービス「OPENREC.tv」の利用者数は1年間で3倍に増加
ゲームに特化した動画配信サービス「OPENREC.tv」の利用者数は1年間で3倍に増加
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 例えば、広告収益の分配だけでなく、視聴者数に応じてCyberZから報酬が支払われる制度を設けているほか、視聴者がデジタルアイテムのコインを購入して配信者を応援する機能「エール」で得た収益も分配する。このように多角的に収益を得られるような仕組みを用意しているのが特徴だ。CyberZは動画配信者にきちんと収益を還元することで、より積極的にOPENREC.tvを利用してもらうことを狙う。

 こうした収益を得られる仕組みにより、動画配信者によっては、月間で数百万円を超える収益を得られるようになっているのだ。動画配信者の中には会社を辞めてプロのゲーム動画配信者として独立する動画配信者も現れ始めた。

毎回2万人が閲覧するプロゲーマー

 7月にCyberZとスポンサー契約を結んだ、たいじ氏もその1人。スポンサー契約を機に正社員を辞めて、より自由に時間を使えるように雇用形態を変えた。「昨年から仕事を辞めても、生活できるぐらい稼げるようになった」とたいじ氏は言う。たいじ氏はCyberZの支援を得ながら、競技性のあるゲームでプレーヤー同士が競う「eスポーツ」の大会に出場していくことになる。

 たいじ氏の得意ゲームタイトルは、任天堂のシューティングゲーム『スプラトゥーン』だ。スプラトゥーンはインクを撃ち合って、自分の色の陣地を広げて、面積を競い合うゲーム。最大で1チーム4人ずつ計8人で対戦する。オンラインで対戦相手を見つけて遊ぶこともできる。7月にはNintendo Switch向けに続編の『スプラトゥーン2』が発売された。

 このスプラトゥーンシリーズを中心に、カプコンの人気アクションゲーム『モンスターハンターダブルクロス』などの動画を毎日平均2~3時間を配信している。同時閲覧者数の平均は4000~5000人、1回の配信で合計で2万~3万人が閲覧する。これは、OPENREC.tvの利用者の中でも、非常に多く閲覧される動画配信者の1人だという。

たいじ氏の配信する動画は、毎回2万~3万人が閲覧する
たいじ氏の配信する動画は、毎回2万~3万人が閲覧する
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任天堂のシューティングゲーム「スプラトゥーン」シリーズの動画を中心に配信する
任天堂のシューティングゲーム「スプラトゥーン」シリーズの動画を中心に配信する
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 動画の配信サービス事業者はこうした優れた動画クリエーターの囲い込みや育成に力を入れる。人気コンテンツを作れる動画クリエーターを多く抱えることが、視聴者から支持を得るために重要だからだ。そのため、新たな動画クリエーターの発掘や育成、囲い込みが競争のポイントとなっている。

 例えば、たいじ氏は元々、他社のサービスでゲームのプレー動画を配信していたが、「ゲームを配信する際の画質の高さ」(たいじ氏)が決め手となりOPENREC.tvの利用を始めた。スプラトゥーンはピンクや黄緑などビビッドな色合いのインクを撃ち合うゲームのため、画質が粗いとなおさら汚く映ってしまうという。自身のプレーをもっとキレイに見せたい。そう考えていたときにOPENREC.tvでの動画配信を打診されたことがきっかけだ。

 CyberZはゲーム動画の配信に適した環境の整備と、リクルーティング活動で優れた動画クリエーターの発掘や囲い込みを狙う。また、eスポーツのイベント「RAGE」を主催するなど、ゲームプレーヤーの活躍の場を広げる取り組みにも力を注いでいく。

YouTubeは視聴者数の桁が2つ多い

 圧倒的な利用者数を武器に、ゲーム動画市場を攻めるのがグーグルの「YouTube」だ。「ゲーム動画を配信した際、YouTubeの視聴者数はゲームに特化した動画配信サービスと比べて桁が2つ多かった」(関係者)。ゲーム特化の動画サイトの成長が著しいとはいえ、YouTubeには一日の長がある。

 そのグーグルもゲーム動画市場に大きな可能性を感じており、動画クリエーターが利用しやすい環境を整えるべく、リアルタイム動画配信サービス「YouTube Live」の機能やサービスの拡充を急ぐ。「毎日YouTube Liveを利用するチャンネルは、昨年と比べてグローバルで4倍になっている。これはゲーム動画の配信の盛り上がりとも密接である」(グーグルAPACゲーミングコンテンツ&パートナーシップ代表のイネス・チャ氏)ことが大きな理由の1つ。

 例えば、2月にはモバイル端末からボタン1つで、リアルタイム動画を配信できる機能を追加して、より手軽に利用できるようにした。また、視聴者がクリエーターに寄付をすることで、動画に投稿した自身のコメントを目立たせることができる機能の提供も始めた。9月7日に新たに追加したのが、「超低遅延」で配信できる設定だ。これは、動画の配信元と視聴者間で発生していた遅延を減らして、よりリアルタイムなコミュニケーションを可能にする設定だ。「ゲーム動画のクリエーターにとっても配信しやすい環境を整えている」(チャ氏)。

 また、他社の提供するスマホ向けゲームアプリから直接、YouTube Liveにリアルタイム動画を配信できる機能も新たに追加した。グーグルは、開発者がゲームのプレー動画を録画できる機能をアプリに追加できる「ReplayKit」を以前から提供していた。以前は録画のみに対応していたが、このReplayKitを追加したアプリであればリアルタイム動画を直接YouTube Liveに配信できるようになった。

 このようにカメラなどの配信環境を整えなくても、いつでも好きなときにゲームのプレー動画を配信できる仕組みを、広くさまざまな開発者に提供することで、新たな動画配信者の拡大を狙いながら、視聴者向けにもゲーム動画を見やすい環境を提供する。

 昨年、グーグルはゲーム動画に特化したサービス「YouTube Gaming」の日本展開にも乗り出した。YouTube上からゲームに関する動画だけを抜き出して、別サイトとして展開したものだ。サイトのデザインも既存のYouTubeとは異なり、ゲーム利用者が好む黒をベースにしたデザインを採用した。YouTube Live機能も利用できる。

 海外ではウェブサイトだけではなく、スマホアプリ版も提供する。「アプリ版の日本展開はまだ未定だが、各国で順次展開中」(チェ氏)のため、将来的に日本で提供される可能性も高いだろう。グーグルが特定の切り口で独立したサイトを開発するのは、YouTube Gamingを含め3つだけだ。グーグルがゲーム動画にかける本気度がうかがえる。

グーグルは、ゲーム動画に特化した「YouTube Gaming」の日本展開を始めた
グーグルは、ゲーム動画に特化した「YouTube Gaming」の日本展開を始めた
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 これらの先行する企業がしのぎを削る中、ゲームに特化した動画配信サービスの大手「Twitch(トゥイッチ)」を展開する米トゥイッチが日本に本格参入した。次回はトゥイッチの日本戦略を紹介する。

(文/中村勇介=日経トレンディネット)

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