2017年度のコンテンツ投資額は年間60億ドル

 各ミーティングルームにはNetflixの代表作の名前が付けられていて、私は「ハウス・オブ・カード」の部屋に通された。

今回の取材は「ハウス・オブ・カード」の部屋で
今回の取材は「ハウス・オブ・カード」の部屋で
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 『ハウス・オブ・カード 野望の階段』は、ケヴィン・スペイシー主演の社会派政治ドラマで、まるで米国政界の行く末を予想したかのようなリアルな展開に世界中の視聴者が釘付けになった作品だ。優秀なテレビドラマに与えられるエミー賞(プライムタイム・エミー賞)を配信ドラマで初めて受賞し、ドラマ業界の常識を覆した1本と言っても過言ではない。

「ハウス・オブ・カード」の部屋には、同作の写真パネルなどが飾られていた
「ハウス・オブ・カード」の部屋には、同作の写真パネルなどが飾られていた
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 Netflixが変えたのはドラマ業界の常識だけに留まらない。映画業界も揺るがしている。今年5月のカンヌ国際映画祭にポン・ジュノ監督の『オクジャ/okja』とノア・バームバック監督の『マイヤーウィッツ家の人々(改訂版)』の2本のNetflixオリジナル作品が出品されたが、来年からは劇場公開されていないNetflixの作品は除外すると発表され、物議を醸した。『オクジャ/ okja』は少女と巨大動物の交流を軸に、現代社会が抱える問題をあぶり出し、痛烈な批判をユーモラスに織り交ぜた傑作。笑いながら観ている内にいつの間にか感情移入し、最後には筆者も大泣きしてしまった。

ポン・ジュノ監督の『オクジャ/ okja』
ポン・ジュノ監督の『オクジャ/ okja』
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 筆者としては、これほどの作品が受賞できないというのはおかしな気もするが、Netflix広報担当の中島啓子氏によると、「“Consumer Friendly”(お客様に優しい)というモットーからすれば、それは大した問題ではなく、1人でも多くの人が観てくれればそれでいいとCEOのリード・ヘイスティングス氏は考えているんです」と説明する。「メンバー(加入者)が観たいと思っているコンテンツを提供する――Netflixのポリシーはその一言に尽きる」(中島氏)。

 「メンバーが100人いれば、見たい作品は100あるかもしれない。その満足度を上げるために、とにかくクオリティーの高い作品を作り続けます。そうすれば結果的に視聴時間が延びて、メンバーで居続けてもらえるんです」(中島氏)

 クオリティーの高い作品を作りたいというのはクリエイターなら誰もが願うことだが、視聴率とコンプライアンスにがんじがらめにされ、制作予算も減少している現在の日本の地上波ドラマではそれがなかなか難しい。一方、Netflixはメンバーの会費のみで制作をまかなっているから、地上波では決して“見たことがない”チャレンジングなコンテンツが多いのだろう。

 ちなみに、Netflixの2017年度のコンテンツ投資額は年間60億ドル(約6500億円)で、既に600本以上の配信が決定しているという。この予算は年々増加しているそうだ。

 日本制作の作品であっても、視聴するのは世界中のメンバーのため、クオリティーには徹底的にこだわり、チェックする。高画質を求めるため、機材も高価な物を使用させる。「10年後に観ても面白く、クオリティーが劣化しない作品」を提供し続けることが使命だという。クリエイターの有名無名にはこだわらず、世界に通用する“見たことがない”日本の作品も待たれているのだ。