毎年ドイツ・ベルリンで開催される家電の総合見本市「IFA」で、ソニーは今年も最大級のブースを構え、クリスマス商戦に向けた新製品をずらりと並べた。手ごろな価格の製品から100万円クラスの高級デジタルオーディオプレーヤーまで。それら製品群から見えるソニーの今を、オーディオ・ビジュアルライターとしても活動する山本敦が展望する。
今年のIFAでは、ソニーが誇るオーディオ&ビジュアル分野のフラグシップモデルが久しぶりにそろい踏みした。“ビジュアル”では4K/HDR対応テレビ「ブラビア」で有機ELモデルと液晶モデルの両方を展示。日本で発売される新製品として、有機ELの「A9F」と液晶の「Z9F」の各シリーズを発表した。いずれもプロのクリエーターが意図した画質を忠実に再現できる「MASTER SERIES」。これは、ブラビアのフラグシップのみに許されるシリーズ名だ(関連記事: テレビは超高精細時代に 大手が8Kモデルを続々出展)。
トップエンドからエントリーまで登場のウォークマン
このブラビア以上に度肝を抜いたのが「DMP-Z1」だった。これは、ウォークマンの高音質化技術を土台に、100万円クラスの据え置き型オーディオプレーヤーだ。筆者はIFA直前、今年は約2年ぶりに「ウォークマン」シリーズの上位機種が代替わりするのではと予測していたが、その読みをはるかに超える製品が登場したわけだ。日本での発売時期はまだ明らかにされていないが、近く発表されることを期待しよう。
オーディオではウォークマンの入門機「NW-A50」シリーズも発表されており、今年のIFAではトップエンドからエントリーまで、ソニーのハイレゾに対する熱い情熱を来場者に印象づけるラインアップだったといえる。入門機のウォークマンは来場者から大いに注目されていたのだが、実は本機は欧州での発売は「未定」の参考展示品だ。当面はアジア地域でのみ販売されるようだ。欧州では現行品の「A40」シリーズをもう少しじっくり売っていきたいという狙いがあるのだろう。
このほか、日本でも人気のノイズキャンセリング+Bluetoothワイヤレス機能を搭載したヘッドホンの最新機種「WH-1000XM3」を披露。ソニーモバイルコミュニケーションズからは、有機ELディスプレーを搭載したスマートフォン「Xperia XZ3」などが出そろった(関連記事:ソニーがオーディオ製品8分野を一挙披露 担当者に聞く、「Xperia XZ3」はソニーモバイルの救世主になれるか)。
これだけ充実した“出し物”がありながら、筆者には“期待外れ”という思いもある。はっきり口にするのには筆者自身、違和感を感じるところもあるのだが、あえていくつかの点を指摘をしたい。
ソニーらしいAIの活用法とは
一つはグーグルの“スマートディスプレイ”が見当たらなかったこと。スマートディスプレーとは音声アシスタントを搭載し、音声で操作できるようにしたディスプレーのこと。ディスプレーが付いたスマートスピーカーと考えてもいい。
グーグルが2018年1月に米国・ラスベガスで開催された「CES」でディスプレー付きスマートスピーカーを“スマートディスプレイ”として発表し、初期パートナーの名前にはソニーも挙がっていた。同様にパートナーとして挙げられていたレノボ、LGエレクトロニクス、JBLは既に製品としてのスマートスピーカーの開発を完了しているため、IFAではソニーの製品もあるかと期待したのだが、試作機の展示はなかった。日本では7月にAmazonがディスプレー付きのスマートスピーカー「Echo Spot」を発売し、スマートスピーカーへの注目度も復活しているだけに残念だ。
IFAの開催期間中に実施されたソニービデオ&サウンドプロダクツの高木一郎社長のグループインタビューで、高木社長にGoogleスマートディスプレイへの取り組みを聞いてみたが、「IFAで出していないものについて、なぜ発表がないのかを答えることはできない。開発中であるかどうかについてもコメントは控えたい」という回答を得るにとどまった。
人工知能(AI)に関連するオーディオ・ビジュアル製品はかなり出そろってきたが、ソニーに限らずどのメーカーも、GoogleアシスタントやAmazon Alexaを“一機能”として組み込み、スピーカー本来の機能に奥行きを増す戦略が基本だ。
ただ、それではAI関連の機能についてはどのメーカーの製品も得られる体験が基本的に同じになってしまい、ユーザーは付加価値を感じにくくなるだろう。ソニーは独自にAIやディープラーニング、センサーの開発ノウハウを持っており、欧州でも販売がスタートするペットロボット「aibo」のように他社にない方法でAIを使いこなしているメーカーだ。aiboの展示コーナーの盛況ぶりを目の当たりにすると、“ソニーらしい”スマートテレビやスマートディスプレー、さらには新しいAIを活用したオーディオ・ビジュアルの新カテゴリーの提案を見てみたいと思う。
5Gでオーディオ機器の新しい価値を掘り起こせ
もう一つは2019年に商用化予定の次世代高速通信「5G」への取り組みだ。IFAで開催されたソニーのプレスカンファレンスの中で、ソニーの吉田憲一郎社長兼CEOは今後に向けて力を入れていく領域だと言及した。ソニーグループとしては、ソニーモバイルコミュニケーションの「Xperia」が最も5Gに近い商品なのかもしれない。だが、オーディオ・ビジュアルの製品にも5Gとの関連性は大いにある。
欧米では、通信の超高速化、大容量化のほか、IoTデバイスに代表されるエレクトロニクス機器を多数、同時に、直接ネットワークにつなげられる技術として5Gが注目されつつある。ソニーの製品で例に挙げるなら、ウォークマンにLTEによる通信機能を持たせたり、据え置き型のトラディショナルなオーディオ機器にネットワーク接続機能を持たせたりすることで、掘り起こせる新しい価値はまだあるだろう。
スマートホームについても、グーグルやAmazonのプラットフォームにつながること以外の価値を積極的に打ち出せる余地は十分にあるはずだ。同社は白物家電をほとんど扱っていないものの、ソニーモバイルコミュニケーションズが販売している、壁面や床面に投射した映像に指で触れながら操作できるプロジェクター「Xperia Touch」(G1109)は、欧州のキッチンアプライアンスのイベントなどに出展されて好評を得ているという話も耳にする。例えば、欧州のスマート家電に力を入れているメーカーとコラボレーションして、未来の豊かな生活空間を描き出す展示をすることもできるはず。既存のオーディオ・ビジュアルの価値観を超えて、私たちを驚かせてくれるものをこれからのソニーには期待したいと思う。
