ドイツ・ベルリンで開催中の家電の総合見本市「IFA 2018」のソニープレスカンファレンスでは、ヘッドホン/イヤホン、「ウォークマン」、スマートスピーカーなどのオーディオ製品群を披露した。ソニーのオーディオ大攻勢とも呼ぶべき製品群をつなぐキーワードは何か。新たにオーディオ製品の企画を統括する立場となったソニービデオ&サウンドプロダクツ 企画ブランディング部門長の黒住吉郎氏に聞いた。
海でも使える完全ワイヤレスが登場
IFA 2018のグローバルの発表で目玉として語るべき製品が、ハイレゾ・ノイズキャンセリング対応のワイヤレスヘッドホン「WH-1000XM3」だ。既に第3世代のモデルで、今回は音質やノイズキャンセリング性能の向上、装着性の改善が進んだ。黒住氏は「ヘッドホンは、スマートフォンと同じく“肌身離さず”がキーワード。隔離された音楽の世界ではなく、クイックアテンション(ハウジングに手を当てると即座に外音取り込みが可能になる)機能などに代表されるように、音楽を楽しみながら生活も楽しむ」製品と位置付ける。これはソニーの吉田憲一郎社長兼CEOの体制下で語られることになった“人に寄り添う”製品づくりに通じるものといえる。
同じく常に身につける製品が、最新完全ワイヤレスイヤホンの「WF-SP900」だ。スマホと接続して完全ワイヤレスで使えるのはもちろん、音楽プレーヤー機能を搭載しており、単独でも音楽を再生できる。加えてIPX68対応の強力な防水機能も備えた。
「SP900の真骨頂は、泳ぐときにも身にとけていられること。海でも使える。そんなメリハリを付けて作りあげた完全ワイヤレスだ」(黒住氏)。完全ワイヤレスのスポーツ志向が世界的に高まっていることを受けたモデルだ。しかも、左右のワイヤレス接続に補聴器にも用いられる近距離磁気誘導(NFMI)を搭載し、水中でも途切れず音楽を聴き続けられる。機能性にも注目のモデルである。
クリエーターとユーザーの世界を結びつける
吉田CEOの体制下で、もう一つソニーが発信し始めたメッセージが「音楽、映像、ゲームを作り上げるクリエーターやプロフェッショナル、セミプロの世界と、それを楽しむユーザーの世界を結びつける」ことだ。
その象徴が、ステージ用イヤーモニター「IER-M7」「IER-M9」だ。ステージ用イヤーモニターとは、ライブ会場でアーティストが身に着けて、自分の声や楽器の音などを確認するためもの。今回発表されたIER-M7とIER-M9は、ソニー・ミュージックエンタテインメントの協力の下、PAエンジニアと共に生み出した「クリエーターとのコラボレーションによって生まれたハイエンド」(黒住氏)だという。
イヤーモニターとして必要な品質として「演奏者自らが奏でる音色」「各楽器間のバランス」「正確なリズム」の再現を目指して開発された。IER-M9がBA(バランスド・アーマチュア)ドライバーを5基、IER-M7はBAドライバーを4基搭載する。
ステージ用イヤーモニターと似た状況の市場として黒住氏が語るのがカメラだ。「カメラはプロフェッショナルと一般のユーザーが同じ製品を使い、共通の感動体験や関心を共有する。いわゆる“Community of Interest”として集い、情報交換を重ねている。オーディオの世界でも以前からHiFi、ピュアオーディオの市場ではあったことだが、ヘッドホンの市場でもここ5~7年ほどでそういったコミュニティーが出来始めた」(黒住氏)。市場を見ても、日本やアジアにはステージモニターの音を好むユーザーも多い。手持ちの音源をイヤーモニターで聴きたいというユーザーに受け入れられる製品と考えているのだ。
ユーザーサイドから見た最高を目指すイヤホンが「IER-Z1R」だ。イヤホン構造はBAドライバーと2基のダイナミックドライバーを組み合わせるハイブリッド。IER-Z1Rが目指すのは、「ライブで音楽を聴く、ほぼその場にいるような臨場感。歌い手が提供できているであろう、空気感、ツヤ感、会場のスモークの雰囲気までも再現」する領域にまで踏み込むサウンドを目指している。
IER-Z1Rは高級時計などに用いられるペルラージュ加工が施されたデザインも特徴。黒住氏はこれを、「例えばヴァイオリンのヘッド部の渦巻き部分のような、(見た目から)その音が出る風格」と説明した。見た目から「良い音が出そう」という雰囲気を感じさせるデザインを目指している。
新ウォークマンと100万円超の“化け物”プレーヤーも登場
IFA 2018では“ウォークマン”の最新モデル「A55」シリーズ、さらには“化け物”とも呼ばれてしまいそうな8500ユーロの超弩級デジタルミュージックプレーヤー「DMP-Z1」も発表した。
ハイレゾ対応ウォークマンとしてはエントリーとなる「A55」シリーズの特徴は、アルミ削り出しシャーシ採用による高音質化と、Bluetoothでスマホとペアリングして音楽を流せるスマホとの親和性の向上だ。
ハイレゾすらスマホで再生できるようになった今、ウォークマンの存在意義は「新聞のようなもの」と黒住氏は語る。近年、ネットの普及で新聞の部数は落ちているが、それでも一覧性、携帯性、情報の信頼性から新聞を選ぶ人は一定数いる。同じようにウォークマンの需要はなくならないと見る。特に「米国ではアップルがiPodシリーズの販売を終了したことで、定番のデジタルミュージックプレーヤーとして少しずつ存在感が高まりつつある」と黒住氏。また、ウォークマンを購入層は高齢化しておらず、若い人も一定数買っているという。スマホ全盛の今でも、1979年以来のブランドであり続けた老舗の歴史が評価されているということだろう。
さらに、IFA 2018で披露した中でも最もソニーのオーディオらしい製品がデジタルミュージックプレーヤー「DMP-Z1」だ。机の上にドンと置くようなサイズに、重さ2490gという重量。超ハイエンドのオーディオパーツに、アナログアンプを組み合わせた。タッチ操作の画面を備え、256GBのメモリーを内蔵する音楽プレーヤーである。
ウォークマンは移動しながら使う製品だが、DMP-Z1は自宅や出張先のホテルのようなパーソナルスペースで使うためのもの。黒住氏によると、スターバックスの創業者が店舗のコンセプトを第二のリビングルームと位置付けたように、DMP-Z1はホテルのような出先のスペースであってもパーソナルにくつろげる空間に変えられる製品を目指しているようだ。
8500ユーロという超弩級の価格と金メッキが施されたアナログボリュームは、中国のハイエンド・オーディオマニア向けを意識したと思われるが、「香港を中心とした東アジア圏、中国圏、日本でも似たようなニーズがあることは理解している。一義的に中国を考えているわけではない。欧州でも販売するし、ここからマーケットを作っていく」と語る。
“EXTRA BASS”ブランドのスマートスピーカー
もう一つ発表したスピーカー型オーディオの新製品がEXTRA BASSのGoogleアシスタント搭載ワイヤレススピーカー「SRS-XB501G」だ。サイズはステージ用スピーカー程度の大きさで重量は3100g。IP65の防塵/防水対応で、バッテリーで最大16時間駆動する。EXTRA BASSはもともとソニーのBluetoothスピーカーのブランド名だが、そのままスマートスピーカー化したことになる。
「グーグルやAmazonが売っているスピーカーは音楽の“ながら聴き”用途だが、EXTRA BASSはベースがしっかり出るサウンドだ。米国、中南米では、パティオ(中庭)で開くプチパーティーが音楽を楽しむ場として上位に上がってくるので、大人数で楽しめるスピーカーとして提案したい」(黒住氏)。
以上、ソニーがIFA 2018で発表したオーディオ製品は全8シリーズにもなり、近年なかった規模だった。全体を通して見ると、平井一夫前社長兼CEO時代には、“ハイレゾ”を中心に高音質を前面に打ち出していたのに対し、吉田社長兼CEOになった今回は、製品ごとに異なる用途提案を打ち出す“人に寄り添う”ラインアップに転換したことを印象づけた。
