ハウステンボス(長崎県佐世保市)が運営し、恐竜型や女性型のロボットがフロントでチェックイン業務を担当するなど世界初の“ロボットホテル”として知られている「変なホテル」が、急ピッチでチェーンを拡大している。2017年3月に「変なホテル 舞浜 東京ベイ」(千葉県浦安市)、2017年8月1日には「変なホテル ラグーナテンボス」(愛知県蒲郡市)をオープンした。来年後半には中国の上海にも開業予定だ。

 ハウステンボスの「変なホテル」は稼働率90%以上というが、その人気の秘密はどこにあるのか。「変なホテル」で様々なチャレンジをしてきた大江岳世志総支配人に聞いた。

「変なホテル」の外観
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 「変なホテル」のオープンは、2015年7月。ロボットが働くホテルとして話題を呼んだことに加えて、ハウステンボスのホテルとしては宿泊費が安いことなどから人気が高く、現在は当初の72室から、新たに建物を増やして144室に拡大して営業している。

 総支配人の大江岳世志氏は、「『変なホテル』とは、変わり続けることを約束するホテルです」と話す。その言葉の通り、オープンからの2年間でさまざまな変化を遂げてきたようだ。こだわったのは、人件費や光熱費などのコスト削減への取り組みだという。

「変なホテル」の大江岳世志総支配人。後ろに見えるのは、風を起こさず熱の輻射だけで冷暖房を実現するための「輻射パネル」
「変なホテル」の大江岳世志総支配人。後ろに見えるのは、風を起こさず熱の輻射だけで冷暖房を実現するための「輻射パネル」
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効率を上げた新しいホテルを作りたい

 ハウステンボスの澤田秀雄社長から「お前がやってみろ」と言われたことがきっかけで「変なホテル」の総支配人になった大江氏。旅行業界での業務経験はあったもののホテル勤務の経験はなく、ましてやロボットの技術的なことは全く分からない。最初は不安でしかたがなかったという。

 不安な顔を見せる大江氏に、澤田社長は「ホテル業界の概念を覆す新しいホテルを作ってほしい。生粋のホテルマンやロボットに精通している人間が作ったら一般的なホテルができてしまう。全く経験のない人間が斬新な発想で作ったほうがいい」と話してくれた。大江氏は、この言葉を聞いて、「やってみようと決心した」。

 とはいえ、一度はホテル勤務を体験しておこうと高級ホテルで研修を受けた。そのとき、「ホテルで働いている人が多すぎることや、サービスが過剰ではないのかと感じました」(大江氏)。「変なホテル」を作るにあたっては、無駄を減らし、人件費と光熱費を抑えたホテルを作ることを前提条件とした。

 人件費の抑制は、これまでの業務を見直して、人間の代わりにロボットを導入し、働く人の数を減らすことで圧縮することにした。元々は“ロボットホテル”として話題を呼ぶためにロボットを導入したわけではなかったのだ。

クロークサービスでは、ロボットアームが荷物を出し入れする
クロークサービスでは、ロボットアームが荷物を出し入れする
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ロボットによるチェックインは進化し続ける

 フロントに従業員を置かないというのは、効率化とコスト削減のために最初から決めていたという。実はフロント業務はホテルの中でもコストがかかる部分。ほぼ24時間常駐する人間が必要で、交代要員を考えるとかなりの従業員が必要になる。ここをロボットを使って自動化できればコスト削減に大きく貢献できると考えた。

 フロントをロボット化できたポイントは、現金を扱わないこと。宿泊客は、宿泊前に支払い手続きを済ませる事前決済を行っている。チェックアウト時の精算作業もないのでロボットでも対応可能になった。現金を扱わなければ経理担当を置く必要もなく、その分の人件費削減にもつながる。

フロントにはロボットが3体いる。チェックイン自体が一種のアトラクションのような感じだ
フロントにはロボットが3体いる。チェックイン自体が一種のアトラクションのような感じだ
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 フロントでのチェックインは、改良を重ねてオープン当初から大きく変わっている。最初は宿泊客がボタンを押すとロボットがガイダンスを話し、それに従ってチェックインを行う仕組みだった。

 「これではロボットとコミュニケーションを取っているとは言えず、ただ操作しているだけになってしまう。そこでボタン操作をなくし、複数のセンサーを使ってロボットとやり取りしている感じを演出することにしました」と大江氏。

 まずは人感センサー。宿泊客がフロントに近づいて来るのを感知し、ロボットがすぐさまウェルカムメッセージを話す。宿泊客が宿泊者カードを記入してポストに投函したこともセンサーが感知する。これによりボタン操作なしでも適切なタイミングでロボットが次のガイダンスをスタートできる。

 その後、宿泊者カードは、タブレットで記入する電子台帳に変更した。未来感を演出したロボットホテルなのに、紙の宿泊者カードに記入してもらうのはあり得ないと思ったのだという。

 現在は、音声認識を活用し、宿泊客が署名するだけでチェックインが完了するまでに進化している。宿泊客は事前に料金を支払っているので、名前や住所などの情報は予約時に分かっている。宿泊客がフロントでロボットに名前を言うと、名前などの情報がモニターに表示される。「内容に間違いがなければ署名だけしてもらうようにしました」(大江氏)。

 これでチェックイン時間が大幅に短縮できるようになった。一般のホテルだと数分かかるところが、ここでは20秒程度でチェックインできるという。

 ただ、音声認識は日本人のみの対応で、外国人客にはそのまま利用できなかった。その理由は、日本に住所のない外国人の宿泊客については、パスポートにある国籍と旅券番号を記録することが旅館業法によって定められていたためだ。当初は従業員が奥から出てきてパスポートのコピーを取っていたため、時間がかかっていた。

 そこでパスポートを読み取る機器を設置し、そこにかざすだけでコピーを取れるようにした。同時に名前を読み取り、予約情報と照らし合わせて間違っていなければ、署名するだけでチェックインできるようにした。

 「オープン当初はチェックインに4~5分かかっていましたが、今では日本人でも外国人でも20~30秒ほどでチェックインできるようになりました」(大江氏)。イライラさせられるチェックイン待ちの行列は、「変なホテル」にはほとんどないという。

 このほか、荷物を運ぶポーター、掃除などにもロボットが導入されている。宿泊客の反応は、オープン当初は厳しい意見もあったが、現在ではロボットによる未来感が楽しいなど、好意的な意見がほとんどだという。またロボットがメインの従業員なので、人間の従業員が宿泊客のプライバシーに関与する場面が少ない。そこを気に入っている宿泊客もいるという。

ルームキーの代わりに顔認証を使っている。宿泊客全員の顔を登録すれば、鍵を持っていなくてもいつでも出入りできる。顔のデータはチェックアウトと同時に消去される
ルームキーの代わりに顔認証を使っている。宿泊客全員の顔を登録すれば、鍵を持っていなくてもいつでも出入りできる。顔のデータはチェックアウトと同時に消去される
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テレビも内線電話も置かなかった

 光熱費の削減ではやはり冷暖房の仕組みを見直した。上から水を流す「輻射パネル」と呼ぶ装置を、日本のホテルとしては初めて導入。電気代はエアコンの1/3で済むという。音もエアコンより静かだ。「変なホテル」のロビーには、エアコンはないが真夏でも涼しい。

 フロント、冷暖房と着実に効率化とコスト削減を進めてきた「変なホテル」だが、なかには失敗したチャレンジもある。

 例えば、客室のテレビ。オープン当初は客室にテレビを置かなかった。電気代とテレビの機器代が抑えられるし、ハウステンボスで一日中楽しもうとやってきた宿泊客は、ホテルのテレビのことは気にしないだろうと考えたのだという。とはいえ、客室でテレビが全く見られないのは問題なので、客室に設置したタブレット端末で館内無線LANを使ったストリーミングでテレビを見れるようにした。

 しかし、「テレビがないなんて考えられない」といった厳しいクレームが相次ぎ、後からテレビを設置することになったという。タブレットでのテレビ視聴では画面が小さく家族で見られないことなどから、客室用テレビの代わりにはならなかった。

各部屋にタブレットが設置され、館内情報を見たりインターネットを利用したりできる
各部屋にタブレットが設置され、館内情報を見たりインターネットを利用したりできる
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 内線電話をSkypeにする目論見も失敗に終わっている。電話代、電話の機器の代金を抑えられると考えたからだが、通話中に突然切れるなどのトラブブルが頻発し、上手くいかなかった。部屋の照明のオン・オフができるようにするなど1台のタブレットに機能を集約しすぎた結果、処理性能が追いつかなくなってしまったのだという。結果的にSkypeは廃止した。

 現在、変なホテルの客室はオープン当初からのA~C棟72室と、増備したD~F棟72室の計144室あるが、A~C棟の客室には電話はなく、必要な場合は宿泊客に自分の携帯電話でかけてもらうようになっている。

オープンから半年後に増設したD~F棟。こちらには最初から内線電話を用意している
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売り上げの約半分が利益に

 さまざまなチャレンジは、人件費や光熱費などをどのくらいカットできたのだろうか。

 オープン当初は72室に対しておよそ30人のスタッフがいたが、ロボットの導入や効率化を推し進めた結果、現在は144室に対してわずか7人のスタッフで済んでいる。光熱費は、部屋数が同じ他のホテルの2/3程度に抑えられているという。

 ロボットが話題になって人気を呼んだことから、現時点でも稼働率は高く、利益率も高い。

 「初年度から利益が出ています。現在は売り上げの約半分が利益になっています。一般のホテルでは考えられない利益率でしょう」(大江氏)。

 ロボットはあくまで効率化のために導入したものだったので、当初はロボットホテルとして人気が出たことに驚いたという。

 「ロボットホテルではなくローコストホテルなどと呼ばれていたら、これほど稼働率は高くならなかったでしょう。最初は戸惑いましたが、それで人気が出たのですから結果的にはありがたいと思っています」(大江氏)。

 ただ、すべてがロボットに置き換えられるわけではない。窓や廊下など共用部分の掃除はロボット化しているが、デリケートさが要求される客室内の掃除、ベッドメイキング、トイレや風呂掃除などは従業員が担当している。

海外にも展開

 ハウステンボスは、2017年3月に「変なホテル 舞浜 東京ベイ」(千葉県浦安市)、2017年8月1日には「変なホテル ラグーナテンボス」(愛知県蒲郡市)をオープンした。「変なホテル」のチェーン展開を着実に進めている。来年後半には中国の上海でも開業する予定だ。

 大江氏はアドバイザーとして、各地とハウステンボスを行き来する忙しい日々を送っている。「変なホテル」のチェーン展開がうまいくかは、大江氏がホテルの運営ノウハウをどれだけ共有させられるかにかかっていると言えそうだ。

 「ここ(ハウステンボスの『変なホテル』)でのチャレンジをベースとして、その経験を各地に持っていく形で展開していきます。これからも『変なホテル』は、どんどん変わっていきます。フロントのシステムも、この秋にはさらに未来感のあるものにバージョンアップする予定です」と大江氏。

 長崎での成功体験を東京や上海でも再現できるか、「変なホテル」の未来から目が離せない。

(文/湯浅英夫=IT・家電ライター)

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