「接客」と聞くと普通はどんなことを思い浮かべるだろうか。飲食店での注文のやり取り、あるいは衣料店での店員によるお薦め商品の案内だろうか。おそらく、いずれもリアルの店舗での店員との対話を思い浮かべるのではなかろうか。

 ところが、この接客をリアル店舗だけではなく、インターネット上でも疑似的に実現できるツールの利用が広がっている。このようなツールは「Web接客ツール」と呼ばれ、主にネット通販事業者などの間で利用が進んでいる。

 例えば、アパレルのネット通販サイトで商品を物色していると、ブラウザー上にポップアップで画像が表示される。画像には購入するか悩んでいたTシャツを500円引きで購入できるクーポンが表示されている。このようにサイト訪問者のアクセスデータや過去の購入履歴などから、その訪問者とより親和性が高いと想定される情報を提供することで、購入率を高めるといった手法で使われている。

 このWeb接客ツールを、8月4日に導入したのがキリンだ。同社はビールブランド「一番搾り」のブランドサイトと自社で運営する直販サイト「DRINX(ドリンクス)」にWeb接客ツールを導入した。

 先述した通り、Web接客ツールは疑似的な接客を実現するツールのため、物販や資料請求の獲得を狙う保険業者など、ネットだけではなくリアルの場でも接客が重要になる事業者が率先して活用してきた。そのため、キリンのようにブランドサイトで活用するのは珍しいケースだ。

「一番搾り」のブランドサイトと直販サイト「DRINX」にWeb接客ツールを導入した
「一番搾り」のブランドサイトと直販サイト「DRINX」にWeb接客ツールを導入した
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 導入の狙いは2つある。1つは顧客の理解を深めることだ。「マス広告で一律のメッセージを届けても効きづらくなっている。特に、クラフトビールやワインのような嗜好性の高いカテゴリーの商品は、そういった商品を好む層にセグメントを切ってマーケティングを仕掛けていく必要がある」と同社デジタルマーケティング部の宮入一将主査は、自社が抱えるマーケティング課題を説明する。

 そこで、キリンは昨年、顧客理解を深めるためにWebサイトのアクセス解析に注力した。ところがサイトのアクセスデータだけでは、嗜好性を十分に捉えきれないことが分かった。

 例えば、ワイン。キリンはメルシャンブランドでワインを展開しているが、サイトの訪問者の目的は多種多様だ。正しいワインの飲み方などのマナーを知りたい、お得なキャンペーン情報を見つけたい、そんなふうに訪問者の目的は細分化している。そのため、「ワインのサイトの訪問者が必ずしもワイン好きとは限らなかった」と宮入氏は言う。

 そこでより深くサイト訪問者を理解するために、プレイド(東京都品川区)が提供するWeb接客ツール「KARTE」を使って、サイト訪問者がコンテンツに触れた直後にアンケートを実施してデータを蓄積し始めた。この蓄積したデータを活用して、サイト訪問者に対してより親和性の高い情報発信や、サイト上のコンテンツの改善に役立てることを狙う。

記事に接触した直後にアンケート

 最初に一番搾りのブランドサイトにツールを導入した理由は、データとコンテンツの豊富さにある。キリンは47都道府県ごとに異なるコンセプト、味を持つ「47都道府県の一番搾り」を展開しており、各都道府県ごとの商品を紹介するページや、「一番PRESS」と称したビールをより楽しむための情報を提供するページなどを用意しており、情報コンテンツを随時、投下している。メガブランドゆえにサイト訪問者も多く、データがためやすい。

「一番搾り」のブランドサイトには「一番PRESS」など情報コンテンツが多い
「一番搾り」のブランドサイトには「一番PRESS」など情報コンテンツが多い
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記事の閲覧直後にアンケートを表示する
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 こうした理由から、「(一番搾りのブランドサイトは)データに基づいて、コンテンツなどを改修するといったPDCAを回しやすいと判断した」(宮入氏)。具体的には一番搾りのサイト上にある記事を閲覧した直後にアンケートを実施して、記事の評価をしてもらう。

 「従来は、Webサイト上のどのタッチポイントが態度変容に影響を与えたのか分析することは難しかった。記事の閲覧直後にアンケートを実施することで、どの記事がブランドへの好意度向上に寄与したのかといった評価をより細かく分析する」(宮入氏)。こうして一番搾りのサイト訪問者の分析を皮切りに、徐々に他のブランドへと、導入先を増やしていく。

 その次の段階では、Web接客ツールを活用したマーケティング施策に取り組んでいく。段階的に施策を進める理由について宮入氏はこう説明する。「導入直後からポップアップで情報を出しすぎると、訪問者のサイト閲覧を阻害することになる。データをためて、適切な情報を出せるようにすべきだ」。

 具体的には一番搾りのサイト上で製法に関するコンテンツを高く評価した人には、ポップアップの画像でクラフトビールのサイトに誘導する。また、既に一部ではテスト的に実施しているが、訪問者の嗜好性に合わせてDRINXで使えるクーポンを配信する。

 今後は、DRINXで取り扱いの多いワインやクラフトビールといった嗜好性の高い商品のサイトの訪問者にもクーポンを配信して、購入に結びつけるなど、収益向上につなげる施策にも取り組んでいく計画だ。

(文/中村勇介=日経トレンディネット)