手描きの許可を社長に直談判

寺島: 飲料は喉が乾くから飲む、そして飲んだら捨ててしまう。お客さんと一緒にいる時間がとても短い、究極の消耗品だと思っています。ところが、お客さんとそれほど短時間しか接しない商品をデザインするために、クリエーターと議論をしながら、膨大な時間をかけて作り上げています。そうした仕事を新商品が企画される度に担当する中で、どこか心で切なさを感じていました。

 中身が美味しいから選んでもらう。それは食品の基本的な価値ですが、それだけではなくて、その人の暮らしの一部になって、一緒にいられるようなデザインの商品を作りたいと思っていました。

 通常の飲料商品は中身の安心感が伝わるとか、味が想像できるといったことがひと目で分かるパッケージを求められます。ですが、moogyをデザインするうえで、そういった飲料商品のデザインの"掟"をすべて捨て去ることから始めました。例えば、ロゴ。主張の強いロゴの使用を止めたかったので、社長に3回も交渉しに行きました。

遠藤: 自分で手描きをしたロゴを、社長も参加する飲み会の席にも持ち込んで交渉することもありました。デザインをする上では、描いたイラストをスキャンして取り込むなど、結構アナログに進めました。バーコードも手描き風のデザインバーコードを採用しています。

飲料商品のデザインの常識を打ち破る「moogy」
飲料商品のデザインの常識を打ち破る「moogy」
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「LOHACO」限定商品として販売
「LOHACO」限定商品として販売
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寺島: 最初はペットボトルでの開発を求められたのですが、描いたイラストをそのまま、はめ込んでもしっくり来ませんでした。そこで思いついたのがペットボトルではなく缶を使い、かつ中身を見せずに、全体を包装で覆うデザインです。この手法で、16種類ものデザインを作ったのは、LOHACOで購入した時にどのデザインが届くか分からない、そんなワクワクを感じてもらいたいからです。

鹿毛: ワークショップなども開催していますが、これは自分たちで企画しているのでしょうか?

寺島: そうですね、moogyの世界観に共感をしてくれそうな来場者が多くいそうなイベントを見つけ出しては、企画書を持参して自ら説明に行っています。例えば、手紙社(東京都調布市)が開催している布の展示イベント「布博」に飲料ブランドとしては初めて参加しました。服を選ぶような感覚て、好きなパッケージを手に取ってもらいたいと思って、出展をしました。

 ブランドサイトを作る上でも、ファッション誌のような世界観を目指して制作会社にデザインを委託しました。飲み終えた後も、長く手元に置いておいてもらいたいので、サイト上には「DIYコーナー」を設けて、moogyのパッケージを筆立てや花瓶として使うための工夫の方法を載せて、提案をしています。

 (写真・動画に特化したSNS)「Instagram」のブランド公式アカウントも自分たちでコンテンツを作っています。投稿した写真にフォロワーからコメントが寄せられれば、それに対して自分たちでコメントを返します。マーケティングや宣伝も自分たちで取り組むのは初めてのことです。

moogyのブランドサイトのDIYコーナー
moogyのブランドサイトのDIYコーナー
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「Instagram」の公式アカウントも自ら運営
「Instagram」の公式アカウントも自ら運営
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水上: こうした結果、結婚式の最後に来場者へのちょっとしたギフトとしてもmoogyが選ばれるようになるなど、これまでの飲料とは異なる買われ方をされています。

左から水上氏、寺島氏、遠藤氏
左から水上氏、寺島氏、遠藤氏
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鹿毛: moogyは自分たちでデザインを手掛けた商品ですが、普段はデザイン会社と一緒に仕事をしていますよね。その場合、クリエイティブをディレクションする上でどの段階から、商品開発に関わっていますか?

水上: 当社では商品開発の最初の段階から関わっています。キリンビバレッジはキリンビールとは組織体系が異なっていて、各ブランドのマーケティングチームにデザイナーが所属しています。

遠藤: ですから、顧客のインサイトの分析やどんな価値を提供するのかといった、商品開発のかなり上流からデザイナーも関わっているのが特徴です。

鹿毛: そういった場合、チーム内で意見がぶつかり合うことは少なくないのではないでしょうか。

水上: 意見のぶつかり合いはかなりありますが、チームよりも営業部門や生産管理といった他部署とぶつかり合うことの方が多いですね。コストの問題などで、生産部門と折り合いがつかないといったことも1つです。ただ、そのぶつかり合いがあるからこそ現実に商品ができあがりますからとても重要なステップだと思っています。

 「赤い帯を入れてほしい」といった、具体的な要望をもらう場合には、まずはなぜ入れたいと思っているのか、といった意見の裏側を考えるようにします。例えば、手に取った人が他の商品と勘違いしてしまうため、より明確にしたいという課題であれば、その課題を解決する手段を提案する。そのようなソリューションをデザイン面から提案することを心がけています。

遠藤: それでも、どうしても入れたいという場合には実際に作ってみることが最も説得力があります。一度、トライしてみることで、本当に必要であるかどうかを判断するようにしています。

(構成/中村勇介)