3Dプリンターやレーザーカッターなどのデジタルファブリケーション(工作機械)を駆使し、身近で手に入れられる道具や材料でものづくりを楽しむ――「メイカーズ(Makers)」と呼ばれる人たちのコミュニティーの輪が広がっている。コミュニティーが集まるイベントは国内各地で開催され、教育やビジネスにつなげようとする動きも見られる。

 メイカーズという言葉が生まれたのは、2005年にデジタル工作情報を集めた専門誌「Make:」が米国で出版されたのがきっかけ。翌2006年には読者を中心としたコミュニティーが主催するイベント「Maker Faire」が開催された。そして、雑誌ワイアードのクリス・アンダーソン元編集長のベストセラーによって、メイカーズは一気に広まった。

 クリス・アンダーソン元編集長の著書「MAKERS」(国内では「MAKERS 21世紀の産業革命が始まる」[NHK出版])には“オンラインを通じて専門技術を持つ有志が集い、低価格化が進む3Dプリンターなどを活用して製造業に構造改革を起こす、メーカームーブメントが始まる”というような話が書かれているが、「身近にある道具や技術を使って創造力を発揮する人たち」もメイカーズと呼ばれている。今では新しいものづくりにチャレンジする人たちの総称として使われるようになった。

 2013年には、オバマ大統領が一般教書演説で3Dプリンターの可能性について触れ、ムーブメントを後押しし、2014年にはホワイトハウスでもMaker Faireが開催された。また、米国でのMaker Faireは、ベイエリアとニューヨークの2会場だけで21万人を超える参加者が集まるほどの盛り上がりを見せる。

 さらにムーブメントは世界へも広がり、各地で100を超える関連イベントが開催されている。日本では2008年という早い時期から独自イベントを開催。2012年には「Maker Faire Tokyo」という名称になり、規模が年々拡大している。2016年には2日間で1.8万人以上が集まる一大イベントへと成長した。

2008年から東京でも開催されるようになった「Make:」イベントは、当初はモノづくりエンジニアのためのイベントという印象が強かった(写真は2009年の会場の様子)
2008年から東京でも開催されるようになった「Make:」イベントは、当初はモノづくりエンジニアのためのイベントという印象が強かった(写真は2009年の会場の様子)
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プログラミングの次はメイカーズ!日本で根付くか?(画像)
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プログラミングの次はメイカーズ!日本で根付くか?(画像)
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2012年から「Maker Fair Tokyo」と名称を変え、今や1万人を超える人気イベントに。2017年は8月5日、6日に東京ビッグサイトで開催される
2014年11月に開催された「Maker Fair Tokyo」にMaker Faireの創設者のデール・ダハティ氏が来日。「コミュニティーによるムーブメントはこれから」と語った
2014年11月に開催された「Maker Fair Tokyo」にMaker Faireの創設者のデール・ダハティ氏が来日。「コミュニティーによるムーブメントはこれから」と語った
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ギークの集まりから本格的な作品展示会へ成長

 関連イベントは東京以外でもあちこちで開催されており、岐阜県大垣市の「Ogaki Mini Maker Faire」は隔年で、大阪は「メイカーズバザール大阪」の名称で4年前から毎年運営を続けている。

 当初これらのイベントは、“電子工作やマイコンでDIYを楽しむギーク(※1)の集まり”、という印象だったが、徐々にバリエーションが拡がり、最近では、本格的なロボットやウエアラブルデバイス、IoT(モノのインターネット化)ガジェット、VR(仮想現実)ゲームなど、一般の人たちの興味を引くようなものが増えている。

※1 コンピューターやネットワークなどに深い関心と知識を持つオタク的な人を指す。

 7月8日、9日に開催されたメイカーズバザール大阪主催する実行委員会の廣瀬雄一氏と加味昇氏は、「参加募集や書類選考などを特に行っているわけではないが、出展数は順調に増え、レベルも確実に上がっている。それに合わせて来場者の層も広がりを感じる」とコメントしている。

 イベントが盛り上がる背景にあるのが、3Dプリンターやレーザーカッターなどのデジタルファブリケーションが使える、“ファブ”と呼ばれるものづくりのための施設が全国で増えていることだ。メイカーズ向けWebサイト「fabcross」が2016年に調査した資料によると、国内のファブ施設は約120カ所あり、前年比で50%も増えているという(※2)。

※2 詳しくはこちらを参照。

 また、デザインや設計に使う製作ツールには、無料で手に入れられるものもあり、週末や空き時間でものづくりを楽しむ機会が身近になっているのも背景の一つにありそうだ。

7月8日、9日に大阪南港のATCで開催されたメイカーズバザール大阪は、1万人近い来場者が訪れた
7月8日、9日に大阪南港のATCで開催されたメイカーズバザール大阪は、1万人近い来場者が訪れた
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プログラミングの次はメイカーズ!日本で根付くか?(画像)
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ロボットやIoTガジェットなど作品のレベルは年々上がり、それらに刺激されてメイカーズの世界に仲間入りする人たちも増えているという

親子連れで参加できるSTEM教育の場に

 メイカーズの活動がこれからも広がりそうな理由として、教育関連のプログラムが増えていることがある。米国では、Science(科学)、Technology(技術)、Engineering(工学)、Mathematics(数学)分野のカリキュラムに力を入れる「STEM教育」が推奨されており、その影響もあってか、米国の Maker Faire は子ども連れの家族向けイベントとしても運営され、参加者全体の半分が親子連れという。

 日本でもSTEM教育は注目されており、今年の中高生男子のなりたい職業ランキングで、ものづくりエンジニアが上位に入るなど、ものづくりへの関心は確実に高まっている。

 メイカーズバザール大阪でもその点は意識していると言い、「子どもの頃の体験がものづくりの楽しさを知るきっかけになることが多い。それにや親子で楽しんでもらうのが大事で、今年はそうしたプログラムを増やした」と廣瀬氏は話す。また、商業施設で開催し、参加費を無料にしている点については、「たまたま商業施設を訪れた家族連れに気軽に立ち寄ってもらい、今まで知らなかった世界に触れるきっかけにしてほしい」(加味氏)としている。

 具体的なものでは、ロボットプログラミング教室や、3Dプリンターを使ったオリジナルミニ四駆の製作、LEDを使ったアクセサリー製作などのワークショップを開催。いずれもたくさんの家族連れが熱心に取り組む姿が見られた。

ワークショップは有料のものもあるが、いずれもほぼ満席状態で親子での参加も多かった。
ワークショップは有料のものもあるが、いずれもほぼ満席状態で親子での参加も多かった。
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リアルなプロトタイプを公開する場に

 日本のメイカーズは作ることだけを楽しむ人が多く、ビジネスにつなげようとする動きが少ない、という指摘もある。だが、当初に比べるとかなりビジネスを意識した動きが増えているのを感じる。

 最近はイベントの展示で、プロトタイプ段階の製品をよく見かけるようになった。大阪のメイカーズバザールでは、1つのモーターで動く自作の立ち乗り型パーソナルモビリティー「Amper」や、戒名や故人の写真などが表示できるハッカブル位牌の「iH.ai」などが出展されていた。

 また、パナソニックの有志による、複数のプロトタイプ製品の出展もあった。同社は今年のSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)でプロトタイプ段階の製品を出展するという初めての取り組みを行っていたが、国内でも活動を継続しているようだ。いずれにしても、メイカーズのイベントに企業が協賛以外の形で出展するケースが目立つようになってきた。

 プロトタイプの段階でクラウドファウンディングを利用して資金を集める方法はあるが、さらにそれ以前のアイデアの段階で意見を聞くには、こうしたイベントを活用するほうが効率的であり、これからもっと増えるかもしれない。

「Amper」の出展者はトヨタの社員で本業でもパーソナルモビリティの開発を手掛けている
「Amper」の出展者はトヨタの社員で本業でもパーソナルモビリティの開発を手掛けている
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戒名や故人の写真などが表示できるハッカブル位牌の「iH.ai」は、位牌の扱いに悩む檀家の声をヒントに元僧侶が開発している
戒名や故人の写真などが表示できるハッカブル位牌の「iH.ai」は、位牌の扱いに悩む檀家の声をヒントに元僧侶が開発している
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パナソニックのワンダーラボのブースでは、動きに合わせて色が変わるLEDウエアラブルブレスレットや、グラスが空になってくると底にメッセージが表示されるデバイスなどのプロトタイプアイデアが出展されていた
パナソニックのワンダーラボのブースでは、動きに合わせて色が変わるLEDウエアラブルブレスレットや、グラスが空になってくると底にメッセージが表示されるデバイスなどのプロトタイプアイデアが出展されていた
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社会とのつながりを求めて

 ものづくりと社会貢献とビジネスをつなげる動きも始まっている。例えば、産学連携グループの「カラーリサイクルネットワーク」は、デジタル市民工房の「FABLAB北加賀屋」とコラボし、大量に廃棄される衣類をコンピューターミシンでオリジナル小物にリサイクルするワークショップを通じて活動を認知してもらい、ビジネスへも発展させようとしている。

 3Dプリンター製の自助具をデザインしている「水ラボラトリ」は、デザインと機能に優れた生活支援グッズが少ないので、自分用に作り始めたのをきっかけに、今では販売までするようになったという。日本では自助具=介護用品と思われているが、水ラボラトリの作品は日常で使っても便利なようにデザインされており、バリエーションを増やすことで、もっと多くの人たちを助けたいとしている。

社会貢献につながるリサイクル活動にメイカーズのノウハウを取り入れるといった動きが始まっている
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独学でオリジナルの自助具をデザイン発売している水ラボラトリのようなメイカーズもこれから増えそうだ
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 会場では、出展者から「実際に作品を見てもらい、直接意見を聞くことで、もっと良いものを作りたい」というコメントを聞かされることが多く、メイカームーブメントが日本で本格的に始まるのは、もうすぐなのかもしれない。

(写真・文/野々下裕子)

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