広告宣伝だけでなく、企業と消費者とのコミュニケーション全体を支える存在になりつつある「LINE」。そんなLINEの“現在”を代表取締役社長CEO(最高経営責任者)の出澤剛氏に聞いた。日経BP社はLINEをマーケティングに活用するノウハウをまるごと理解できるムック『LINEビジネス活用の極意100』を6月29日に発売した。さらにLINE上級執行役員の田端信太郎氏による30人限定の特別セミナー「3時間で完全理解 最新LINE活用から考えるマーケティング講座」を7月27日に開催する。

出澤剛氏(LINE 代表取締役社長CEO)
出澤剛氏(LINE 代表取締役社長CEO)
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――LINEの国内ユーザーは6800万人を超えました。生活者にとってどのような存在になっていると考えていますか。

出澤剛氏(以下、出澤): かつてのコミュニケーションは携帯電話やメールが主でしたが、今はLINEが当たり前。インフラ的に使われています。

 従来のSNSのように数年スパンで飽きられるものではなく、性別・世代を問わずに使っていただける、より一般的な通信サービスになっています。アクティブ度も安定的に伸びています。月に1回以上使っている利用者のうち、毎日使っている人は84%。1人当たりのメッセージの送信数も伸びている状況で、より広く、多くの人に使っていただいています。

 利用者が6800万人に達して、インフラ的なサービスになることで、他のサービスに置き換わることも難しくなっています。利用者同士の結び付き、つながりの強さが我々の事業価値です。LINE上で新たな事業を展開するうえでも、ユーザーベースが大きいので、より価値を提供しやすいと考えています。

――個人間のメールがLINEに置き換わったように、ビジネス用途でもLINEが活用される可能性はあるのでしょうか。

出澤: その狙いで始めたのが「LINE WORKS」です。これは仕事版のLINEと言えるサービスです。LINE WORKSは企業のシステム部門などが導入し、社員向けにアカウントを発行して利用します。LINEをはじめとしたチャットアプリが普及して、個人と個人のコミュニケーションはチャットが中心となり、メールの利用量は相対的に低下しています。その変化の波はまだ企業間のコミュニケーションにまでは及んでいません。ですがチャットを使えば、企業と従業員や、従業員同士、企業と顧客のコミュニケーションがより円滑になるはずだと、そう考えて開発しました。

「LINE WORKS」の公式サイト
「LINE WORKS」の公式サイト

――ビジネスのコミュニケーションがLINE WORKSに変わると、仕事の仕方はどう変わりますか。

出澤: コミュニケーションが活性化し、仕事の効率が大幅にアップします。活用企業の中には緊急の連絡を全て、メールではなく、プッシュ力の高いLINE WORKSで行っているところもあります。

 LINE WORKSで稟議書の写真を決済権者に送って確認することで承認が完了するなど、チャットを承認フローにしている例が、大企業でもあると聞いています。

コミュニケーションが円滑に

 メールを打つのが大変だ、書き出しをどうすべきか、添削しなきゃなどとためらわずに済み、用件ベースで会話が進むため、コミュニケーションの効率が上がります。写真やファイルを簡単に送れるため、業務効率の向上にもつながります。

 古い調査ですが、「LINEを使い始めた夫婦の40%がコミュニケーションが増え、30%がより仲が深まった」という結果が出ています。仕事においてもコミュニケーションが活発化することで、関係性が深まり、仕事の効率アップにつながるのではないでしょうか。

 企業向けツールは、操作が難しかったり、動きが機敏ではなかったりして、使いにくいことがあります。ですが、LINE WORKSのUI(ユーザーインターフェース)はLINEとほぼ同じ。そのため、LINE利用者であれば直感的に利用できます。ですから教育や導入の負荷があまりなく、すぐ始められるのも大きなメリットでしょう。

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――LINE WORKS導入済みのスマートフォン端末を、MVNO(仮想移動体通信事業者)サービス「LINEモバイル」から企業向けに提供するなどの計画はありますか。

出澤: 法人向けにLINEモバイルとLINE WORKSとを組み合わせて提供する商品については、企画していると聞いています。まだ正式にお話できることはないのですが、LINEモバイルのSIMロックフリー端末にLINE WORKSをバンドルし、法人向けプランとして提供する、といったアイデアは企画会議ではよく出ますし、ニーズも高まっています。

――LINEの社内では、社外のクライアントなどとのコミュニケーション手段として、LINEを使うことを推奨しているのですか。

出澤: 難しい質問ですね。一般論で言うと、企業としてはプライベートのLINEで、重要なお客様と社員が連絡を取り、企業が管理できない状態は、いわゆる「シャドーIT」と呼ばれて、内部統制の面で大きな課題になっています。従業員の立場からしても、LINEはプライベートなものなので、会社や同僚から「LINEのID教えて」と言われると抵抗を覚えるかもしれません。

 その一方で、企業側も従業員側も、一番使いやすいコミュニケーションツールがLINEだという認識があるはず。ですから、プライベートのLINEと分けて使うLINE WORKSに、世の中のトレンドが寄ってくると思います。イントラネットにプライベートのLINE IDを掲載することに抵抗があっても、会社のメールアドレスなら載せてもいいと思いますよね。それと同じイメージです。

――LINE社内では、LINE WORKSを業務に利用しているのでしょうか。

出澤: 使い倒していますよ。サービス開始時から全員にアカウントを付与しました。メッセージサービスだけではなく、スケジュール管理もLINE WORKSを使っています。メールや営業資料などを保存できるクラウド型のストレージ、社員名簿といった機能もあるため非常に便利です。外部の人がLINEを利用していても、LINE WORKSであればそのまま連絡を取れます。

――仕事のやり取りがLINEに置き換わったことによる利点は何ですか。

出澤: 話を詰めるスピードが非常に速いですね。「今日の会食でこんな話を聞いたんだけど、どう思う?」と役員同士がLINEで盛り上がり、そのままLINE会議が始まることも多い。LINEのチャットルームで通話ボタンを押せば、複数人で通話もできる。時間が節約でき、空間もショートカットできます。LINEは新サービスのリリース数や頻度が多いといわれますが、こうした背景もあると思います。

――企業のマーケティングプラットフォームとしても利用が進んでいます。

出澤: LINEのマーケティング活用は、スタンプやLINE公式アカウントを使った広告宣伝・マーケティングからスタートしました。FacebookやTwitterといったSNSは、企業も無料でページやアカウントを開設できるなど基本は無料でしたが、当社はあえて、大手企業向けのマーケティング商材として利用料金を高めに設定した。間口を狭める代わりに、一極集中的に集客できるようにしました。

 その後、中小企業が活用できるサービス「LINE@」や、LINEと企業のシステムを接続することで、1to1のマーケティングに利用できる「LINEビジネスコネクト」などを提供しました。このほか、企業のLINE公式アカウントを友だちに追加したり、動画広告を見たりすることでもらえる「LINE ポイント」というサービスも始めました。「LINE Ads Platform」という運用型広告も伸びており、マーケティングサービスとして進化しています。

スマホの予約型では国内No.1

 最近では、LINEと企業のコールセンターのシステムとをつなぎ、LINEでコールセンターを実現する「LINEカスタマーコネクト」というサービスも始めています。サービスが多角化することで、導入先も企業の広告宣伝部から、顧客サポート部門や情報システム部門などへと広がっています。

――マーケティングプラットフォームとしてのLINEはどれぐらいの存在感があると見ていますか。

出澤: スマートフォン向けの予約型広告では、日本国内に限定すると、我々がナンバーワンだろうと思います。例えば、LINE Ads Platformは、サービス開始から約1年がたちますが、相当早く力強く立ち上がったという印象です。

――既に日本の人口の半分以上が使っています。成熟した状態で、今後のユーザー拡大は難しいのでは。

出澤: 私は成熟し切ったとは思っていません。この1年(2016年3月末から17年3月末)で比較しても、ユーザーは約730万人も増えています。LINEは基本的にスマートフォン向けのサービスですが、日本のスマートフォン普及率は7割程度と他の先進国と比べると低く、伸びしろは十分あると見ています。

 短期から中期の方向性としては、「スマートポータル」と呼ぶ戦略で、LINEを軸にした、さまざまな事業やサービスを展開してきました。決済サービスの「LINE Pay」、ゲーム配信サービス「LINE GAME」、漫画配信サービスの「LINE マンガ」、音楽配信「LINE MUSIC」、LINEモバイルなどです。これにより端末からサービスまで「LINEがあれば何でもできる」を目指しています。

 ただし、むやみにサービスをつくるのではなく、利用者にとって便利なポイントを探し、成功が期待できる分野に参入しています。

 LINEならではの価値は人のつながりです。LINE Payは、身近な人同士で「割り勘」ができますが、これはLINE上に築いたソーシャルグラフを生かしています。LINE MUSICではLINEの着信音に楽曲を設定できますが、若い人は、着信メロディーを知らないようで、着信音にできることを驚き、喜んでくれています。

 長期的な戦略ではクラウド型のAI(人工知能)プラットフォーム「Clova」の研究開発に力を入れています。ネットと接続したスピーカーを使い、音声でさまざまな製品やサービスをコントロールできて、さらに機械学習によってより賢くなるというサービスを開発しています。

AIプラットフォーム「Clova」を搭載するスマートスピーカー「WAVE」
AIプラットフォーム「Clova」を搭載するスマートスピーカー「WAVE」
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 あらゆる製品がネットにつながるIoT(モノのインターネット)が進む中で、それらを音声でコントロールするという新しい領域です。これにより実現したいのは、バーチャルアシスタントです。

 例えば、「明日、これぐらいの予算で飲食店を予約しておいて」と指示を与えると、予約が完了する。そんな世界を目指して開発を進めていきます。

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(構成/中村勇介=日経デジタルマーケティング、編集協力/岡田有花=ジャーナリスト)