7月26~28日に六本木アカデミーヒルズで開催する「D3 WEEK 2017」。その3日目(7月28日)の注目コンテンツが『日本の企業にCMOを!―JMA「CMOソサエティ」発進』(13:00~13:40)というパネルディスカッションだ。日本を代表する3人のCMOが、日本企業がCMOを導入する意義と課題などについて持論をぶつけ合うトークバトルが展開される。その開催に先立ち、当日登壇するネスレ日本専務執行役員CMO(最高マーケティング責任者)の石橋昌文氏と、ファシリテーターを務める博報堂執行役員/エグゼクティブマーケティングディレクターの安藤元博氏にインタビューした。

――マーケティングの要諦は、新たな付加価値を生み出すこと。つまりはイノベーションだと思いますが、こうした認識が日本では広がっていません。

ネスレ日本専務執行役員CMO(最高マーケティング責任者)の石橋昌文氏
ネスレ日本専務執行役員CMO(最高マーケティング責任者)の石橋昌文氏
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石橋氏: 当社の高岡(浩三)社長はよく「去年と同じことをやるのは仕事として認めない」と言います。決まったことをやるのは事務作業で、新しいことで価値を出すのが仕事だと言うのです。作業の効率化と同時に新しい仕事の創造も求められているので、正直言って社員は大変だろうと思います。

 この考え方を徹底させるため、2011年から始めた制度が「イノベーションアワード」です。毎年、社員全員に自分の顧客の定義、その問題の発見と解決方法のアイデアとその実行結果を報告してもらい、役員会議で受賞者を選びます。

 マネジャーはイノベーションの種を見分ける力を養い、部下と一緒にミッションを共有した上で仕事を遂行しなくてはならない。たとえ困難でも、全社的にイノベーション文化を育てることで、マーケティング発想の会社に変わることができます。


CMOはもっと注目されるべき

安藤氏: 石橋さんのお話にもあったようにイノベーションの創出はマーケティング、そしてCMOに求められる最大の役割です。イノベーションの種類はいくつかありますが、顧客価値創造を軸にするイノベーションを創るリーダーがCMOと言えるでしょう。その意味で、この役割を果たすCMOはもっと増えないといけませんし、もっとCMOは注目されるべきだと思います。

――イノベーションについて高岡社長は、「消費者が気が付いていない課題を解決することだ」と仰っていますね。

石橋氏: ネスレは食品メーカーであって、そもそもおいしくないものは商品にしませんが、どの商品も「おいしい」は既に、向上の限界に近い水準にあります。

 現代はモノがあふれていて、モノの提供で顧客の問題解決ができる時代ではない。消費者が欲しいものを作るだけでは、消費者を満足させることができない。だからお客様の気付いていない問題を探し、解決策を提供するイノベーションで差別化する必要があるわけです。

 難しいのは問題の探し方です。(消費者アンケートなどの)調査をすれば出てくる性質のものではない。小規模な仮説検証を繰り返して、うまく行けば拡大し、行かなければ新しい仮説を作ってさらに探すことになります。

 (コーヒーマシンを無償提供する代わりに、オフィスで「ネスカフェ」を普及するアンバサダー(大使)になってもらう)「ネスカフェアンバサダー」という仕組みも、最初から現在のモデルがあったわけではありません。

 オフィスでコーヒーを飲みたいというニーズを出発点に、手探りで進めながら徐々に現在の形になりました。

博報堂執行役員/エグゼクティブマーケティングディレクターの安藤元博氏
博報堂執行役員/エグゼクティブマーケティングディレクターの安藤元博氏
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安藤氏: やはりネスレのイノベーションに対する認識は、他の日本企業とは大きく違っていますね。

 仮にネスレと同様の認識を持つ企業があったとしても、同じようにやりたいのにできないのは、既存のビジネスのやり方や組織のあり方を変えないといけないから。そこまでできない企業が少なくないのでしょう。

 しかもこのイノベーションを、3カ月に1回の新商品の開発、流通網への展開、小売店の棚の確保など、通常のマーケティングプランを実行しながら実行しなければならない。

 持続的なイノベーションは顧客に付加価値を提供するための仕組みを作り直すのが前提だとすると、そのサポートは、我々のような外部企業に求めるられているのかもしれません。

――イノベーションの推進役となるCMOは、日本でも徐々に増えていますが、米国などと比べると圧倒的に少ないのが実情です。

石橋氏: CMOを設ける、設けないの議論の前に、「マーケティングとは何か」をきちんと考えていない企業が多いからではないですか。

 当社はマーケティングがビジネスを推進するエンジンになっていますが、日本企業の多くは、そうなっていない。製造部門や営業部門がビジネスを推進し、そのサポートをする広報や宣伝、調査などの組織や機能をマーケティングと呼んでいる。これでは(ネスレのように)各事業部が主体的にマーケティングを展開できません。

機能が不明確なら役割は果たせない

 CMOを云々する前にマーケティングの機能を見直すことが先決で、その後にマーケティングを推進する役割としてCMOの話が出てくる。それが当然の順番でしょう。

 いきなりCMOを任命してみても、率いる組織や機能が明確でなければ、役割を果たせるはずがありません。

安藤氏: マーケティングの位置付けと見直しをどうするかを、まずは議論すべきです。マーケティングを経営の中心に位置付けた先駆者の1つがネスレで、他社にかなり先行していましたが、今では徐々に他の企業も同じように考えるようになってきた。そんな印象があります。

 背景にあるのは国内市場の成熟とデジタル化、グローバル化です。4~5年前とは違い、今やCMOを知らないという人はほとんどいなくなった。けれどもCMOとは経営をリードする役割で、それがきちんと機能しているかというとまだ疑問が残る。これからの課題でしょう。

(文/安倍 俊廣=日経デジタルマーケティング、
編集協力=ITアナリスト 冨永 裕子)