台本作りでお寺や博物館への取材も敢行

 オーディオブックの作り方はこうだ。オトバンクは、出版社やラジオ局などのコンテンツホルダーにオーディオブックの企画を提案し、提案先から依頼を受けて、著作権処理・制作・取次・販売を一括して請け負う。制作費はオトバンクの負担。主な制作工程は書籍の台本化、キャスティング、収録、編集だ。制作期間は短くて2カ月、文芸作品では通常3~4カ月をかけている。人気声優を起用した場合は、まとまった時間を確保しづらく、少しずつとり進めていくことになるので、1年ほどかかることもあるという。

オトバンクは自社内に録音スタジオや編集部門を持っている。声優経験者などがディレクションを務める
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 書籍を台本にする際は、当て字やカッコで補足説明されている部分を書き換えたり、固有名詞など難読部分の読み方を、アクセントも含めて明確にする。時代ごとの風俗などを確認するため、博物館を訪ねて学芸員に話を聞くこともあるという。「苦労するのは歴史モノなどに登場する戒名。お寺へ電話で問い合わせるものの、住職がご高齢で耳が遠く、電話では話が通じないので、お寺を訪ねて対面でご回答いただいたこともあります」(上田氏)。

小野大輔の「せか猫」など、こだわりのキャスティング

 キャスティングは、オトバンクが候補を挙げて著者が承認する。例えば、主人公のモノローグが多い『世界から猫が消えたなら』(川村元気著)は人気声優の小野大輔を起用して大ヒットした。『筋トレが最強のソリューションである』(Testosterone著)には、ベテラン声優の玄田哲章を起用。アーノルド・シュワルツェネッガー出演映画の吹き替えなどで知られる玄田の声と筋トレという題材の相性の良さで、異例のヒットにつながった。『声で聞く シルバー川柳 七転び八起き編』(みやぎシルバーネット、河出書房新社編集部編)は毒蝮三太夫が朗読を。年配層から問い合わせが多かったという。

2013年の話題作『世界から猫が消えたなら』は人気声優の小野大輔を起用。女性ユーザー増加の一助となった
2013年の話題作『世界から猫が消えたなら』は人気声優の小野大輔を起用。女性ユーザー増加の一助となった
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『海賊とよばれた男』は有名俳優を起用。上下巻にわたる大作のため、出演者は20人ほど、総再生時間は29時間に及ぶ
『海賊とよばれた男』は有名俳優を起用。上下巻にわたる大作のため、出演者は20人ほど、総再生時間は29時間に及ぶ
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 著者の希望を生かして成功した例もある。『夢をかなえるゾウ』では、“こてこての関西弁”を話すキャラクターに、オトバンクは関西出身の声優を推したが、著者からのリクエストは「もっとどぎついオッサンがいい」。「どぎついオッサン」の演技を優先して選考し直した結果、鹿児島県出身の声優・大川透に関西弁指導をつける形に落ち着いた。配信後は、生き生きとしたセリフ回しでユーザーの評判は上々だ。『一路』(浅田次郎著)では「江戸弁を話す人にお願いしたい」との著者の希望で、落語家・林家たけ平の一人語りの形を取り、売れ行き好調という。

 収録は、オトバンク社内のスタジオか、提携先スタジオで行う。制作部には声優の経歴を持つスタッフもいて、キャストへの演技指導には妥協がない。「声優事務所から新人をしっかり教育してもらいたいといわれることも。また、声優自身も意欲的に取り組んでくれている。オーディオブックでは、アニメに特有の節回しは使わず、長く聴いても疲れない自然なしゃべり方で、かつ感情が伝わるように読む必要がある。そうした点を『勉強になる』と捉えてもらえたようだ」(上田氏)。