2016年は、新たに配信を開始したスマホ用カードゲーム『Shadowverse』(シャドウバース)が「Google Play Best of 2016」でゲームの部・ベスト対戦ゲーム部門大賞を受賞。スマホ用アプリゲームに限らず、アニメやマンガ分野にも積極的に進出するなど、ビジネスの場を広げているのがCygamesだ。テレビCMでも認知度を上げた『グランブルーファンタジー』でも知られる。そんな同社の現況、および今後の事業展開はいったいどんなものになるのだろうか? そして、今後のゲーム業界をどのように見ているのだろうか? 同社常務取締役であり、『シャドウバース』のプロデューサーも務める木村唯人氏に話を聞いた。

(聞き手/鴫原盛之、写真/シバタススム)

木村:唯人(きむらゆいと)
木村:唯人(きむらゆいと)
Cygames常務取締役
東京大学大学院卒業後、カナデン、シリコンスタジオを経て、2011年、代表の渡邊耕一とともに創立メンバーとして、Cygamesに参加。『神撃のバハムート』や『グランブルーファンタジー』『シャドウバース』のプロデューサーを務め、2015年4月より現職。『PROJECT LOST ORDER』『プリンセスコネクト!Re:Dive リダイブ』といった今後リリース予定の新作タイトルのプロデューサーも担当するなど、経営と並行して、ゲーム開発にも深く携わっている。
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『シャドウバース』は配信直後から予想を超える好調

――年が明けて久しいタイミングではありますが、2016年はCygamesにとってどんな年でしたか。

木村唯人氏(以下、木村氏): 大きいのは6月に『シャドウバース』をリリースしたことです。日本の市場では、まだなじみのないスマートフォン向けの対戦型カードゲームということで、当初は1年ぐらいかけて浸透させるつもりでいたのですが、配信直後から非常に好調で嬉しい誤算となりました。CyberZが主催した「RAGE(レイジ)」という大きな賞金制の大会も開催され、こちらも多くの方に視聴していただいて盛り上がりましたね。現在は英語版と韓国版だけですが、Cygamesとしては久々に全世界に向けて配信するタイトルにもなりました。

ゲーム連動アニメに注力のCygames 海外ヒットも狙う(画像)
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ゲーム連動アニメに注力のCygames 海外ヒットも狙う(画像)
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『シャドウバース』

 一方、『グランブルーファンタジー』(グラブル)は、全国各地でコンサートを開催したり、アニメの放送開始に向けた準備をしたりしてきました。アニメは今年4月に放送がスタートします。ほかにも、自社IP(ゲームのタイトルやキャラクターなどの知的財産)のクロスメディア展開を強化するために、無料の漫画配信サービス「サイコミ」をリリースして、『グラブル』や『神撃のバハムート』のコミカライズタイトルを連載したり、CygamesPicturesというアニメ制作子会社を作ってアニメに力を入れる体制を作ったりしました。

 また、「Cygames NEXT」という自社のゲーム発表会では、『ウマ娘 プリティーダービー』『PROJECT LOST ORDER』『プリンセス コネクト! Re:Dive』などのタイトルを発表しました。

『ウマ娘 プリティーダービー』
『ウマ娘 プリティーダービー』
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『PROJECT LOST ORDER』
『PROJECT LOST ORDER』
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2017年は新作、クロスメディア、海外展開に注力

――2017年はどこに重点課題を置かれていますか。

木村: 重点課題はたくさんありますね。まずは、昨年制作発表会で発表した新作タイトルをしっかりと出すことです。『シャドウバース』のように、ユーザーが新しい体験ができるもの、今まであまりなじみのない新鮮な体験ができるものを、今年はどんどん出していきたいですね。

 また、『神撃のバハムート VIRGIN SOUL』『グランブルーファンタジー』はアニメが始まります。ゲーム以外のクロスメディア展開をして、より弊社のIPに触れてもらう機会を増やそうと考えています。

 海外戦略も今年から本格的に展開していきます。昨年から北米市場に注力していましたが、今年はアジア地域への展開も力を入れてやっていきたいですね。『シャドウバース』は韓国版の配信を2月7日に開始しましたが、これは現地に拠点を作るぐらいの勢いでやろうと思っています。やはり現地に拠点がないと、ユーザーサポートやプロモーションが全然うまくいかないんですよ。eスポーツのようなイベントを開催するにしても、現地に拠点を置くことが必要です。

アニメ化される『グランブルーファンタジー』
アニメ化される『グランブルーファンタジー』
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――まずはアジアの中でも、韓国に力を入れるということですね。

木村: はい。距離的にも文化的にも近いですし、以前、『神撃のバハムート』の韓国版の運営をしていたことがある流れで、韓国で絶対にヒットさせるぞという情熱のあるスタッフがいるんです。eスポーツが流行している国ですし、ここで足掛かりを作りたいという思いもあります。

――北米の状況はいかがですか。

木村: じわじわ伸びてますね。特に、パソコン版が好調です。日本とは逆で、あちらは自動車文化なので移動中にスマホとかはできませんから、メーンがパソコンでサブがスマホになるんですね。パソコン版を作っておいてよかったなと本当に思います。

――先ほどクロスメディア展開のお話がありましたが、クロスメディア展開は新規ユーザーの獲得が狙いなのか、それとも既存のユーザーにより深く訴求を図るのか、どちらに主眼を置かれているのでしょうか。

木村: 両方ですね。例えば、「サイコミ」には、弊社のゲームとは関係のない作品もあります。漫画やアニメをきっかけにゲームを知ってもらったり、すでに遊んでいただいているゲームに漫画やアニメでコンテンツとしての広がりを出したり、コンテンツごとに役割は違います。

――マンガやアニメも、今後はゲームと同様に海外展開にも注力したいとお考えですか。

木村: はい。アニメはすでに海外でも翻訳されたものが展開されていますが、これからはマンガの配信もしたいと考えています。

木村唯人常務
木村唯人常務
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――アニメ制作は外注もできますが、グループ内にアニメ制作会社CygamesPicturesを作ったのはなぜなのでしょう?

木村: 自分たちで制作したほうが作りやすい場合があるからです。例えば、スケジュールを柔軟に組めるというメリットがあります。アニメは作る順番が決まっているので、途中で作り方を変えたりすることはできないのですが、自分たちでなら、ある程度、調整できる面がある。

 弊社で新事業を始める場合は、それをやれて、なおかつ強い情熱を持った人が立ち上げることが多いのですが、今回も社内にアニメを作れて、かつアニメをやりたいというスタッフがいたというのもありますね。

――昨年にはLogicLinksという子会社も設立されています。こちらはどのようなサービスを提供する会社ですか?

木村: データ分析を元に、ゲームのディベロッパー(開発元)やパブリッシャー(発売元)に自分たちのコンテンツをどんなふうに宣伝したらいいのか、どんなゲーム内容にすればいいのかなどのコンサルティングを行います。弊社は常日頃からデータ分析にかなり力を入れていて、ノウハウもいろいろ持っているんですよ。いろいろなタイプのゲームを出しているので、ユーザーもいろいろなタイプがいるんですね。

 LogicLinksは、『グランブルーファンタジー』のプロデューサーも務めた春田康一が強い思いで立ち上げた会社です。Cygamesだけでなく、ゲーム業界全体に貢献していきたいと考えています。

コラボ企画やイベント、eスポーツにも引き続き尽力

――昨年は『グランブルーファンタジー』と『サムライスピリッツ』など、ユニークなコラボ企画をいろいろと実施されていましたが、今後も新たなコラボやイベントなどを開催する予定はありますか?

木村: はい。自社IP同士の企画ですが、2月には『グランブルファンタジー』と『シャドウバース』とのコラボを実施しました。ユーザーイベントとしては、e-sports促進機構が主催する「Shadowverse Rise of Bahamut~ファミ通CUP2017~」が2月7日から開催されています。東西で1000人ずつのプレーヤーが参加した全国大会です。

 3月にはアニメジャパンに参加しますし、その先にも大きなものを予定しています。私もゲームユーザーの1人として、リアルに楽しめるイベントがあったらやはりうれしいなと思います。ゲーム以外でも、ユーザー同士で楽しめるリアルな交流の場を作ることで、ユーザーさんへの恩返しをしたいという思いが強いですね。

ゲーム連動アニメに注力のCygames 海外ヒットも狙う(画像)
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2016年から2017年にかけて全国5カ所でオーケストラによる『グランブルーファンタジー』のコンサートも行った

――最近はゲーム実況などの人気もあり、自分でプレーするだけでなくほかのユーザーのプレーを見る楽しみ方も一般化しているように感じます。以前、『シャドウバース』のイベントを拝見しましたが、見る側にもゲームの内容がとても分かりやすいという印象を受けました。

木村: 見る人に分かりやすくするために何をすべきかはいつも考えるようにしています。ゲームをプレーする人口と見る人口、両方を盛り上げていかないといけないと思っているんです。

 広告もあえていろいろなセグメントの人に届くように出しています。ゲームからちょっと離れた人や女性向けにもアプローチして、まずは1回、みなさんにゲームを遊んでみてほしい。たとえ自分の好みではなくても、遊んでいただければゲームのルールが分かるようになります。その結果、ゲームをプレーするユーザーと、ゲームは自分には合わなかったけど、何となくは分かったからイベントを見てみようかなという視聴ユーザーの両方を集めていけたらと思っています。

ゲーム連動アニメに注力のCygames 海外ヒットも狙う(画像)
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『シャドウバース』の全国大会「Shadowverse Rise of Bahamut~ファミ通CUP2017~」には、東西で1000人ずつのプレーヤーが参加する

――eスポーツの大会やプロゲーマーによる対戦企画なども考えていますか。

木村: 形はどうなるか分かりませんが、プロリーグはぜひ実現したいと思っています。弊社は『シャドウバース』からeスポーツに取り組み始めました。『シャドウバース』がたまたまeスポーツをやりやすいゲームだというのもありますが、『シャドウバース』を盛り上げるためだけでなく、ゲーム業界全体を発展させるためにも、eスポーツを浸透させる活動をしていきたいですね。

――『シャドウバース』のパソコン版をリリースしたのもeスポーツでの展開を意識してですか。

木村: 海外進出をするにあたって、国によってはパソコンゲームのほうが強いからというのもありますが、eスポーツも意識しています。eスポーツの大会を実施するうえで、スマホだと回線や端末によって環境の公平性を欠いてしまう場合があります。大きな大会を開催しようとなると、パソコン版が絶対に必要だと思っていました。

2017年はスマホゲームに変動が起こる年に

――昨年はVRが業界的には大きなトレンドとなりました。今年のゲーム業界はどんな方向に進むと思われますか。

木村: スマホ向けゲームに関しては、ユーザーが新しい体験を求めていると感じています。2012年あたりから流行したトレンドがもう通用しない、同じような仕組みはもう飽きられてきているのではないでしょうか。

 去年の例で、新しい体験といえばやはり『ポケモンGO』ですよね。スマホ向けゲームでありながらVRにも対応したサイバーエージェントの『オルタナティブガールズ』も、ゲームユーザーの間では話題になりました。2017年2月には、任天堂がスマホ向けのシミュレーションRPG『ファイアーエムブレム ヒーローズ』を出しています。去年までは模索の段階という感じがしましたが、今年は新しいタイプのゲームがいろいろ登場して変動が起きる年になりそうです。

 ゲーム業界全体では、スマホのタイトルが徐々にコンシューマー向けゲームのほうに入ってくるのではと見ています。コラボから始まって、スマホのIPがコンシューマー向けゲームになり、それをきっかけに新しいユーザー層がコンシューマーにも目を向けるというような形です。ただし、今までスマホ向けゲームを作っていたメーカーが、いきなりコンシューマー向けソフトを作ることはないかもしれません。弊社の場合、元々コンシューマーで開発をしていた経験者がいますので、いきなり単独で作ってしまいますが(笑)。PS VRもそろそろ手に入るようになるでしょうし、Nintendo Switchも出ますから、こちらでも何か大きな変化が起きそうですね。

木村唯人常務
木村唯人常務
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日本ゲーム産業史
ゲームソフトの巨人たち
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