「米のヒット甲子園2018」で大賞米の座を射止めた、新潟県の「新之助」。「コシヒカリ」を擁する新潟県が満を持して生産を始めた新ブランド米は、いったいどのような米なのか。生産地を訪れた。

おいしい米を生み出すのが新潟県の責務

 新潟県で「新之助」の開発が始まったのは、2008年。「コシヒカリ」というトップブランドがあるにもかかわらず、新品種の開発に着手したのは、温暖化対策と台風などの気象災害を回避するためだった。目指したのは、高温への耐性があり、強風でも倒れない品種だ。

2018年は台風の影響で、稲がなぎ倒される光景が各地で見られた。台風にも負けない強さを備えるべく、「新之助」の稲は「コシヒカリ」よりも10cmほど短い(写真提供:髙塚俊郎氏)
2018年は台風の影響で、稲がなぎ倒される光景が各地で見られた。台風にも負けない強さを備えるべく、「新之助」の稲は「コシヒカリ」よりも10cmほど短い(写真提供:髙塚俊郎氏)
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 「どんな状況だろうと、おいしいお米を求める声に半永久的にこたえるのが、日本一の米どころ新潟の責務だと思っていますから」と語るのは、新潟県農林水産部農業総務課の神部淳政策室長。

 ただし新潟県には、早生品種の「こしいぶき」、中生品種の「コシヒカリ」がある。これらの米と収穫時期がバッティングしてしまっては、生産者にとってもメリットがない。そのため、新品種は晩生品種として開発された。そして、約20万株の候補から選抜を繰り返し、最終的に選ばれたのが新之助だ。

 「通常は1年に1度しかできない開発工程を2度行うため、石垣島でも栽培し、世代を促進させ、開発のスピードアップを図りました。それでも、開発には8年かかりましたね。新潟県内の、どの地で、どの方が作っても間違いなくおいしいという評価をいただくために、生産者には厳しい要件を設けています」(神部室長)

「赤白のパッケージは贈答にも使用できるよう、めでたさを演出しました」と神部室長。また、女性的な印象の名前の米が多い中で埋没しないよう、現代的な日本男児をイメージさせるネーミングを採用した
「赤白のパッケージは贈答にも使用できるよう、めでたさを演出しました」と神部室長。また、女性的な印象の名前の米が多い中で埋没しないよう、現代的な日本男児をイメージさせるネーミングを採用した
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 こうして生まれた新之助は、硬く大粒で、コクと甘みが強いという、主力品種であるコシヒカリとは異なるベクトルのおいしさが特徴だ。「特に『冷めてもおいしい』という点が、消費者には高く評価されているようです」(神部室長)。

 とはいえ、新之助は決してコシヒカリの代替種ではない。「県が目指すのは、新之助がコシヒカリと双璧をなすトップブランドとして確立していくことです」と神部室長。日本一の米どころを自負する県の挑戦は、まだ始まったばかりだ。

「新之助」本来のパフォーマンスに期待

 新潟県で、新之助の生産を行う農家は約1400戸。新潟市秋葉区にあるタカツカ農園の髙塚俊郎氏もその一人だ。東京でのサラリーマン生活を経て地元にUターンし、実家の農園で働き始めたのは1999年。そのわずか1年後、父から農園経営の一切を任された。

 現在は米以外に果樹や野菜の栽培も手がけるほか、「畑のがっこう事業」「森のようちえん」など、子どもたちに自然や農業の素晴らしさを伝える取り組みも積極的に行っている。

 そんな髙塚氏が新之助の生産を始めたのは、試験栽培のときに見た稲の姿の美しさと、その味に感動したからだ。

 「茎がコシヒカリより短いけれど、たくましくて立派。試食会に参加して、おいしさも実感しました。これはもう、作るしかないと」(髙塚氏)

 髙塚氏が新之助の生産を始めて、2019年で4年目になる。

「2018年はヒヤヒヤしたけど、なんとかいい米に育ってくれて、新之助には感謝」と語る髙塚俊郎氏。米作りはもちろん、“地元の風土で当たり前に生み出せる農作物を口にする体験”を子どもたちに提供すべく、奮闘する毎日だ
「2018年はヒヤヒヤしたけど、なんとかいい米に育ってくれて、新之助には感謝」と語る髙塚俊郎氏。米作りはもちろん、“地元の風土で当たり前に生み出せる農作物を口にする体験”を子どもたちに提供すべく、奮闘する毎日だ
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 新品種のブランドを確立するにあたって大事なことは、品質の均一化を図ること。そのため、現在の髙塚氏は知見をためている段階だ。

 「新之助は肥料の多寡に敏感に反応します。非常に感受性の強い米ですね」と髙塚氏が言うほど新之助の栽培はコシヒカリよりも神経を使い、手間もかかる。そのため、髙塚氏が作る米も現在はまだコシヒカリが中心だが、新之助の作付面積は年々増えている。

 新之助が晩生品種であることも、生産者にとってはプラスだ。

 「新潟県は、米づくりの後半には雨がちになる年が多いのですが、新之助の稲は、雨の後でもすごくきれいに立っているんです。コシヒカリの収穫のあとに新之助が控えているというのは、心強いです。おかげで心の余裕ができました」(髙塚氏)

髙塚氏の米の作付面積は16ヘクタールほどだが、生産開始3年がたった現在、そのうち5.1ヘクタールが新之助だ。「ニーズが増えれば、もっと面積を増やしたい」と話す(写真提供:髙塚俊郎氏)
髙塚氏の米の作付面積は16ヘクタールほどだが、生産開始3年がたった現在、そのうち5.1ヘクタールが新之助だ。「ニーズが増えれば、もっと面積を増やしたい」と話す(写真提供:髙塚俊郎氏)
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 日照不足や繰り返す台風に見舞われた2018年は、各地の米にとって受難の年で、「新之助にとっても最悪の年でした」と髙塚氏。「でも、なんとかいい米ができたと思っています。ですから2019年は気候が良ければ、新之助本来のパフォーマンスが出せると思います。新潟といえばコシヒカリですが、早く“新潟といえば『コシヒカリ』と『新之助』”と言わせてみたいですね」(髙塚氏)。

「新之助」に対する期待の高さを実感した

 新之助は2017年に本格デビューした品種だけに、実際に味わえる店舗は新潟県内でもそれほど多いとはいえない。そんななか、デビュー以前から新之助の提供を試験的に行ってきたのが、新潟市中央区にある新潟グランドホテル内に店舗を構える、日本料理レストランの「静香庵」だ。

 静香庵では2015年から、新之助を使用したランチメニューを提供している。提供から3年がたち、「年々おいしくなっている気がします」というのは同店マネージャーの駒澤弘美さん。提供当初は客として来店する米の生産農家の人も多く、新之助に対する興味の高さを実感したという。そして現在は、ディナーコースでも新之助を使用している。「土鍋で提供していますので、ふたを開けた時のツヤツヤした輝きと、大きくてふっくらとした粒に、驚きを感じられると思います」(駒澤マネージャー)。

新之助と日本海の海の旬を堪能できる静香庵のランチ。宿泊者向けの朝の和定食は、新之助とコシヒカリが日替わりで提供されているため、連泊すれば食べ比べもできる
新之助と日本海の海の旬を堪能できる静香庵のランチ。宿泊者向けの朝の和定食は、新之助とコシヒカリが日替わりで提供されているため、連泊すれば食べ比べもできる
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 刺し身や焼き魚といった日本海の幸は言うにおよばず、「どんなジャンルの料理とも相性が抜群」と太鼓判を押すのは、同店の平野徹夫料理長。「粒が大きいので、自然とかむ回数が増えて、かめばかむほどに甘みやコクが出てくるんです。食材と一緒に食べると、より甘みが感じられると思いますよ」(平野料理長)。

 静香庵は、新潟グランドホテルのほか市内の新潟日報社メディアシップ内に「FRENCH TEPPAN 静香庵」があり、東京・表参道の新潟館ネスパス内にも店舗がある。もちろん、すべての店で新之助を味わうことができる。

 日本一の米どころのプライドが詰まった新之助。コシヒカリとの双璧になり得るか、今年も注目度大の米であることは間違いない。

静香庵の平野徹夫料理長(左)は「米粒が主張している感じで、見た目がとにかくきれい」と語る。「みなさん、ご飯を見て『本当に粒が大きいね』とおっしゃいます」と同店の駒澤弘美マネージャー(右)
静香庵の平野徹夫料理長(左)は「米粒が主張している感じで、見た目がとにかくきれい」と語る。「みなさん、ご飯を見て『本当に粒が大きいね』とおっしゃいます」と同店の駒澤弘美マネージャー(右)
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(取材・文/エイジャ)