この記事は「日経トレンディ」2017年8月号(2017年7月4日発売)から転載したものです。内容は基本的に発売日時点のものとなります。

サバのメニューを扱う店はあっても、38種類ものサバ料理を堪能できる店は他にない。大阪発のサバ寿司製造・販売「鯖や」が、サバ料理専門店「SABAR」を展開し急成長中。ユニークなPRや、クラウドファンディングも活用して進める事業拡大戦略について聞いた。

サバ料理に特化した唯一無二の飲食店
SABAR(鯖や)
38種類のサバ料理を展開
ユニークな特化型飲食店

 サバ嫌いでも食べられる、酸っぱくないサバの棒寿司から始まった鯖や。サバ料理専門店SABARの売りはバラエティに富んだ全38種類の創作料理。脂肪含有量23%、魚体650gのとろサバを使った料理が味わえる。東京銀座店限定の「さばスープ鍋」や東京恵比寿店限定の「氷温刺身」など各店の独自メニューも開発。内装のコンセプトを変えることで、違った楽しみを提供できるよう店ごとに趣向を凝らしている。11時38(サバ)分開店など、笑いを誘う仕掛けも随所に。
“サバしか使わない”ことに意外な利点~鯖や(画像)
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2号店の大阪天満店
2号店の大阪天満店
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“サバしか使わない”ことに意外な利点~鯖や(画像)
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“サバしか使わない”ことに意外な利点~鯖や(画像)
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鯖街道の宿場町をコンセプトに4月に開業した大阪・阪急三番街店。サバの街・小浜の伝統料理が味わえる
■飲食店「SABAR」の開始で加速
■飲食店「SABAR」の開始で加速
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 「鯖や」は、とろサバを使ったサバ寿司の製造販売会社として07年に創業。もともとサバは苦手な食材。以前にオーストラリアの回転寿司店で働いていたときに考案した、私でも食べられる酸っぱくないサバ寿司が評判になったことがあり、それを生かそうと考えた。

 当初は、ブランド力や経験のなさからうまくいかず、他の魚も扱えばとよく言われたが、このときサバ専門という縛りを設けたことが成功につながった。世の中に広めたいという思いが一層強まり、サバの概念を変えるほどの原動力になったからだ。ただ、毎年2桁増収で成長してきたとはいえ、非効率なサバ寿司の物販だけでは限界があった。ブレイクスルーになったのが約3年前の飲食業態「SABAR」の出店。これにより成長は極端に加速した。

 サバ料理に限定するメリットは多い。まず、在庫管理がしやすく、食材の過剰仕入れによる廃棄ロスが極めて少ない。SABARでは通常より非常に低い1%以下だ。前日の食材の残りをランチに回す必要がなく、単価の高いランチが成立する。結果、店舗利益率も約20%と業界水準を大きく上回る。

 食材を絞り込むと来店客も限定されることになるが、逆に目的来店は増える。そして高級和牛のような食材とは異なり、サバに対する客の事前の期待度はそこまで高くない。そこで、いい意味で期待を裏切れば、自然とクチコミで広がっていくわけだ。

 もともとサバは大衆魚にもかかわらず足が早いため、大規模に取り扱うには二の足を踏む事業者が多かった。そのせいで潜在的なサバ好きはいても、マグロのような顕在マーケットがなかった。逆に、そこにマーケットを開拓するチャンスがあったといえる。

 サバ一本で勝負するには、マスコミを巧みに活用したPR戦略とブランディングが不可欠だった。

 例えば創業当時、サバの模型を載せたバイクで配達することを発表したら、テレビで紹介された。その内容を折り込みチラシに掲載したら、地元スーパーでの催事販売でたちまち完売。それまで門前払いだった大手スーパーの販路開拓にも突破口が開けた。中小企業こそPRに力を注ぐべきだ。

 同時に、ブランド価値を高めることも重要だ。そのため、サバ寿司はある時期から、スーパーの軒先での催事販売を一切やめ、百貨店のみに切り替えた。催事で成果を上げたのがきっかけで大丸梅田店に常設店を開設。念願の空港や駅での販売も、ブランディングに取り組んだことでかなえられた。

「鯖や」の右田孝宣氏の講演に申し込む

クラウドファンディングを活用

 創業後のある時期までは資金繰りが苦しく、倒産の一歩手前まで追い込まれたこともあった。その危機的状況から立て直し、SABARの出店を開始できたのは、クラウドファンディングを活用したからだ。

 クラウドファンディングは資金調達の選択肢を増やすだけでなく、サバが当たり前にある生活を実現したいという我々の理念に共感した人だけが出資するので、マーケットニーズを確認できる。常連客が売り上げを左右する飲食業とは相性がいい仕組みだ。その可能性の高さを直感し、SABAR3号店までの開業資金を調達することを決断。「クラウドファンディング活用の第一人者」として認められれば、PR効果が得られるという狙いもあった。

 結果は予想以上で、1号店の大阪福島店は433人から1788万円を集めることができた。福島店は右肩上がりで売り上げを伸ばし、今では月商約600万円。今年3月は前年同期比30%増と絶好調だ。東京恵比寿店、大阪天満店に続き、16年8月に開業した愛知のイオンモール長久手店でもクラウドファンディングを活用。過去最速の65時間で524万円を調達した。

養殖事業で水産業に革命を

今月の講師
今月の講師
鯖や・SABAR社長・サバ博士 右田孝宣氏 1974年大阪府生まれ。鮮魚店を経て、97年オーストラリアの回転寿司チェーンに就職。事業拡大に貢献するも帰国し、居酒屋を開業。人気のサバ寿司を広めるため、2007年「鯖や」を設立。サバの普及と食育にも取り組む
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 SABARは一気に9店舗出した年もあったが、その後赤字の店は閉店。現状13店だが、4年目の今期は直営店からフランチャイズ展開に切り替え、出店攻勢をかける。今期5店舗、来期は10店舗出店し、マーケットを一気に拡大する計画だ。

 FC第1号は、昨年12月に東京・上野に開業した定食業態「SABARプラス 上野マルイ店」。業務提携する米穀卸の神明が手がける初の直営外食店だ。また、JR西日本とも業務提携し、同社がブランディングを担当する、寄生虫が付きにくい高付加価値マサバを「お嬢サバ」と名付けて販売。同じサバという素材に絞りつつも、店ごとに内装もコンセプトも変え、違った楽しみができるように趣向を凝らしている。

 そうそうたる企業と提携できたことで、会社の信用は格段に上がり、自信も付いた。それもこれもサバ一本で一心不乱に走ってきたからだと思う。

 今、全力で取り組んでいるのが、水産業に革命を起こす「クラウド漁業」だ。日本では、未成魚の小さなサバの乱獲によって資源が枯渇しつつある。原料価格の高騰にもつながり、我々にとっては死活問題だ。

 そこで、クラウドファンディングで調達した資金を活用し、小さなマサバを高値で買い付けて蓄養する事業モデルを立ち上げた。水産資源の保護と漁業者の所得確保にも寄与できる。現在、1億円規模のファンドを募集している。まだ道半ばだが、サバ愛全開で訴え続けることが人を動かし、本来ではあり得ない出会いを生み、つながりが広がっている。これによって革命を起こせると信じている。

【Point】クラウドファンディングで漁業革命。地方創生にも挑戦
 SABARのうち4店舗の開業には、ミュージックセキュリティーズが運営する小口投資のプラットフォーム「セキュリテ」を活用。現在、募集中の「サバファンド」は、福井県小浜市とタッグを組むサバ復活プロジェクトの一環。地元の漁師から買い取ったピンサバを小浜湾で養殖業者に育ててもらい、SABARの店舗で提供する。ビタミンB1の含有量が多い酒かすを餌に混ぜて育てることから「よっぱらいサバ」と名付けた。地方創生の面でも注目。
総額約1億円を目指すファンドの募集ページ。1口2万6250円で5000円分の食事券がもらえる
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サバファンドの対象となる阪急三番街店
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創業事業であるサバ寿司の鯖やには米穀卸の神明とJR西日本が資本参加。関西の百貨店3カ所での常設店に加えて、全国への発送も行っている
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クラウド漁業の主役は全国に250以上ある離島。養殖事業を起こし、本島の店とつなげるファンドを構想
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小浜市ではサバ類の水揚げが激減し、養殖への期待が高まる
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(文/橋長初代、写真/水野浩志)

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