日経トレンディネットと新宿の「TSUTAYA BOOK APARTMENT」によるコラボレーションイベント「ビジネスの極意は漫画家に学べ」。TSUTAYA三軒茶屋店の書店員でありながら数々の作品を全国的ヒットに導いてきた“仕掛け番長”栗俣力也氏が人気漫画家を毎回TSUTAYA BOOK APARTMENTに招き、ビジネスやコンテンツ作りの極意を聞き出す企画だ。第1回(2月7日)のゲストは“30秒で泣ける漫画”として大ブレークした『男ってやつは』や、ビジネスパーソンを中心に人気を集めている『今どきの若いモンは』など、ツイッター上で短編漫画を次々にヒットさせている吉谷光平氏。イベントを前に、吉谷氏にコンテンツ作りの極意を聞いた。

左がTSUTAYAの“仕掛け番長”栗俣力也氏、右が漫画家の吉谷光平氏
左がTSUTAYAの“仕掛け番長”栗俣力也氏、右が漫画家の吉谷光平氏
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『男ってやつは』(画像提供:吉谷光平氏)
『男ってやつは』(画像提供:吉谷光平氏)
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『男ってやつは』(画像提供:吉谷光平氏)
『男ってやつは』(画像提供:吉谷光平氏)
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栗俣: 吉谷さんは『女ってやつは』『男ってやつは』『今どきの若いモンは』など、ツイッター上に漫画をアップしては次々にヒットさせていますが、『女ってやつは』『男ってやつは』はどういう発想で生まれたんでしょうか。

吉谷: 「自分がこうなれればいいなあ」と思ったのがきっかけですかね。結婚して、子供ができて、幸せな家庭を築いて、奥さんより先に死ぬ、という。

栗俣: たしかに! でも私としては『女ってやつは』のほうが響いたんですよ。本当に男の理想って感じですよね。

吉谷: いえ、『男ってやつは』は私の理想ですが、『女ってやつは』は私の実体験ではありませんし、こうなりたいわけでもないです。女の子の幼なじみもいませんし(笑)。

『女ってやつは』(画像提供:吉谷光平氏)
『女ってやつは』(画像提供:吉谷光平氏)
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『女ってやつは』(画像提供:吉谷光平氏)
『女ってやつは』(画像提供:吉谷光平氏)
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栗俣: 意外ですね。しかし、ツイッターという狭い空間で、しかもわずか2ページでここまで心がつかまれるのってすごい。

 吉谷さんの漫画で最初に読んだのが『ナナメにナナミちゃん』だったんですが、これも短いなかにテーマが詰まっていて、心をつかまれました。私は書店で長年漫画を担当していますが、そういう漫画はこれまでそんなになかったんです。今、漫画界では“日常モノ”がはやっていますが、読んだあとに何も得るものがないまま終わるものが多くて。

吉谷: それが日常モノの良さだとも思いますよ。

栗俣: 私は1983年生まれなんですが、われわれの世代が経験した漫画黄金期の漫画はいくら短いものでも得るものがあったんです。しっかりしたメッセージがあって、それが感じられる楽しさが。吉谷さんの漫画はそのころの漫画にハマった世代がすごく引かれる漫画だと思うんですよ。だから、ツイッター上で『女ってやつは』が出てきたときに、「これは来るぞ!」と思いました。だって、この2ページの中に男の理想が詰まってるんですよ! そう思っていたら、今度は『男ってやつは』という、人生を2ページで表す漫画が出てきて。

 今は短い漫画をツイッター上でポンポン発信してバズらせようという動きが目立つのですが、これが出た2016年はそういう動きはそれほどなかったんですよね。

吉谷: 実は当時、『悪魔のメムメムちゃん』を描いている四谷さんや『八十亀ちゃんかんさつにっき』を描いている安藤くんと「ツイッターに漫画を描こう!」とゲーム感覚で競っていた時期がありました。一人だけで続けるのはなかなか難しかったかもしれません。ツイッターにアップしたのは読者の反応が早くて漫画ファン以外にも拡散できることが大きいですね。お金がもらえるわけではないですが(笑)。

栗俣: そうだったんですね! ツイッターだと面白ければすぐにリツイートされますからね。『女ってやつは』『男ってやつは』もアップした瞬間にすごい勢いでリツイートされていたのを覚えています。

吉谷: 予想以上で怖いくらいでしたね。

『今どきの若いモンは』はタイトルありきだった

栗俣: 驚いたのは、「ヤングマガジン」で連載中の『ナナメにナナミちゃん』は斜に構えているけど実は素直というナナミちゃんのひねくれたキャラクターが魅力なのに対し、ツイッターにアップしている作品は多くの人がストレートに共感できる作品が多いことなんですよ。

栗俣力也氏
栗俣力也氏
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吉谷: なんで唐突にきれいな話を描き始めたのは自分でもよく分からないのですが。『女ってやつは』『男ってやつは』はあえてキャラクターを作らず、どこにでもいそうな人にしました。そのうえで、一生を2ページで表現することで意外性を出そうと。

栗俣: なるほど。

吉谷: タイトルを見ると、やっぱりひねくれているとは思いますけどね。『女ってやつは』『男ってやつは』と異性に対する不平不満を描いているように見せて、実は良い話になっているという。

栗俣: それ、すごく思います。吉谷さんの漫画はタイトルがいいですよね。『今どきの若いモンは』とか。

吉谷: あれはタイトルありきですね。いかにも若い人に対して悪いことを描いてそうでしょ。

栗俣: でも、石沢課長が説教すると見せかけて、「今どきの若いモンは真面目に働きすぎなんだよ。あとはやっとくからさっさと帰れ」みたいに、今の若いビジネスパーソンの人たちが上司に言ってほしいことを毎回言ってくれる。

吉谷: ある意味、理想の上司ですよね。驚くのが、たまにツイッターで「うちの上司、まさにこれです」って来るんですよ。ウソだろ! と。でも、そういう反応が来るってことはいい線をいけたかなと思います。ないことはない、こうあってほしい、自分もこうなりたいというキャラクターを描けたかなと。

栗俣: 今の管理職は自分が部下だったときとは働き方がずいぶん変わってきているので、部下との付き合い方が分からないという人も多いと思うんですよ。そういう人もけっこう読んでいるんじゃないですかね。

『今どきの若いモンは』(画像提供:吉谷光平氏)
『今どきの若いモンは』(画像提供:吉谷光平氏)
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『今どきの若いモンは』(画像提供:吉谷光平氏)
『今どきの若いモンは』(画像提供:吉谷光平氏)
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栗俣: 吉谷さんはそういうみんなが心の中で求めているものを“ポン”と提示するのがうまい。「アクション」で連載しているお米がテーマの漫画『あきたこまちにひとめぼれ』なんて、最初は「お米かよ!」って驚きましたもん。でも、「毎日食べているお米なのに、なんでこだわらないの?」って言われると、「確かに」となりますよね。ほかの漫画家さんは見ていないけど、かゆいところに手が届くというか。

吉谷: まあ、みんなが見ているところにいったら大変ですからね(笑)。

栗俣: 書店に漫画を買に来る人ってだいたい30~40代くらいがメインなんですけど、『あきたこまちにひとめぼれ』は60~70歳くらいの人も買っていくんです。そこで、一度、試しに文芸のコーナーに置いてみたんですけど、けっこう売れるんですよ。吉谷さんの漫画って今までになかったテーマだったりするのに、万人受けするのが不思議なんです。そういうセンスがあるってことですよね?

吉谷: よく分かりませんが、いろんな漫画を読んでいるとは思いますね。

描くのも読むのもパッと読んで分からない漫画はイヤ

栗俣: 最近はどんな漫画にハマりました?

吉谷: 『メイドインアビス』はめちゃめちゃ好きですね。久々に漫画を読んで「冒険しているなあ」ってワクワクしました。漫画の王道を突き進みながらも、新しい表現もあって。素直に楽しんでます。あとは大相撲がテーマの『バチバチ』ですかね。

吉谷光平氏
吉谷光平氏
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栗俣: 王道が好きなんですね。

吉谷: 王道というか、パッと読んで分からない漫画は読まないですね。そこは自分が描く漫画と共通しているかもしれません。分かりやすくないとイヤという。

栗俣: 漫画は情報がスッと頭に入ってくる点で“時短ツール”だと思っているのですが、吉谷さんの漫画はそれがうまくできていますよね。人生を2ページで表現したりとか。しかも、伝えたいことがどの世代の人にも同じようにちゃんと伝わっている。漫画を読まないうちの上司でさえ知ってるんですよ。「あの、最後に死ぬやつだよね」って(笑)。

吉谷: そうであってほしいですね。昔、新人のころにある編集者に言われたんですよ。「あなたは読んでもらえると思って漫画を描いてるかもしれないけど、雑誌に載っている新人の漫画なんで誰も読まないよ。ページをめくってて思わず手が止まる、どこから見ても面白そうに見える漫画を描け」って。たしかに私も読者だったら新人の読み切りは読まない(笑)。そこから、インパクトのある絵もいるし、パッと読んで分かるものがいいと。それが今に生きていると思います。

栗俣: そうだったんですね! たしかに『今どきの若いモンは』の石沢課長を「カッコいい」って思わない人はいないですよね。そうじゃないと、クリックしないですもん。漫画を描くときにターゲットって考えているんですか? 

吉谷: 全然考えていません。ただ、『今どきの若いモンは』を始めるときは『男ってやつは』とは逆にキャラクターを意識しました。せっかく『男ってやつは』がたくさんの人に読まれたので、今度はキャラクターをしっかり立てて続き物にすることでファンを増やしたいなと。さらに、今後は単に“課長、カッコいい!”というオチだけでなく、部下の成長ぶりなど、ビジネスパーソンがグッと来るオチのバリエーションを作っていきたいなと思っています。

栗俣: ツイッターで漫画をアップし続けてきて、ヒットの法則みたいなものが見えてきたりはしないんですか?

吉谷: やっぱり「驚き」が大事だとは思います。『うらみちお兄さん』が分かりやすいですが、体操のお兄さんが言いそうにないことを言うと面白いですよね。みんなの共通の価値観からちょっとずらす。『今どきの若いモンは』も若者に対する説教的な話が出てくるのかなという先入観があるからこそ、課長のカッコいいセリフで「おっ」となる。

栗俣: この怖い顔でこのセリフですからね(笑)。

吉谷: あと、ツイッター漫画ってページをめくる文化があると思うんですよ。だから、2ページ目でいかに読者を裏切るかもポイントかもしれません。

栗俣: たしかに、『女ってやつは』も『男ってやつは』も、2ページ目でドーンとワンカットで完全に裏切ってきますよね。これはめちゃくちゃインパクトがある。

吉谷: キャラクターを決めてないから、やりやすいのかもしれませんね。キャラクターが強いと裏切るためにキャラを動かしたりしないといけませんが、その必要がない。キャラクターが出てこないテレビCMも同じだと思うんですよ。最後にポンとセリフが来てグッと来るみたいな。

栗俣: なるほど。

吉谷: ただ、ショート漫画ばかりになるのもどうかと思いますね。漫画をたくさん買ってくれるのは30代の栗俣さん世代ですし、その世代の王道はガッツリ読める『シャカリキ!』とかだと思うんですよ。

栗俣: たしかに!

吉谷: だから、ツイッター上にある漫画は「漫画っぽい何か」だと思っているんです。ショートだと新人でも連載が取りやすいですし。新人にいきなり長編を任せる編集者もいませんからね(笑)。だから、やっぱり王道あってのツイッター漫画かなと。僕もいつかは王道に挑戦したいなと思っています。

栗俣: 楽しみですね。

“30秒で泣ける漫画”作者が語るコンテンツ作りの極意(画像)
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(構成/山下奉仁=日経トレンディネット、写真/中村 宏)

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 2017年2月7日のイベントでは、今回語りきれなかった吉谷氏のコンテンツ作りの極意を栗俣氏がどんどん引き出していく。ご期待いただきたい。

2月7日「吉谷光平氏が語る“30秒で泣ける漫画”作りの極意」開催!
【開催日時】2018年2月7日(水)19時~

【場所】TSUTAYA BOOK APARTMENT
東京都新宿区新宿3丁目26-14 新宿ミニムビル4階

【料金】2000円(税別)
(TSUTAYA BOOK APARTMENT入場料、『あきたこまちにひとめぼれ1巻』購入代込み)

【イベント参加方法】
メールにて件名に「吉谷先生イベント」、本文に必要事項(お名前、ご連絡先お電話番号、お持ちのTカード番号)をご記入の上、ご送信をお願いいたします。 お送り先メールアドレス:shinjyuku_event@ccc.co.jp
※当日は4階受け付けでご予約確認をさせていただきます。
※予約定員は50人で、席は予約受付の早い順でのご案内となります。