ミクシィは、プロモーション活動を積極化して人気スマートフォンゲーム『モンスターストライク』を長く親しまれるIP(ゲームやキャラクターなどの知的財産)に育てる下地作りを進めている。その一方で、新作の『ファイトリーグ』を投入したりイベントやマーチャンダイジングなどの周辺事業を手掛けたりと、事業拡大を推し進めている。2018年にはゲーム事業をけん引してきた木村こうき氏が代表取締役社長に就任し、新体制となる。ミクシィの今後の戦略について、ゲームを中核としたデジタルエンターテインメント事業を担当する取締役執行役員の多留幸祐氏に聞いた。
(聞き手/佐野正弘、写真/志田彩香)

●多留幸祐(たる・こうすけ): 携帯コンテンツ会社、ライブドア(現LINE)などを経て、2014年2月、ミクシィに入社。モンストスタジオ(現XFLAG スタジオ)で『モンスターストライク』の企画・運用に従事。2015年1月、同スタジオの部長に就任。2017年4月より、XFLAG スタジオ モンスト事業本部長として、モンスターストライクに関わる全部門を統括。2017年6月、取締役に就任
●多留幸祐(たる・こうすけ): 携帯コンテンツ会社、ライブドア(現LINE)などを経て、2014年2月、ミクシィに入社。モンストスタジオ(現XFLAG スタジオ)で『モンスターストライク』の企画・運用に従事。2015年1月、同スタジオの部長に就任。2017年4月より、XFLAG スタジオ モンスト事業本部長として、モンスターストライクに関わる全部門を統括。2017年6月、取締役に就任
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「モンスト」は居酒屋などともコラボ

――2017年はミクシィにとってどのような年でしたか?

多留幸祐氏(以下、多留氏): 『モンスターストライク』(以下、モンスト)に関しては、長く楽しんでもらえるIPに育てることに力を入れました。これまで通り、ユーザーを飽きさせないためのアップデートやコラボレーションなども実施してきました。9月に開始したモンストユーザー向けの有料サービス「モンパス」もその一つです。月額480円でモンパス会員になると、モンストゲーム内と常設店舗「XFLAG STORE SHIBUYA」でアイテムをもらえたり、 XFLAG STORE STRIKE CHANCEで限定クエストの出現率がアップしたりする特典を受けられます。同時に、モンストをゲームアプリだけで終わらせない取り組みも現れた年だったと思います。

『モンスターストライク』
『モンスターストライク』
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――モンストをIPとして育てるという考えに至ったのは、いつごろからでしょうか。

多留氏: 多くの人に受け入れられるようになったころから、メディアミックスをやっていこうというのは考えていましたし、2014年にはマーチャンダイジングも始めていますので、以前からそういう考えはありました。モンストはスマートフォンゲームとしての存在感が大きく、飽きられてしまったら周辺の事業も落ち込みやすいことから、今までのメディアミックスに加え、よりモンストの楽しさを体験してもらうマーケティング活動を進めてきました。

『モンスターストライク』では人気アニメの『銀魂』ともコラボした<br>(C)空知英秋/集英社・テレビ東京・電通・BNP・アニプレックス
『モンスターストライク』では人気アニメの『銀魂』ともコラボした
(C)空知英秋/集英社・テレビ東京・電通・BNP・アニプレックス
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――具体的に、どのようなマーケティング活動を実施してきたのでしょう?

多留氏: 例えば、4周年を控えた去年の8月には、ユーザー還元の一環として、B-R サーティワン アイスクリームと、ゲームの報酬としてアイスクリームをプレゼントするというイベントを実施しました。ゲームアプリの枠を超え、プレーが日常に影響を与えるという試みで、ユーザーが共通の話題にしてくれることが狙いでした。

 また、モンストのアプリをインストールしていない人にアプローチする取り組みにも力を入れてきました。ゲームを知っていても、実際にアプリをインストールしてもらうとなるとハードルが高いので、アプリをインストールすることなくモンストを楽しんでもらう施策を考えたのです。

 具体的には、モンストの一部であるガチャの楽しさを知ってもらうために、昨年4月には金の蔵、10月には養老乃瀧グループの全国の居酒屋で「モンストガチャ」を展開しました。これは1回324円(税込)を支払ってガチャを引くと、メニューや「モンストガチャ」の価格以上のGoogle Play ギフトカードなどの賞品が当たるというもの。このことが直接アプリのインストールにはつながらなくても、どんなメニューが出てくるのかという楽しみを味わってワイワイすることはできる。そうした体験を提供するのが狙いでした。

 この施策が良かったのは、お客さんとガチャのテンションが合うこと。居酒屋は若い人が多く、仲がいい人が集まる場ではあるけれど、カラオケのように「歌う」といったメインのコンテンツがなく、ネタにできる要素は少ない。だからこそ、ガチャがイベントとして成立したのだと思います。

みんなでワイワイできる場所を強く意識

――スマートフォンゲームと飲食店が直接コラボレーションするケースはあまりなかったと思います。なぜ、リアルな店舗と結び付けた施策に力を入れたのでしょう。

多留氏: アニメやマーチャンダイジング、リアルイベントなどもやってきましたが、やはりスマートフォンの中だけでは、飽きられたらそれで終わりなのです。マーケティング活動自体も、ゲームの枠にとらわれずに飛び出していかないと、長く遊んでもらえないと考えた結果ですね。

 こうした取り組みはすぐ効果が出るものではないので、長期的なスパンで考えています。継続することが重要なのではないでしょうか。通常のゲームではコストがかかるためやらないことですが、それをやらないと今の時代を生き抜くのは厳しい。従来にないトリッキーなことにもチャレンジしてきましたが、ユーザーの反応があって続けていくうちに、周囲の見方も変わってきたように思います。

『モンスト』5周年 ゲーム外でも愛されるIPを目指す(画像)
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――IPを育てるという視点で見た場合、マーケティング活動における独自性や、注力している要素などはありますか?

多留氏: ゲームにしてもイベントにしても、単体での施策がどうというより、イベントが良かったからゲームのモチベーションが上がるというように、その熱量を連鎖させていかないといけない。そのための軸はやはり「みんなでワイワイする」ことです。

 居酒屋でのプロモーション事例がそうであるように、みんなが集まる楽しい場所にモンストの世界観を持ってくることによって、モンストにはこういう側面があるんだということを広げる。その成果が直接ゲームに反映される訳ではないけれど、盛り上げる場を多く作って人々の認識を変えていく。モンストがただのソーシャルゲームじゃないと感じさせることを、継続してやっていきたいと考えています。

 現時点での収益はあまり重視していません。長く安定して愛されることで、安定した収益を得ることを目標にしています。現在はその初期段階で、ゲームに熱量を連鎖させていくシナジーを意識していますね。もちろん最終的にはゲームをプレーしてもらうことを意識はしていますが、長い目で見て、ゲームだけでない収益が立てられるようにしていきたいと考えています。

――IPを育てることの目標は、やはりゲーム以外での収益の軸を育てることにあるのでしょうか。

多留氏: 大事なことは1つです。モンストはスマートフォンゲームが大事で、それ以外はおまけというのが多くの人の認識だと思いますが、それを変えたい。簡単に言ってしまえばモンストに関わる、けれどもソーシャルゲームやガチャといった部分とは違った、2発目のヒットを作り上げたいんです。

 まだそれを実現するものが何かが明確に見えているわけではありませんが、それを実現し得るいくつかの要素はあります。モンストの世界観を再現した『モンスターストライク カードゲーム』を3月に出し、2カ月で300万枚出荷しましたし、アニメが伸びればそれでもいい。映画の興行収入というのもあるでしょう。モンストから派生したゲームなども今後出していきたいと考えています。今のゲームの軸が強すぎるため、それ以外を作るのは難しいですが、いろいろな可能性を広げながら探っていきたいですね。

『モンスターストライク』の世界観をリアルなカードで実現する『モンスターストライク カードゲーム』
『モンスターストライク』の世界観をリアルなカードで実現する『モンスターストライク カードゲーム』
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流行りだからeスポーツを始めたわけではない

――4対4で戦うスマホゲーム『モンスターストライク スタジアム』(以下、モンストスタジアム)をeスポーツの競技として展開したことも注目されます。

多留氏: もともとモンストスタジアムの大会はeスポーツだと思って実施してきましたので、今、eスポーツが話題になっているからといって大きく変わったことをしている訳ではありません。流行りがどうあれ、独特なことをやっていくのが弊社のポリシーですから。

 モンストのユーザーはコアな人ばかりではないことから、大会初年度は見ている側も見方やノリ方が分からない状態で、いいプレーが出ても盛り上がりが薄かった。ですが何度もイベントを実施するうちに、試合の見方や盛り上がり方を理解する人が増え、勝負の結果でうれし泣きしたり、悔しがったりする人も出てきました。続けていくにつれ、体験の仕方になじんできた感がありますね。

――eスポーツに対する注目は最近急速に高まっています。現在の動向をどのように見ていますか?

多留氏: eスポーツは今後盛り上がると考えていて、今年がその試金石になると見ています。モンストを含めいくつかのゲームタイトルで、一般社団法人日本eスポーツ連合(JeSU)認定のプロライセンスが発行されていますが、世の中がすごく変わっているかというとそうではない。むしろ最近ではゲーム依存が病気と認定されるなど、逆風が続いている。一筋縄ではいかないと考えています。

 ですが大会を続けていくにつれ、出場している選手も運営側も心の動きが大きくなってきています。モンストは4人のチームでプレーするというのが大事なポイントで、チームスポーツと一緒。本戦に出てくるような選手は、攻めるだけでなく味方のリカバリーも練習してきていて、勝つためにすごく頑張っている。それだけに勝ったときの嬉しさ、負けたときの悲しさも大きいのです。それだけに、観客の見方や体験も、通常のスポーツに近い、健康的なものだと感じています。

 2月の「闘会議2018」で実施した「モンストグランプリ2018闘会議CUP」の結果を受けての反応は大きく変わってきていますし、「モンストグランプリ2018」ではさらに反応が変わっていくだろうなと思っています。モンストはサービス規模が大きく影響力も大きいので、そうした部分でもeスポーツに貢献できたらいいなと思いますし、IPの魅力も広げられれば2発目のヒットになっていくかもしれません。積極的に取り組んでいきたいですね。

「モンストグランプリ2018」の関東予選の様子
「モンストグランプリ2018」の関東予選の様子
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――ゲームをプレーしている人が、必ずしもeスポーツに関心を持っているわけではありません。どのような形でeスポーツに関心を持ち、試合を見てもらおうと考えていますか?

多留氏: モンストはライトユーザーでも遊べるゲームであり、その大会のプレーも高度とはいえ、普段のモンストと変わらないものです。そんな中でeスポーツへの興味を持ってもらうには、やはり見せ方の工夫が必要だと考えています。

 今はYouTubeでライブ配信ができるなど、IT技術でできることが増えていて、イベントに行かないと試合が見られないわけではありません。ですがそこもまだ完璧ではないので、今後アップデートしていくべき点だと考えています。

ゲーム開発は徹底して仲間との共闘を重視

――モンスト以外に2017年は新作『ファイトリーグ』も提供しています。こちらはどんな状況でしょうか。

多留氏: ファイトリーグは2017年6月にリリースし、ようやくスタートラインに立てたところですが、正直、まだまだ世の中に受け入れられていない。我々が感じているゲームの魅力をうまく伝えきれていないと感じています。ゲーム内の設計やPRの仕方、体験の仕方も含めて改善することで、まだチャンスがあると思っているので、アップデートを繰り返して魅力を伝える活動をやっていきたいですね。

2017年6月にリリースした『ファイトリーグ』
2017年6月にリリースした『ファイトリーグ』
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――昨年と比べると新作のタイトル数は減っていますが、XFLAGでの開発体制に変化はありましたか?

多留氏: 戦略面では変化はありません。現在も何本かの制作ラインが走っていますが、「本当にこれでいけるのか?」とリリース直前まで議論し、時には「違うんじゃないか」「受け入れられないんじゃないか」という厳しい判断もしているため、本数が少なくなっています。

 また、XFLAGではマルチプレー(同時に複数のプレーヤーが協力したり競争したりしながらプレーすること)が魅力のゲームを戦略的に出しています。そうしたこだわりの追求によって、ゲームの質だけでなく、誘いやすさ、話題にしやすさなどコミュニケーションとして達成するところまで含めたポジションを取り、ナンバーワンになる作品しか出しません。ソロプレーのゲームは僕らよりうまく作る会社があるでしょうから、それはあえてやりません。マルチプレーが一番のゲームを出し続け、独自のポジションを取り続けていくことが大事だと考えています。

『モンスト』5周年 ゲーム外でも愛されるIPを目指す(画像)
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――最近は日本でも、スマートフォンでPvP(Player vs Player)タイプのゲームの人気が高まっています。こうしたゲームを手がける考えはありますか?

多留氏: モンストでは「共闘」を軸に広げる活動をしようとしています。対戦ゲームにおいて勝負はつきものですが、仲間が2人以上いれば勝ったときの喜びが増しますし、負けたときの辛さを愚痴り合って紛らわすことができる。理不尽な負け方をしたらスマートフォンを投げるしかない1人プレーのゲームと違うところです。共闘の世界観や体験が重要だと思っています。

 1人だと離脱もしやすいですからね。4人1組でないと遊べないモンストスタジアムもそうですが、共に感情を分かち合い、一緒に同じ目標に向かって遊ぶことが重要だと思っているので、チーム対チームで長く続けられるゲームを作っていきたいですね。

――コンシューマーゲーム機など、スマートフォン以外のゲーム開発は考えていますか?

多留氏: 顔を合わせて遊べることを実現できれば参入の可能性はあると思っています。ただ、手持ちのスマートフォンに無料のアプリをインストールすれば遊べますし、僕らがやりたいことを実現するという意味でも絶対外せないプラットフォームですから、今はスマートフォン向けゲームの優先順位が高いです。

新体制で何が変わるのか?

――今年の大きな変化として、ゲーム事業をけん引してきた木村弘毅氏が、代表取締役社長に就任することが挙げられます。木村氏の体制になって、ゲーム事業が一層強化される可能性はありますか?

多留氏: 木村がトップに就任したからと言って、弊社がゲームに注力するわけではありません。あくまで弊社の考えは、コミュニケーションを軸として豊かなサービスを展開することにあります。体験や共闘などはゲームで体験しやすいのでゲームは作り続けますし、収益軸としても重要ですが、そこに事業を大きくシフトしていくわけではありません。

『モンスト』5周年 ゲーム外でも愛されるIPを目指す(画像)
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――では今年、ゲーム事業にはどんな戦略で取り組んでいくのでしょう?

多留氏: モンスト以外のゲームはある程度受け入れられていかないと、次の展開に推し進めるのが難しいので、まずはそこをしっかりやっていきたいですね。もう1つ、長く愛されるIPを育てるということは、アニメやゲームに限らないところでもやっていきたいと考えています。

 モンストについては、今年5周年という節目を迎えます。ゲームは飽きられたらおしまいですから、長く多くの人に遊んでもらうためにも、ゲームを進化させていかないといけません。10月ごろには何らかの進化ができるよう、取り組んでいきたいです。IPを活用したものや、派生ゲームも出していきたいですし、そうした取り組みの中でモンストに対する認識を変えていけるかもしれません。

 また、直近では2018年の3月31日~4月1日に幕張メッセで開催された音楽フェスの「WARPED TOUR JAPAN 2018」をスポンサードしています。運営しているクリエイティブマンさんと一緒に取り組んだのですが、みんなでワイワイしている場に投資し、盛り上げながらブランド価値を上げていくという、Win-Winの取り組みにもチャレンジしていきたいですね。同じことばかりでは飽きられてしまうので、常に違うことをやっていきたいです。

 もちろん周辺の流行など情報は収集していきますが、それを無視して独自のポジションを取ることで、モンストは長く続いてます。友達と顔を合わせて楽しむマルチプレーにアプローチし続けていくという姿勢は、絶対に変わらないと思います。

XFLAGとして、音楽フェスの「WARPED TOUR JAPAN 2018」をスポンサードした (c)Vans Warped Tour Japan All Rights Reserved
XFLAGとして、音楽フェスの「WARPED TOUR JAPAN 2018」をスポンサードした (c)Vans Warped Tour Japan All Rights Reserved
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