2018年6月期の中間決算では売上高が前年同期比36%増、営業利益が25%増と経営指標がプラス方向に転じたグリー。ブラウザーゲームの消費落ち込みが下げ止まり、スマホ向けゲームアプリが複数ヒットするなど、事業環境は好転している。加えて、自社IPの『釣り★スタ』をNintendo Switch向けタイトルとして開発することを発表したり、ゲーム運営やカスタマーサポート事業を切り出した子会社が順調に成長したりと、事業の幅を拡大中だ。

 スマホアプリ事業の「Wright Flyer Studios」を統括する荒木英士取締役、モバイルゲームプラットフォーム事業「GREE Platform」を統括する小竹讃久取締役、「ポケラボ」の社長も務める前田悠太取締役――グリーのゲーム事業のキーパーソンといえる3人に、それぞれの事業分野の2018年の戦略を聞いた。
(聞き手/渡辺一正、写真/稲垣純也)

Switch向けゲームにも参入 グリーが進める拡大戦略(画像)
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●荒木 英士(あらき・えいじ、左) 取締役 上級執行役員。2005年、慶應義塾大学環境情報学部在籍時代に、複数のスタートアップの創業に参加。事業売却後、大学を卒業し、4人目の正社員としてグリーに入社。事業責任者兼エンジニアとして、PC向けGREE、モバイル事業、ソーシャルゲーム事業(『踊り子クリノッペ』など)、スマートフォン向けGREEなどの立ち上げを主導した後、2011年、米GREE International, Inc.の設立に参画。2013年9月に日本に帰国し、グリー取締役に就任

●小竹 讃久(しの・さんく、中) 取締役 上級執行役員。2000年、慶應義塾大学大学院理工学研究科を卒業後、博報堂に入社。営業部門に所属し大手携帯キャリア、大手ポータルサイトなどを担当。2008年11月、グリーに入社し、プロモーション業務や広告事業に従事するかたわら、プラットフォーム事業拡大のための開発パートナー開拓に注力。2011年4月、執行役員 マーケティング事業本部長に就任。2013年9月、グリー取締役に就任

●前田 悠太(まえだ・ゆうた、右) 取締役 上級執行役員。2006年、武蔵工業大学大学院工学研究科(現:東京都市大学大学院工学研究科)を卒業後、ジャフコにて主にIT・モバイルセクターのベンチャー投資・育成に従事。2009年7月、ポケラボに入社し、取締役CFOとして経営管理部門を担当し、組織づくりからアライアンス、事業推進まで幅広く従事。2011年12月、ポケラボ 代表取締役社長に就任。2013年9月より、グリー 取締役を兼務。弁理士

家庭用ゲーム市場に乗り込むWright Flyer Studios

――まずは、スマホアプリ事業「Wright Flyer Studios」を統括する荒木さんにうかがいます。Wright Flyer Studiosはグリー社内のほかのゲーム開発部門と何が違うのでしょうか?

荒木氏: 大きく3つあるモバイルゲーム開発部門は、それぞれ強みにしている部分が違います。Wright Flyer Studiosは「新しい驚きを、世界中の人へ」というビジョンを掲げて、ゲームだけではなく、広くエンターテインメント関連コンテンツを提供していく方針です。2017年には、北米で日本のアニメコンテンツなどを配信するサービス「Crunchyroll(クランチロール)」と住友商事さんと提携して、海外の日本アニメファンに向けてゲームを配信することを発表しています。多言語で広く届けるという能力も身に付けていきたいです。

荒木英士氏。スマホアプリ事業の「Wright Flyer Studios」を担当している
荒木英士氏。スマホアプリ事業の「Wright Flyer Studios」を担当している
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 もう一つ、グリーグループ全体として、特定のゲームジャンルに絞り、その中のカテゴリーリーダーになるという目標があり、Wright Flyer StudioはRPGに特化することにしました。なぜRPGなのかというと、流行り廃りがない長続きするジャンルだからです。それに、アクションRPGやコマンドRPG、シミュレーションRPGといった具合に、1つのジャンルでも幅広く制作できます。また、自分たちがブラウザーゲームの時代から培ってきた運営ノウハウを生かしやすいジャンルだと思い、総合的に判断しました。

 それに合わせて、グローバル市場を前提にしたRPGの開発に取り組んでいます。現在開発中のRPGタイトルはすべて、グローバル配信を前提に開発しています。その突破口の一つとして、日本のアニメ作品という切り口があると思っています。先ほどお話したCrunchyrollとの協業にもその意味があります。日本のアニメ作品のファンはそれぞれの地域ではニッチですが、世界中に存在しているのは確かです。そうした日本のアニメ、カルチャーファンに向けてゲームや関連コンテンツを作っていく、というのが今のところの戦略となります。

――グリーの決算発表などで、田中良和社長は「エンジン戦略」という話をされていますが、Wright Flyer StudiosのエンジンというのがRPGということですか。

荒木氏: そうですね。UnityやUnrealのようなミドルウエアのゲームエンジンという意味ではなく、RPGを構成する機能やアセットパイプラインなどの開発基盤・ノウハウなど、全体を称して“エンジン”と呼んでいます。

 例えば、2017年にリリースし、ヒットした『アナザーエデン 時空を超える猫』と『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか メモリア・フレーゼ』(ダンメモ)では、『アナザーエデン』を作った後に、その開発工程やフォーマットをベースにして『ダンメモ』を作りました。一度作った資産を活用して、第2弾でより良くする。それをさらに拡張して第3弾を作る、という成長サイクルを構築しています。

『アナザーエデン 時空を超える猫』
『アナザーエデン 時空を超える猫』
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『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか メモリア・フレーゼ』
『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか メモリア・フレーゼ』
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 Wright Flyer Studiosでは、『アナザーエデン』の2DコマンドバトルRPGというエンジンのほかに、『追憶の青』の2DアクションRPG、それに『武器よさらば』で作った3DアクションRPGという3種類のエンジンを確立しています。これからの投資も含めて、あと1つ2つを新規エンジンとして開発している最中です。

『武器よさらば』
『武器よさらば』
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グローバルで通じる『釣り★スタ』でSwitch市場に参入

――Nintendo Switchタイトルの開発がニュースになりました。

荒木氏: これまでは我々がゲームを作ったとしても、日本国内向けに、AppStoreとGoogle Playでリリースするに留まっていました。でも、これからは海外にもリリースし、家庭用ゲーム機向けにも展開できます。そうなれば、1つのゲーム作品の種が、2倍にも3倍にも4倍にも広がります。

 ゲーム単体で勝負するのではなく、テレビや映画、漫画などメディア全体で取り組むべきものだったりもするので、自分たちが展開できる幅が広がると、ビジネスチャンスも大きくなると考え、Switchへの取り組みを本格化させたんです。それが2017年の春だったと思います。

『釣り★スタ』(Switch版) (C)WFS
『釣り★スタ』(Switch版) (C)WFS
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 Switch向けタイトルの第1弾が『釣り★スタ』になったのは、グリーが新しいプラットフォームでリリースするなら、まずは自社IPにしよう、ということでした。釣りゲームというジャンルはニッチですが、必ず遊んでくれる人がいる分野だと思っています。しかも、釣りゲームに力を入れている企業は他にあまりないですし、現実の釣り自体が、説明なしに世界で通用するゲームじゃないですか。釣りのどこに喜びを感じるのか、人や国によって違うかもしれませんが、少なくともRPGやファンタジーよりもグローバルですよね。そういう意味では、『釣り★スタ』はどんなプラットフォームに行っても確固たるポジションをキープできる良質なIPだと思っています。

 家庭用ゲーム機向けタイトルに取り組み始めたきっかけは、開発ツールとしてUnityを使うことが多くなったことも影響があります。Unityで開発にbなって、自分たちが持っている技術的な資産や3Dモデルのアセット(資産)が開発ツール上に蓄積されてきました。その結果、プロジェクトをまたいで活用できるだけではなく、最終的に製品にするプラットフォームもマルチに選べる状況になりました。

 例えば、2017年10月に配信を始めた『釣り★スタVR』というVR専用コンテンツで制作した3Dモデルなどのアセットは、Switch版『釣り★スタ』でも活用しています。このように自分たちがさまざまなプラットフォーム、さまざまな国・地域でゲームを開発できる能力を持っていれば、新しい事業機会にチャレンジできますよね。こうして成長していくというのは、すごく大事なことだと思っています。

VRは爆発的に普及する可能性がある

――VR事業はいかがですか。

荒木氏: VR業界全体で見れば、ハードウエアの普及台数やコンテンツの供給量など、2017年は順調に推移していたと思います。調査会社が過去に発表した強気なシナリオよりも販売台数は多かったと思いますので、新機種が出てくると爆発的に普及する可能性があると考えています。2017年はPS4向けに『乖離性ミリオンアーサーVR』を、Daydream向けに『釣り★スタ』を配信しました。アミューズメント施設向けには『ようこそパニックマンションへVR』の提供を開始し、イオンファンタジーさんと開発した子ども向けVR『ぶっとび!VRバズーカ』『VRどっかん!ブロック』『VRびっくり!スライダー』を発表しました。

『乖離性ミリオンアーサーVR』 (C)2017 SQUARE ENIX CO., LTD. / GREE, Inc. All Rights Reserved.
『乖離性ミリオンアーサーVR』 (C)2017 SQUARE ENIX CO., LTD. / GREE, Inc. All Rights Reserved.
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『釣り★スタVR』
『釣り★スタVR』
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『ようこそパニックマンションへVR』 (C)2017 ADORES,Inc./VR PARK TOKYO/ようこそパニックマンションへVR
『ようこそパニックマンションへVR』 (C)2017 ADORES,Inc./VR PARK TOKYO/ようこそパニックマンションへVR
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 VR事業は短期的に一喜一憂せず、継続して作り続けていきたいですね。端末の普及率やユーザー数などがあるしきい値を超えたときに一気にブレークスルーするタイプの事業だと思っていますから。

 実際、『VRChat』(米VRChat)が米国などで爆発的に普及し始めています。PC用アバターサービスのようなもので、技術的に大きな進化はないのですが、最近、米Steam上の同時接続数が劇的に増えました。このVRChat、実はグリーのグループ企業(GFR Fund)の投資先なのですが、VRChatを利用したいためにヘッドセットを購入する人が増えるといういいサイクルになっているようです。

――2018年の抱負を聞かせてください。

荒木氏: これまでとは違うこと、2017年よりももっと大きい取り組みにチャレンジしたいです。ゲームを作って、配信するだけではなく、テレビアニメや映画、そのほかのプラットフォームとの連動などメディアミックス的な動きであったり、グローバル市場向けの展開を前提にビジネスを構築したり。ビジネスの幅をより広げて、より大きな仕掛けで、ゲーム事業に取り組んでいきたいと思っています。

『VRぶっとび!バズーカ』 (C)AEON Fantasy Co.,LTD. / GREE, Inc.
『VRぶっとび!バズーカ』 (C)AEON Fantasy Co.,LTD. / GREE, Inc.
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『VRどっかん!ブロック』 (C)AEON Fantasy Co.,LTD. / GREE, Inc.
『VRどっかん!ブロック』 (C)AEON Fantasy Co.,LTD. / GREE, Inc.
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『VRびっくり!スライダー』 (C)AEON Fantasy Co.,LTD. / GREE, Inc.
『VRびっくり!スライダー』 (C)AEON Fantasy Co.,LTD. / GREE, Inc.
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新規事業創出を目指すGREE Platform

――続いて、小竹さんにうかがいます。管轄されているゲーム配信の基盤事業「GREE Platform」の現状を聞かせてください。

小竹氏: GREE Platform事業は、内製ゲーム事業とプラットフォーム事業の2つに分かれています。内製ゲーム事業については、モバイルゲーム市場全体がスマホのネイティブアプリにシフトしている状況が変わっていないので、売り上げが下がっているのは事実です。しかし、その下げ幅は底を打っていて、根強いファンの方々に支えられていると実感しています。

 『アバター』や『クリノッペ』など内製ゲームで10周年を迎えたタイトルもあり、記念イベントをオンライン上だけでなくリアルな会場で実施しました。今後もファンの方々にサービスを提供し続けられるように、各チームが頑張っています。

『アバター』 (c) GREE, Inc
『アバター』 (c) GREE, Inc
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『クリノッペ』 (c) GREE, Inc
『クリノッペ』 (c) GREE, Inc
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社内向けの高品質サービス事業を他社向けに展開

――GREE Platformのビジネスはすぐに変化しない?

小竹氏: 携帯電話のデバイスやGREE Platformはこれからも変化し続けるでしょう。また、ブラウザーゲームからネイティブアプリへ主戦場が変わりましたが、これがそのまま続くわけではないと思います。新しい技術として注目されているHTML5を使ったブラウザーゲームが盛り上がるかもしれませんから、我々もHTML5プロジェクトはいくつか走らせています。そうしたトレンドに対応はし続けていかなければならないと思っています。

小竹讃久氏。「GREE Platform」を管轄する
小竹讃久氏。「GREE Platform」を管轄する
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――HTML5が主流になるときは、現在のGREE Platformはどうなるのですか。

小竹氏: 過去にネイティブアプリの事業を始めたとき、GREE Platformの延長線上で物事を考えていて失敗した経験があります。例えば、ネイティブアプリでもスタート直後にGREEへの登録が必要な仕様にしたんです。お客様からすると手間が増えるだけで、メリットをあまり享受できないような仕様です。ネイティブアプリとして事業の本質を見誤ってしまったという教訓です。

 GREE Platform事業自体はとても大きな柱で、この事業に多くの従業員が関わっています。現在の収益となっている事業を維持しながら、どのように新しい事業への転換を図っていくかということに、私たちはいま挑戦しています。

――具体的にはどのような新事業ですか。

小竹氏: 1つが2015年に立ち上げたゲーム運営に特化する子会社「ファンプレックス」(東京・港区)です。他社さんがGREE Platformに提供しているゲームの事業を継続できないと判断されると、結果的にGREEのユーザーを悲しませることになってしまいます。そこで、ゲームを事業ごと引き取って、グリー社内で運営しようとスタートしたのがファンプレックスでした。

 ゲームをより長く運営するということは、質の高いサービスをお客様に提供しつつ、運営コストを抑えるバランスが大事です。これまで培ってきたノウハウをベースに、GREE Platform向け以外のゲーム運営にも活用できると思い、サービスを提供したところ、思っていた以上にニーズがありました。前年度の実績ではファンプレックス全体で100億コイン(=100億円)程度を取り扱いましたが、今年度はその1.5倍程度まで成長しています。

 現在のファンプレックスでは、ネイティブアプリ向けのサービスに徐々にシフトしています。ネイティブアプリの開発会社から見れば、リリースして「大ヒット」なのか「そうではない」のかを見極めたタイミングで、運営をファンプレックスに移管してしまえば、次の「大ヒット」を目指して開発リソースを集中させられます。

 2016年には、高い品質の問い合わせ対応業務を請け負う「ExPlay」という子会社も設立し、主にゲーム会社様向けにサービスの提供を始めました。グリー社内のノウハウを外部に活用するという意味では、ExPlayもファンプレックスと同じです。ゲームの問い合わせ対応は、ゲームの中身やお客様のプレー状況を把握したうえで、質問の意図を理解することが重要です。そのため、機械的な対応になりがちな「メールのコピペ」は禁止するなどのルールがあります。丁寧さを心がける代わりに1つひとつの対応に時間がかかるので、社内では高コストという意見もありましたが、ここまでの対応ができる会社は他にないと考えて、他社向けにサービスを提供し始めました。今では大盛況です。

ファンプレックスのエントランス風景
ファンプレックスのエントランス風景
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ExPlayのエントランス風景
ExPlayのエントランス風景
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女性向けゲームタイトルに挑む

――2018年に向けて、GREE Platform向けの新しい内製タイトルはありますか。

小竹氏: 2018年にリリースした新タイトルには『ライブラリークロスインフィニット』(ラブクロ)があります。先ほど話したライセンス事業部門と出版社さんとの関係で立ち上がった企画で、女性向け恋愛パズルゲームです。グリーはこれまで女性向けゲームを正面切ってやってこなかったのですが、既にファンがいるIPを使ったゲームなら、ということで本格的に進めています。この『ラブクロ』以外に、人気アイドルグループ「NEWS」とのコラボレーション企画で、実写恋愛シミュレーションゲーム『NEWSに恋して』の配信を2018年3月に開始しました。

――アニメ作品にも投資されている部門で企画しているのですか。

小竹氏: そうですね。もともと数年前からYahoo! Japanさんの子会社であるGYAOさんとジョイントベンチャーを作ってアニメに投資する事業をしてきましたが、現在はグリー単独でアニメなどの製作委員会に出資しています。本当に初期段階の作品への投資案件が多いので、アニメ化されて広く認知されるまでには時間がかかると思います。グリー単独での投資事業は今年が2年目で、収益が出始めたのは2017年になってからなので、ようやく形になり始めたイメージです。

――2018年に向けた抱負を聞かせてください。

小竹氏: 2018年は再成長の年にしたいです。ファンプレックスのような周辺事業を大きくしつつ、自社IPのコンテンツも再び伸ばしたいですね。自社IPを再加速させるためにも、カムバックキャンペーンみたいな形で、既存タイトルに対する大々的なプロモーションを僕らなりのやり方でチャレンジしてみたいと思っています。

『ライブラリークロスインフィニット』
『ライブラリークロスインフィニット』
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ギルドRPGで世界に挑むポケラボ

――最後に、ポケラボの社長も兼任されている前田さんにうかがいましょう。会社としてのポケラボは、グリー社内の他事業と棲み分けがあるのでしょうか。

前田悠太氏(以下、前田氏): ネイティブアプリを開発しているWright Flyer Studiosとの比較で言うと、ポケラボは2つの“エンジン戦略”で違いがあると思っています。1つはギルド・バーサス・ギルド(多人数チーム 対 多人数チーム:GvG)のRPGゲームシステム、もう1つはシナリオを読み進めていくタイプのRPGゲーム(シナリオRPG)で、それぞれの開発を事業の柱に据えています。

前田悠太氏。ポケラボを担当する
前田悠太氏。ポケラボを担当する
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 ただし、ゲームシステムがGvGだから、シナリオRPGだから――という理由でお客様に遊んでいただいているとは思っていません。世界観やキャラクターデザイン、そもそも知っているIPかどうか、などの要素で選んでいただいていると思います。だから、この“エンジン戦略”というのは開発におけるメリットが多いです。

 GvGは多人数同士でコミュニケーションを活発化させて楽しんでもらうノウハウが大事で、他のゲームと比べて特殊なんです。シナリオRPGもストーリーのどのタイミングで盛り上げるといいのかといった全体設計が特殊。これらのノウハウを積み上げて、開発・運用の強みを磨いていくというのが基本的な考え方です。

 ゲーム開発にかける投資も、作るべきゲームシステムが先に決まっていれば、ゲームデザインをあれこれ悩まないで済み、結果的に開発費用も抑えられます。その分をお客様が求めるコンテンツ開発に注げるという事業的なメリットが多いのです。それに、ポケラボの得意技がはっきりしてくると、さまざまな作家さんやIPを持つ他社さんからお声がかかるようになりました。作品の世界観などがポケラボが作るゲームと相性が良さそうだから、一緒にゲームを作りませんか、というご相談をいただくことが増えています。

協業タイトルの確認作業で品質が向上する

――2017年にリリースしたタイトルは。

前田氏: 『SINoALICE(シノアリス)』『戦姫絶唱シンフォギア』『AKB48ステージファイター2バトルフェスティバル』と3本あり、いずれもファンの方々に喜んでいただけました。

 背景には大きく2つの理由があると分析しています。1つは、先ほどご説明したエンジン戦略によって、自分たちの強みを研ぎ澄ましてきたので、作り手として自信を持って開発できたことです。毎日お客様にどのように喜んでもらえるかを考え続けるモバイルゲームの運用ノウハウが身についてきたとも思います。

 もう1つは、特に熱量が高いファンに喜んでもらえるようにゲームを作る、ということを徹底できたこと。『シンフォギア』はアニメ作品の根強いファンがいますし、『シノアリス』のクリエイティブ・ディレクターに入っていただいたヨコオタロウさんにもファンがいらっしゃいます。まずはこのファンの方々をどのように喜ばせればいいか、どうやって期待を超えるかと、具体的なイメージを持って開発・運営できたことが大きいと思います。

 2017年にリリースした3本はいずれも他社さんとの協業で生まれたタイトルなので、確認作業や意思を統一するのに時間がかかる一方、「なぜこうなっているのか」という意味を考え続けられる良さがあると思います。「なぜ、この色がいいのか」「なぜこの配置になるのか」「これでファンを喜ばせられるのか」といったゲームに関する深い議論を関係者と交わせた結果、ファンの気持ちに寄り添った作品になりました。そして、これらの作品のファンである社員を開発メンバーに選定したことも成功の要因だと思います。

 現在、開発陣は180人程度ですから、今回のように1年間に3本の新作を配信することはさすがに難しい。そのため、年間に何本の新作を出すという目標は決めていません。ただ、プロジェクトの核となるメンバーには「その作品が相当に好きであること」や「ファンの気持ちが分かること」などの条件がそろわないとGOサインを出さないと決めています。ファンの期待を超えた部分が、自分たち(ポケラボ)の価値なんだという意識を持ってもらうようにしています。

――そういう熱量は、どうやって把握するのですか。

前田氏: プレゼンを聞いたら分かります(笑)。ゲーム会社にいる人間ですから、エンタメコンテンツが好きであることは当然ですが、特に好きなコンテンツに対する食いつき方が尋常じゃないんですよ。クリエイターとしての能力は確かに必要なんですが、それ以上に好きだという気持ちは、能力を凌駕するほどの才能だと思っているので、それを信じています。

『SINoALICE(シノアリス)』
『SINoALICE(シノアリス)』
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『AKB48ステージファイター2バトルフェスティバル』
『AKB48ステージファイター2バトルフェスティバル』
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中国市場向けでもジャパンオリジナルを維持

――海外展開は考えていますか。

前田氏: 市場規模やコンテンツのファンがいるかどうかを探りながら、まさに順次仕込んでいる最中です。現地のコミュニティサイトなどを見ていると、待ちわびている声が相当ありますので、大事にしたいです。『シンフォギア』は台湾、フランス、ドイツなどで非常に熱量が高く、日本の声優ファンが存在している地域と重なります。声優ファンをどうやって喜ばせられるかを考えながら展開したいですね。

――中国はどのように事業化するのですか。

前田悠太氏
前田悠太氏
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前田氏: 販路がないと出せないので、パートナー企業さんと一緒にやっていくというのが基本戦略です。どのパートナーと組むのかは、まだお話しできませんが、原則として、我々が大事にしていること、つまりファンに対する理解のある企業をパートナーに選んで、ファンにきちんとコンテンツを届けるということに注力したいです。

 少し前までは、カルチャライズという形で、その国・地域向けに変更することが重要とされていましたが、コアなファンほどジャパンオリジナルに価値を見出してくださるので、下手に変えると「これは違うじゃないか」となります。中国語版を作るときも、ニュアンスが違うとファンからご指摘をいただくことがあるようです。中国語の文法的にはおかしい文章であっても、日本語のニュアンスに近い表現にしたほうが良かったり。それくらい日本オリジナルを強調しています。

 『シノアリス』の日本国内リリースのときもコアなファンにまず火が付き、そこからSNSなどで急速に広がるという現象を実感しました。海外も全く同じだと思うんですよ。ニッチでもコアのファンに届けば、必ず広げられると思っているので、そういう取り組みをしていきたいですね。

ライブやテレビアニメなどを含めた総合エンタメで勝負

――2018年はどのようなプランですか。

前田氏: 開示しているラインアップで言うと、2018年内に新作を1本リリースします。このほか、エンジン戦略によって、いろいろなご相談をいただけるようになりましたから、そうした案件の中から、そのコンテンツがすごく好きという社員をアサインして、水面下で進んでいるものがあります。

 2018年は新作を何本というように、数を確保する開発姿勢ではありませんが、(やりたいことが重なって)社内のキャパシティを超えてしまう場合は外部の協力会社と一緒に制作することも考えています。内製率はおそらく7~8割程度だと思いますから、社内リソースでプロジェクトをコントロールする傾向が強いです。

――やはり他社とのコラボレーションが中心ですか。

前田氏: そうですね。自社だけで完結させることは、ファンに喜んでもらううえであまり得策ではないと考えています。『シノアリス』のように一緒にIPを作るパターンもありますし、『シンフォギア』のように他社からIPをお借りするパターンもあります。今は、ネイティブアプリの開発が中心ですが、グリーがNintendo Switch向けにソフトを開発するという発表をしたように、ポケラボとしてもネイティブだけで勝負することに固執しているわけではありません。複数のプラットフォームに展開するハードルが下がってきていますので、作品性と市場規模がマッチするプラットフォームなら事業展開したいと考えています。

 ただし、ネイティブアプリ市場が世界最大のゲームマーケットであることは間違いありません。その市場の中で、世界的に知られるゲームスタジオになることが最重要だと思っています。そのためにも、お客様との接点を増やしていかないといけません。最近の話題のeスポーツなどもリーチしやすい要素ですし、2.5次元ライブとか、テレビアニメやコミックといったモバイルゲームと親和性の高いエンターテインメントを提供できる機能を持ちたいですね。
 例えば、『シンフォギア』では、テレビアニメの第3期と第4期の間をつなぐストーリー第3.5期をアプリゲーム内でしか見られないようにしました。また、『シンフォギア』では年に1度大きなライブをやるのですが、ライブとゲームとを連動させることで、ファンの方々により喜んでいただける運用を大事にしています。そういう総合的なエンターテインメントを提供することに、ものすごく興味がありますね。