オリジナルタイトルの『ブレイブ フロンティア』『ファントム オブ キル』、スクウェア・エニックスと組んだ『FINAL FANTASY BRAVE EXVIUS』など、スマートフォン向けのモバイルゲームを中心に年間約260億円(2017年4月期)を売り上げる中堅ゲーム会社のgumi。ここ数年はVRへの積極投資を行っていることで注目されている。日本、韓国、北欧でインキュベーション(起業や新事業の創出支援・育成)を行い、自らVRマーケットの底上げを図る。
2014年12月に東証1部上場し、そのわずか数カ月後に、年間営業利益が赤字見通しであることを発表、株価が急落した「gumiショック」が大きな話題になったが、2017年4月期の営業利益は16.5億円と復調している。今期(2018年4月期)から来期(2019年4月期)に向けて、國光宏尚社長はどのような戦略で舵取りをしていくのか。
(聞き手/吉岡広統、写真/辺見真也)
この1年、一番しんどい時期は脱した
――2017年は、gumiグループにとってどんな年でしたか? 良かったところ、悪かったところを教えてください。
國光宏尚(以下、國光氏): :まず、モバイルゲームに関しては、国内の市場が成熟してきている一方で、競争環境について言えば、一番しんどい時期は過ぎたのかなと思っています。モバイルゲームは、1本を作る開発期間が大体2年ぐらいで、開発費が5億円から10億円ぐらいというのが相場です。さらに広告費も同じくらいかかります。投資額が大きくなってきているので、大手ゲーム会社以外は、なかなか戦えない状況です。一時期みたいに、月に何百本も新規タイトルが出てくるという圧倒的な過当競争ではなくなってきたので、質が高い良いゲームを出していれば、しっかりと成果が残せるような環境にはなってきたのかなと感じています。
――そういったなかで、gumiの2017年は成果を残せた。
國光氏: そうですね。自社のオリジナルタイトルでは、『ファントム オブ キル』や『誰ガ為のアルケミスト』、他社のIPを使ったゲームではスクウェア・エニックスさんと共同開発した『FINAL FANTASY BRAVE EXVIUS』(注1)が引き続き好調でした。ただ、こうした旧作が良かった半面、新規のオリジナルタイトルは、なかなか難しいところがありました。



――2017年は、「はじける ぶっとびアクション」とうたったアクションRPGの『スマッシュ&マジック』(7月19日配信開始)、女性向けの『カクテル王子(プリンス)』(7月24日配信開始)、3DアクションRPG『セレンシアサーガ:ドラゴンネスト』(8月16日配信開始、注2)と3つのタイトルがリリースされましたね。
國光氏: 弊社の大きな戦略で言うと、オリジナルタイトルのゲーム性の部分でチャレンジングな取り組みをして、新たなゲームエンジンを生み出し、それを武器に他社IPとのコラボレーションでさらに収益を上げていくというのが、一つのやり方になっています。
『スマッシュ&マジック』は、『モンスターストライク』の気持ち良さとは違った、3Dならではのアクション性を追求したオリジナルタイトル。『カクテル王子(プリンス)』は、ギークスさんと一緒に取り組んでいるタイトルですが、弊社の経験がない女性向けというジャンルへの挑戦。また、『セレンシアサーガ』は、(スマートフォンの)タッチパネルのバーチャルパッドで、コンソールゲームのようなアクション性をどこまで追求していけるかにチャレンジしています。
こういうゲームのメカニック的なところで新たな挑戦をするゲーム会社は多くないので、その中で見えてきたことを基に、「これに合うIPってなんだろう」と考え、そのIPの版元さんと一緒にやりましょうと話をする。実際、『ブレイブ フロンティア』(2013年配信開始)がヒットして、このエンジンを生かしてスクウェア・エニックスさんと一緒につくったのが、『FINAL FANTASY BRAVE EXVIUS』です。



――ただ、2017年の3タイトルについては、まだ模索している部分もある。
國光氏: 問題点は見えています。例えば、『スマッシュ&マジック』は、一定のファンをしっかりつかんでいるのですが、マネタイゼーションのループのところが課題。以前のスマホゲームほど初期ユーザー数を確保しにくいなかで、ARPU(Average Revenue Per User/ユーザーあたりの課金)をいかに上げるかということです。
海外展開で失敗と成功を繰り返し成長
――スマホゲームを手がける各社の中で、gumiの強さはどこにありますか?
國光氏: 大きく2つあると思っています。1つは、やはり、オリジナルゲームに挑戦しているところです。ユーザーも同じようなゲームばかりだと飽きてしまう。新しい遊び方や、今までにない楽しさなど、ゲーム性の新しさを作っていくことはすごく重要だと思っています。弊社は、そうした新しい遊び方を開発し続けているので、オリジナルでヒットを出すノウハウや経験値は他社と比べてもあると思います。
もう1つは海外。もともと『ブレイブ フロンティア』が海外でヒットしていたんですが、それに続いてスクウェア・エニックスさんとやっている『FINAL FANTASY BRAVE EXVIUS』が、今、海外でも大ヒット中です。『誰ガ為のアルケミスト』も、しっかりしたヒットになっている。日本でヒットしたゲームを海外でもヒットさせられるという再現性が、『ブレイブ フロンティア』『FINAL FANTASY BRAVE EXVIUS』『誰ガ為のアルケミスト』を通じて出せていると思っています。
――海外でヒットさせられる理由は何ですか?
國光氏: 海外の拠点は主にシンガポールとフィリピンにあります。2012年に立ち上げて、現在、シンガポールが120人、フィリピンが80人の体制。シンガポールで、ローカライズやカルチャライズをして、フィリピンでユーザーサポートやコミュニティマネジメントを担当するという役割です。その2拠点が経験やノウハウを蓄積できていることが大きい。
日本のゲーム会社で複数タイトルを海外でヒットさせているところは少ないと思います。早い段階から海外展開をして、失敗や成功を積み重ねてきたことが、成長につながったのかなと感じています。
――シンガポール、フィリピンからアジアだけでなく、欧米へも展開するのですか?
國光氏: そうです。収入の大半は欧米からですね。シンガポール拠点には米国や欧州の人間がたくさんいますし、弊社には、サンフランシスコとフランスにも拠点があって、それぞれが連携しているので問題はありません。そもそも、米国で200~300人規模のスタッフを抱えるのはコストが高くて現実的ではありません。米国の場合は転職も多いという側面があるので成立しにくいんです。
VRの本格普及には500ドルを切るハードが必要
――もう1つの柱である「VR」についてはいかがでしょうか?
國光氏: VRのマーケットは、順調に成長してきていると思っています。VRの市場規模は、ヘッドマウントディスプレー(以下HMD)の普及台数と連動しますが、2016年末時点では、PlayStation VR(PS VR)が100万台ぐらい、HTC ViveとOculus Riftが併せて70万台ぐらい。それが、2017年の末には、PS VRが200万台を超え、HTC ViveとOculus Riftが200万台ぐらい、合計400万台と言われていますから、2倍以上には伸びてきている。
それに伴って、ゲームソフトも、売り上げが1億円を超えたタイトルが2016年末が15本、2017年末は38本と、こちらも2倍以上に増えています。
では、本格的にVR市場が立ち上がってくるのはいつごろか? 僕は2つの壁を乗り越えなければいけないと思っています。1つはハードの壁です。性能面でも、価格面でも適切なハードが出てくる必要がある。現在のハイエンドVRは、HMDがコードでつながっていて、HMDの動きを検知するセンサーを設置する必要があります。しかもセンサーが検知できる、ある程度のスペースが必要になるなど、セッティングが絶望的に面倒くさい。
なので、求められるのは、今のHTC Viveのクオリティーで、センサーレス、コードレスのスタンドアローン型HMDの登場です。HMDをパカッとはめたらすぐにプレーができる使い勝手の良さで、なおかつ価格が500ドルを切る。家庭用ゲーム機の歴史を見れば分かる通り、ハードが売れるのは500ドルを切ったとき。それが300ドル台に入ってくると一気に普及する。
VRが最初に市場に登場したときは、HMDが約1000ドル、それをつなげるハイエンドPCが2000ドルぐらいで、3000ドルぐらいかかりました。それが、ググッと価格が下がってきていて、ハイエンドではないですが、Oculus Go(オキュラス ゴー)が199ドルで手に入るようになってきました。
――実際に、500ドルを切る、センサーレス、コードレスのスタンドアローン型HMDが登場するのはいつごろになりそうでしょうか?
國光氏: 2018年末から2019年の頭ごろだと思います。現在も、“惜しい”ハードはたくさん出てきています。例えば、Oculus Goは、完全スタンドアローンで199ドル。ただし、コントローラーが片手なので6DoF(Six Degrees of Freedom=3次元において剛体が取り得る動きの自由度)が取れない。
中国だけで発売された「Vive Focus」もスタンドアローン型ですが、価格が600ドル超と高いのと、コントローラーが片手。マイクロソフトのMR「Windows Mixed Reality」は、コードレスなんだけれども、PCは必要です。
このように全体的にあとちょっとのところまで来ている。実際、Oculusは既に「Santa Cruz」という、コードレスでPCも必要ないスタンドアローン型の次世代機を発表していて、開発キットを今年提供すると言っているので、ハードの問題は来年に向けて解決していくのではと見ています。
――もう一つの壁は?
國光氏: ソフトですね。ゲームの歴史を振り返ると、面白いゲームはたくさんは必要ないんです。1本のどうしてもやりたくなるゲームがあれば、ユーザーは飛びつく。スマートフォンゲームでいえば『パズル&ドラゴンズ』、Nintendo Switchであれば『ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド』。1本のキラーゲームが出てくることが、市場の立ち上げには欠かせないのかなと思います。
――キラーゲームは出てきそうですか?
國光氏: Switchは任天堂と一部のゲーム会社しか作っていなかったけど、VRのゲームは、世界中のデベロッパーが、「VRならではの面白さ」に挑戦しているので、そのうちキラータイトルが出てくるのではと、僕はポジティブに考えています。そして、僕らが作っているゲームがキラータイトルになるのが一番の理想。
ゲームの歴史はシンプルで、今まで見たことがない「Wow!」という驚きの体験にユーザーはお金を払ってきた。VRが始まって2~3年ほどたちますけど、かつてのWiiを超えるような「Wow!」は既にあると思うんです。もちろん、酔いやすいとか疲れるとかいろいろな問題点はあります。でも、「Wow!」という興奮は提供できるので、ゲームクリエイターが頭を使って、トライ&エラーしていくと、ユーザーに刺さるゲームが必ず作れると思います。
バーチャルYouTuberやチャットがVRのキラーコンテンツ?
――スマートフォンで楽しむVRゲームのマーケットも広がりますか?
國光氏: スマートフォンで楽しむVRが、Oculus GoとかGeogle Daydreamという形になってきているのかなと思っていますが、ゲームを楽しむという意味では、マシンスペックが足りないのかなと感じています。VRの面白さって、例えば『スター・ウォーズ』であれば、『スター・ウォーズ』の世界に入って自分自身で戦ったり体験したりすること。スマホのVRやOculus Go、Daydreamだと、自由に動き回る感覚が得られないので、ゲーム以外の使い方になるのかなと思います。
それに関連して、今、面白い動きが、日本と海外であります。1つは、日本で昨年末から盛り上がってきている「バーチャルYouTuber」。二次元キャラクターによるYouTuberなんですが、gumiグループのTokyo XR Startups(旧Tokyo VR Startups)が投資している「Activ8」が手がけている「キズナアイ」がすごく伸びているんです。
――「キズナアイ」は、フォロワー数など、バーチャルYouTuberのランキングで1位と聞いています。
國光氏: 多くの人は、バーチャルYouTuberをYouTubeや、動画配信の「17Live」や「SHOWROOM」で見ているわけですが、HMDをかぶって見ると、(二次元キャラクターが)近いんです。すぐそばで見られるわけです。Oculus Goで、自分の好きなバーチャルYouTuberを近くで見られるという深い体験ができるので、買ってみようという人は多いと思います。
――もう一つは?
國光氏: 「VRChat」(注)というのが、昨年の12月ぐらいから、海外ですさまじく伸びています。PCでも楽しめるんですけど、HMDを付けて見ると、一人称視点で(仮想空間内で)相手とコミュニケーションできる。1カ月で200万以上の新規ユーザーを獲得していて、ピークのときは、2万同時接続で、STEAM内でトップ30に入るほどです。
もともと、バーチャルYouTuberはVR配信を意識していたものではないんですが、面白いのは、バーチャルYouTuberが増えているのはVRの技術を使っているから。HTC Viveの「VIVEトラッカー」(物に取り付けることで、その位置と動きを正確にトラッキングできるデバイス)を使うと、(生身の人間の)頭や手、腰、足の動きがトラッキングできるので、それに合わせて3Dモデルを簡単に動かすことができるんです。3Dモデルをアニメーションですべてを作るとものすごいコストがかかっていたのが、VRの技術で簡単に動かせるようになったのは大きなイノベーション。米国でも、こうした日本的なバーチャルYouTuberが増えてくると思います。
こうしたコンテンツをVRで楽しむ場合、スマホやOculus Goでも十分なので、スマホ向けVRのマーケットが広がるのは(ゲームではなく)こっちのジャンルかなと思います。さらに、もっと面白いことをしたい、もっと没入体験をしたいとなってくると、今度は(ハイエンドの)スタンドアローン型HMDを買って楽しむというループが見えてくるのかなと感じています。
あくまでもハイエンドでVRのヒット作を作りたい
――gumiとしてもバーチャルYouTuberなどによって生まれるスマホVRの市場にも力を入れていくのですか?
國光氏: いいえ。あくまでもインキュベーション事業です。僕らは、VRでは「自社によるゲームコンテンツの開発」「インキュベーション事業」「米国でのファンド」と3つのことをやっていますが、本命は、あくまでもVRのハイエンドなところで大ヒットゲームを作ることです。
僕の中で、VRでヒットするジャンルについては、確信めいたものがあります。大きく3つあるのですが、1つはMMORPG(Massively Multiplayer Online Role-Playing Game=大規模多人数同時参加型オンラインRPG)。『ソードアート・オンライン』のように、仮想の世界に入って、モンスターやドラゴンとパーティープレーで戦っていくというのは、絶対にみんなが求めていると思う。既に発表していますが、(子会社の)よむネコでガチで取り組みます。最初は、4人ぐらいで戦うMORPG(Multiplayer Online Role-Playing Game=複数プレーヤー参加型オンラインRPG)になりますが、将来的には本当のMMORPGを作っていきたい。
2つ目は、『PLAYERUNKNOWN'S BATTLEGROUNDS(『PUBG』)』のようなオープンワールドでのサバイバルゲーム。『PUBG』までいくとVR酔いをしてしまう気もしますが、オープンワールドでのガンシューター系は確実に受けると思います。
3つ目は、マルチプレーの『Minecraft』。(VRイラストレーションアプリの)『Tilt Brush』もそうですが、VRの中でクリエーションをすることがすごくはやっている。人とコミュニケーションしながらVR空間でものを作っていく楽しみは確実にあると思っています。
ただ、VR内の実在感をどのように出していくかとなど細かい調整は難しくて、チャレンジングなことは結構多い。それをつぶしていきながら、将来の目標として、この3つを作っていきたい。
――さきほどのバーチャルYouTuberの登場などは、VRに興味を持つ人が増えて、ハードの普及を後押しするなどマーケットの下地を作る上で重要だけれども、gumiとしてはあくまでもVRのゲームを自らが作ってヒットを出すことを目指しているわけですね。
國光氏: 僕がVRをやると言った3年ぐらい前は、日本にスタートアップ企業もないし、投資してくれる会社もなかった。市場がなければ誰もVRを作らないから、新しい市場自体を作っていかなくてはと思ってインキュベーションを日本、韓国、北欧で始め、米国でファンドを立ち上げました。
最初の2年間はインキュベーションや米国での投資がほとんど。昨年、ようやく市場が温まってきて、僕らも「こういうものを作ったらいい」というのが見えてきたので、いよいよスタジオでVRゲームの開発をスタートした感じです。今年の年末から来年に向けて500ドルを切るハイエンドのスタンドアローン型HDMが出てくるタイミングで、弊社のVRゲームも順調にいけば出てくる。それが、キラーゲームになってくれると、業界をリードしていけるんじゃないかなと考えています。
――先手を打ってきたことは、今後、有利に働きますか?
國光氏: 僕は先行逃げ切りになると思っています。VRって技術とノウハウの塊なんですよ。例えば、VRで手がものに当たったときの表現はコントローラーを「ブルッ」と震わすだけなんですが、実際に当たったような感覚をどう出していくかは難しい。しかも、1個1個をすべて細かく作り込んでいくわけにはいかないので、ある程度モジュール化していく必要があります。そのほかにも、マルチプレーだったら、接近戦でどう同期させるのかなど、僕らも解決していない部分は結構あります。そういったノウハウの部分がすごく多いので、先行したところがかなり有利。そのまま逃げ切るといった形があるんじゃないかと思っています。
――株式市場でgumiは注目企業の一つですが(笑)、今期の業績、来期の展望はいかがですか?
國光氏: 今期については今のところ発表している四半期ベースは悪くないと思います。VRについていえば市場自体も順調だし、ARでは、Ingressの次世代版『Ingress Prime』や『Harry Potter:Wizards Unite』が出てくるので、2018年も盛り上がりそうです。
これまで、新しいテクノロジーが出てくると、そのテクノロジーじゃなきゃできないゲームや遊び方が生まれて、エンターテインメントは進化してきたと思う。弊社も、今後、ゲーム事業は引き続きしっかりやっていきつつ、VRやAR、その先で言うとブロックチェーンとか、新しいテクノロジーじゃなきゃできない体験を作ることに、挑戦し続けたいと思っています。