加速するデータ活用とデジタル戦略

――昨年のインタビューで『バイオハザード7』では、ダウンロード販売やネットに接続したユーザーの動向を分析し、これから販売・開発されるタイトルについて活用していきたい、カプコンの今後のデジタル戦略を検討する上でも『バイオハザード7』は試金石となるだろうとのことでしたが、実際にいかがでしたか(関連記事:『バイオハザード7』基軸にデジタル戦略練るカプコン)。

辻本氏: 承認をいただいたユーザーの方から、どういう国で、どういう言語やボイスで遊ばれているのか、クリアするまでの時間はどうだったかなど、いろいろなデータを集めることができました。無料の体験版と予約率との因果関係を調べたり、国別に他のタイトルと比較するといったことも、できるようになります。このように、手に入れたデータを基にどう販売施策を立てるかということが重要になってきました。

――今年1月に発売した『モンスターハンター:ワールド』では、その経験が生かされているのですか。

辻本氏: 『モンスターハンター:ワールド』は、シリーズとしてこれまで以上に海外での展開に注力しています。ただ、「バイオハザード」とはゲームの内容が違いますから、昨年のE3(Electronic Entertainment Expo)発表後のユーザーの反応を踏まえつつ、情報の伝え方をいろいろ工夫しました。また、昨年12月に行った3回のβテストで蓄積したデータも、今後の展開を検討する上で大いに活用しています。

 社内で何度も言っていることですが、以前のパッケージ主体のビジネスでは、ユーザーの動向をリアルタイムにデータで分析することは困難でした。今や体験版の配信などでもリアルな数字が得られ、その母数も非常に大きく信頼度が高い。さらに今はSNSがありますから、ユーザーからポジティブ/ネガティブの両方の反応を集めることができます。それらを利用して、製品版発売までにユーザーの不都合をできるだけ解決することに加え、こちらが伝えたいことがうまくユーザーに伝わっていない場合は、誤解を解くためのコミュニケーションを図っていきます。『バイオハザード7』発売以降の1年は、こうした施策を確実に行い、デジタル戦略を推進するよう社員に伝えていますし、2018年もこの方針は変わりません。

『モンスターハンター:ワールド』(C) CAPCOM CO., LTD. 2018 ALL RIGHTS RESERVED.
『モンスターハンター:ワールド』(C) CAPCOM CO., LTD. 2018 ALL RIGHTS RESERVED.
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――ゲームビジネスのデジタル化、データ活用という点では相当な手応えを得られたようですね。

辻本氏: いいえ、まだまだです。今、一番やらなければならないのは、そうやって得たバラバラなデータをどうカプコンの経営指標に落とし込み、社内の共通認識として標準化していくかです。そこがまだ定まっていません。数字というのはいろいろな見方ができますしね。

 もちろん計画本数があって、それに対する実際の見込み本数があり、計画をどう達成していくのか。またビジネスとして売り上げの結果、利益が生まれ、次の投資をどうするのかということは常々考えています。ただ、現在はそれを判断するための指標がきちんと標準化されていない。予約率なのか、体験版のダウンロード数や体験者から得られるいろいろな数字なのか。コメントについても、どこを読み取ればいいのか。体験版や製品版でのプレー時間、難易度調整など、まだ分析し切れていない部分があります。これらを解決するにはゲーム機メーカー側ともよく話し合わなくてはなりませんし、自社でもデータを収集できるようなシステムを導入する必要があります。

 このような思想や発想を社内に浸透させて経営指標としてまとめあげることで、いかにデータ収集や分析を効率化していくか。それができなければ、データ収集や分析ばかりに時間を取られ、生産性が上がりません。最終的にはAI(人工知能)など、機械に任せられる部分は任せて、人間は戦略を練ることに時間を費やすことが一番重要だと思います。これはゲーム産業に限らず、どのような産業分野でも共通の経営課題ではないでしょうか。

――『バイオハザード7』ではずみがつきましたが、ここ数年のカプコンのデジタル重視の姿勢は、1本1本のタイトルをどう売っていくかという話ではなく、経営面や引いてはゲーム産業全体にかかわるテーマだということですね。

辻本氏: デジタル戦略によってパラダイムシフトを起こしてきた企業というのは、明らかにそうしたことを実践してきています。最近、注目しているのがNetflixです。

 動画配信事業者が自らコンテンツを制作する現在、Netflixは作品に対するクオリティーが評価されていますし、ユーザーからの支持も高い。その背景には、脚本家や監督、俳優などの過去の実績に照らし合わせてヒットするかどうかや投資額を判断するという、旧来型のハリウッドとは異なる、新しいコンテンツの開発手法があります。Netflixは、彼らが抱える視聴者から得られたデータをAIで分析し、それによって適切なストーリーや好まれそうな俳優を割り出すなど、ユーザーの嗜好データをコンテンツ作りに活用することで成功の確率を上げているというのはよく知られている話です。

――そうしたNetflixの手法は、ゲームでも取り入れることができると。

辻本氏: 理論的には可能です。実現させるには、いかにして社内をそうした制作思想に変えていくか、デジタル戦略的に経営を考えていくか、それらを浸透させる重要な時期なのだと思います。今までと同じことをしていては、何も変わりません。経営におけるデジタル戦略というのは、現状の延長線上にはない発想で取り組まなければいけません。そうでなければ、さらなる成長というのは見いだせないでしょう。