「ナンバービル」など、古くから新橋・虎ノ門エリアの開発を手がけてきた森ビルが、大規模な再開発によってこの虎ノ門エリアを“未来の職住近接都市”にするという。

 都心で働くビジネスパーソンの悩みの種の一つが通勤だ。そこで職住近接ということになるが、タワーが林立するオフィス街が暮らしの場になるかと思う人もいるだろう。

 世界を見ればそうした暮らしは至るところにある。ニューヨークには五番街にも住宅があるし、パリのシャンゼリゼ通りのオフィスの上階は住宅だ。東京が世界の都市と肩を並べるようになるためには、生活も楽しめる職住複合のオフィス街が必要という観点が出てきても不思議はない。

 そういった観点で見ると、ほかの都心再開発エリアと比べて住宅が多いのが、虎ノ門エリアだ。すでに約4000戸の高額物件(分譲価格で平均坪単価400万円以上、月額賃料30万円以上あるいは専有面積30坪以上)があり、その供給の多くを担ってきたのが森ビルだ。

 同社の事業はアークヒルズ、六本木ヒルズ、虎ノ門ヒルズの大きく3カ所からなるが、いずれの施設にもかなりの数の住宅が用意されており、なかでも虎ノ門ヒルズのこの2年間の賃貸稼働率は90%以上と人気が高い。

 さらに2016年4月以降、虎ノ門エリア全体では新たに約3000戸の住宅が供給される予定(他社プロジェクト含む)。この数はこれまで同社が都心で供給してきた戸数にほぼ匹敵する。都心再開発というとオフィスにばかり目が行くが、同社の場合には以前から職住近接の街を作り続けてきたのだ。では、大量の住宅も含む虎ノ門エリアでは今後、どのような開発が行われるのか。

日比谷線新駅、バスターミナル新設で都心の結節点に

 虎ノ門エリアは新宿、渋谷、東京、湾岸エリアや今後、開発が行われる品川などほかのオフィス街のちょうど中間点に位置し、東京駅や官公庁のある霞が関にも隣接する。東京都心オフィス街の結節点ともいえる場所にあるわけで、以前は東京五輪の選手村ができる湾岸とスタジアムを結ぶ結節点といわれたが、それ以上に意味のある立地なのだ。

 しかも、この強みは今後、交通の利便性アップに伴っていっそう強化される。そのうちのひとつが、2020年の東京五輪開催前の供用を目指して建設されている東京メトロ日比谷線の新駅だ。

 現在の虎ノ門ヒルズの最寄り駅は日比谷線の神谷町駅あるいは銀座線の虎ノ門駅だが、どちらも300~400メートル離れており、足回りが便利とはいいがたい。だが、新駅は虎ノ門ヒルズの西側に隣接しており、この駅ができると利便性は大きく向上する。

 そのうえ、2022年までには既存の虎ノ門ヒルズも含めて合計4棟のタワーが建つ予定。総敷地面積は約7.5haと六本木ヒルズの約9.3haより多少コンパクトではあるものの、都心で行われている開発の中では品川駅周辺の約13haに次ぐ規模。延べ床面積は約80万平米、住宅戸数は約800戸を予定しており、緑地も約1万5000平米作られる予定だ。

 まず、2019年度に竣工が予定されている「虎ノ門ヒルズ ビジネスタワー(仮称)」には1階に都心と臨海部を結ぶBRT(バス高速輸送システム)と空港リムジンバスも発着可能な約1000平米のバスターミナルの設置が計画されており、臨海部へのアクセスは大幅に改善されることになる。

 「世界の主要都市と比べ、東京の弱みは交通面と文化面といわれる。交通面での大きなウイークポイントは空港へのアクセス、世界主要都市への直行便の少なさ。これについては民間ではどうすることもできないが、それ以外の交通インフラ整備については可能な限り、推進したいと考えており、バスターミナル設置はその一端」(森ビル都市開発本部・平野文尉氏)という。

 このタワーと同時期に住宅棟「虎ノ門ヒルズ レジデンシャルタワー(仮称)」も竣工する予定で、この地上56階建てのタワーには約600戸の住宅、サービスアパートメント、店舗に子育て支援施設、スパなどが作られることになっている。

 さらに、2022年度を目標に、新駅に直結して4棟目のタワーとなる「虎ノ門ヒルズ ステーションタワー(仮称)」が竣工予定。虎ノ門ヒルズ 森タワーとは地下とデッキで結ばれる。

既存の虎ノ門ヒルズ(写真中央左、地上52階建て)に加え、「虎ノ門ヒルズ ビジネスタワー(仮称)」(写真左、地上36階建て、2019年度竣工予定)、「虎ノ門ヒルズ レジデンシャルタワー(仮称)」(写真中央右、地上56階建て、2019年度竣工予定)、「虎ノ門ヒルズ ステーションタワー(仮称)」(写真右、2022年度竣工目標)と計4棟のタワーが建つ予定
既存の虎ノ門ヒルズ(写真中央左、地上52階建て)に加え、「虎ノ門ヒルズ ビジネスタワー(仮称)」(写真左、地上36階建て、2019年度竣工予定)、「虎ノ門ヒルズ レジデンシャルタワー(仮称)」(写真中央右、地上56階建て、2019年度竣工予定)、「虎ノ門ヒルズ ステーションタワー(仮称)」(写真右、2022年度竣工目標)と計4棟のタワーが建つ予定
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虎ノ門の多様性のカギは「新橋」

 虎ノ門エリアの特徴は単に住宅が多いだけではない。暮らすためには物販、飲食、子育て関連施設などさまざまな要素が必要になるし、そもそも多様性が担保されていてこそ都市だろう。

 「ハイクラスなオフィスはもちろん、住宅、サービスアパートメント、商業施設、カンファレンス、ホテルそのほかの施設をトータルに整備し、徒歩圏内でなんでもそろう、世界のグローバルプレイヤーに気持ちよく過ごしていただける地域を目指している」(森ビル広報室)。前述した通り、子育て支援施設、スパなども計画されており、生活に必要なモノは網羅されている。

 多様性は自ら作り出すだけではなく、ほかの地域、組織などとの連携でも生まれる。地域との連携では、森ビルがかつて六本木ヒルズを開発する際、隣接する麻布十番の商店街などと協働したことは有名だが、虎ノ門ヒルズの場合は新橋がそうした存在になるという。猥雑な雰囲気のある繁華街・新橋がある点が多様性に寄与すると考えているというのだ。

「海外からの来訪者は新橋の路地裏の焼き鳥屋に大喜びする。すぐ近くに、自分たちと異なる街があるのは大きな魅力。断絶するのではなく、共存共栄を図っていきたい」(前出・平野氏)

 再開発で大規模な商業施設ができると近隣の個人店を中心とした商店街や飲食店街が消滅するケースは少なくないが、これはパイを取り合うと考えるがため。取り合うのではなく、異なる魅力をアピールし、回遊できるようにすればパイは増やせるはずなのだ。

 実際、六本木ヒルズ誕生後の麻布十番は都心の下町として外国人観光客も含めて来訪者が増えている。虎ノ門ヒルズと新橋が同様の関係になれば、暮らしの楽しみが増える。虎ノ門ヒルズで眺望としゃれたフレンチを楽しんだあと、新橋の路地裏で二次会という楽しみ方ができるのは虎ノ門ならではだろう。

 歴史のある地元と連携、その良さを生かした街づくりを模索している点も大きなポイントだ。例えば、虎ノ門ヒルズエリアに隣接する愛宕山は都心とは思えないほどの濃い緑に覆われたエリア。この景観を生かし、再開発に当たっては緑のラインを創出する計画がある。新虎通りから桜田通りを横切って赤坂までを並木道にしようというもので、実現すれば歩いて楽しいという価値も加わる。

 それ以外にも新虎通りエリアマネジメント協議会、一般社団法人新虎通りエリアマネジメントを通じて地元でのゴミ拾い、打ち水、街バル開催など地道な連携も行われており、人的交流も進みつつある。

新虎通りでは地元でのゴミ拾い、打ち水、街バル開催など地道な連携も行われている
新虎通りでは地元でのゴミ拾い、打ち水、街バル開催など地道な連携も行われている
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新虎通りから日本各地の名産品を発信

 面白いのは地元だけではなく、日本各地の魅力を発信する取り組みも行われている点。新虎通りを日本文化のショーケースとしようという動きがあり、イベントや物品の紹介などが行われるのだ。

 第1弾は2016年11月の週末に行われた「東京新虎まつり」。新虎通りを封鎖し、東北六市の祭りを披露する「東北六魂祭パレード」を中心に各種のイベントが行われ、約3万人が集まった。

 さらに2017年2月からは2020年の東京五輪を活用した地域活性化推進首長連合主催で、「旅する新虎マーケット」と銘打った定期的なイベントもスタートする。これは沿道に建てた店舗などで地域の名産品や食を紹介するもので、新虎通りのにぎわい創出と同時に、日本の地域活性化も図ろうという一石二鳥を意図したイベント。これが始まれば、都心にいながらにして全国各地域の味などが楽しめるようになる。

 新虎通りについては開通当初、13メートルと幅のある歩道を生かした「東京シャンゼリゼプロジェクト」なるにぎわい創出策をアピールしたものの、しばらくは閑散としていた。その後、カフェやショールーム、ショップの出店で風景はいくぶん変わってきた。さらにこうしたイベントが行われ、沿道で建て替えが進めば変化は加速しそうだ。

 もうひとつ、虎ノ門エリアのポテンシャルとして挙げておきたいのは、ほかにも大規模な開発が集中して行われている点。虎ノ門病院の建て替えを中心とした虎ノ門二丁目地区再開発、ホテルオークラ東京本館建て替えを中心にした虎ノ門2-10計画、気象庁虎ノ門庁舎・港区立教育センター整備事業、虎ノ門トラストシティワールドゲート、少し離れて赤坂一丁目地区第一種市街地再開発事業など計画中のものなども含めると、広大なエリアで開発が進んでいるのだ。

 当然、相乗効果が生まれることは想像に難くなく、10年後の虎ノ門はきっと今とは全く違う街になっているだろう。だが、そのときにもフレンチの後に立ち飲みが可能な、多種多様な魅力が混在するエリアであってほしいものだ。

2016年11月の週末に行われた「東京新虎まつり」。新虎通りを封鎖し、東北六市の祭りを披露する「東北六魂祭パレード」を中心に各種のイベントが行われた
2016年11月の週末に行われた「東京新虎まつり」。新虎通りを封鎖し、東北六市の祭りを披露する「東北六魂祭パレード」を中心に各種のイベントが行われた
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新虎通りの沿道に建てた店舗などで地域の名産品や食を紹介する「旅する新虎マーケット」(写真は2016年9月のポップアップショップ)
新虎通りの沿道に建てた店舗などで地域の名産品や食を紹介する「旅する新虎マーケット」(写真は2016年9月のポップアップショップ)
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(文/中川寛子=東京情報堂)