広域渋谷圏が目指す“渋谷らしさ”とは

 渋谷を世界の都市と戦える街にしていくためには目の前の損得を言っていられないというのが、再開発を主導する東京急行電鉄の考えらしい。同社都市創造本部 開発事業部 事業計画部の渋谷まちづくり担当課長で、渋谷駅前エリアマネジメント協議会の事務局長でもある山口堪太郎氏は「渋谷を広域化することで長期的に渋谷全体の底上げを意図したものであり、短期間で収益を上げようとする単独の大型再開発とは異なる」と断言する。

 渋谷周辺には前述した原宿、表参道、代官山のほかにも広尾、恵比寿、中目黒などといった個性ある街がそろう。再開発ビルを拠点にそれらの街を広域渋谷圏としてつなげられれば、中小規模のビルや個人店舗に使い勝手の良い路地に面した古い家屋があるエリアにまで人の流れが生まれ、再開発で失われがちな街の多様性を維持し続けられる。高低差のある街ならではの起伏に満ちた風景の中にいろんなモノが溢れているという、渋谷らしさを失わずに済むというわけだ。

 広域化にはもうひとつ、「ジェントリフィケーションに対抗する」という意味もある。ジェントリフィケーションとは再開発などで地域が活性化した結果、家賃が高騰する現象を指す。そのために個人店舗が成り立たなくなり、資本力のある大手チェーン店に取って代わられることでエリアの人気が落ちていくという悪循環だ。経済原理に基づいて街が変化している限り避けられない現象だが、街を広域と考えればダメージは少なくなる。エリア内のある街の人気が落ちて賃料が下がっても、その安さに引かれて面白い店が集まれば再度その街に人気が出て賃料が上がる、という循環が繰り返されるため、エリア全体としての人気や活力は落ちないことになるからだ。街単位では衰退している場所があっても、広域渋谷圏で見ると地域の価値は維持されるわけだ。

 渋谷の再開発が完成するのは2027年。今から約10年後、日本全体が変わるなかで渋谷がどのような存在になっているか。東急電鉄がうたうエンターテインメントシティーというコンセプトを維持し、ビルだらけのつまらない街になっていないことを祈りたい。

地下2階の東横線·東京メトロ副都心線コンコースから1階JR線改札と3階JR線·東京メトロ銀座線改札を縦につなぐ計画(提供:渋谷駅前エリアマネジメント協議会)
地下2階の東横線·東京メトロ副都心線コンコースから1階JR線改札と3階JR線·東京メトロ銀座線改札を縦につなぐ計画(提供:渋谷駅前エリアマネジメント協議会)
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(文/中川寛子=東京情報堂)