渋谷、東京駅、虎ノ門、品川――。今行われている東京の大規模再開発のなかでも、街の風景が大きく変わりそうなのが渋谷だ。

渋谷駅周辺開発の全体図(提供:渋谷駅前エリアマネジメント協議会)
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 まず2017年春にエリア北側の渋谷宮下町、2018年度に南側の渋谷駅南街区と2棟のタワービルが登場。次いで2019年度には渋谷駅街区に地上47階、高さ約230メートルの東棟が誕生する予定。東棟は渋谷駅真上のタワーとなることから、この完成で渋谷の風景は大きく変わる。ちなみにこのタワーの屋上には日本最大級の屋外展望施設が作られる予定となっており、開放感、眺望が楽しみだ。

地上47階、高さ約230メートルからなる東棟の屋上には日本最大級の屋外展望台も設置される(提供:渋谷駅前エリアマネジメント協議会)
地上47階、高さ約230メートルからなる東棟の屋上には日本最大級の屋外展望台も設置される(提供:渋谷駅前エリアマネジメント協議会)
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 2018年から2019年にかけては道玄坂一丁目駅前地区も完成。さらに渋谷区の新庁舎、公会堂、渋谷パルコの建て替えも完了する予定となっており、東京五輪を前に渋谷全体が大きく変わることになろう。さらに2020年には渋谷駅桜丘口地区、そして2027年度に渋谷駅街区の中央棟、西棟が最後に完成することになっているが、この年はリニア中央新幹線も開業を予定している。 

 利用者として最も気になるのは駅の使い勝手だが、2019年度に東京メトロ銀座線ホームが表参道方面に約130メートル移設、2020年春をめどに山手線と埼京線・湘南新宿ラインのホームが並列化される予定などと、徐々に乗り換えの利便性が図られる。最終的に現状の迷路状態が解消されるのは2027年。駅周辺では東口地下広場、西口駅前広場、西口タクシープール、東西自由通路なども整備される計画となっている。ひとつ気になるのは、他路線からやや離れた位置にある京王井の頭線。現状ではサイン(案内表示)などを分かりやすくするといったこと以外は考えられていないようだ。

スリバチ状のハンディーを再開発で逆転

開発が進む渋谷駅周辺エリア
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 渋谷、新宿、池袋。副都心と呼ばれる3つの街のうち、渋谷だけが地形的に大きなハンディーを負っている。地形図を見れば分かるが、新宿、池袋は駅が台地上にあり、周辺は比較的平坦。そのため、街の拡大が容易で、例えば新宿は年を追って西側に拡大、現在では西新宿の大半の地域、神田川の手前にまで高層ビル群が建設されている。

 ところが渋谷はスリバチ状の谷底に駅があり、表参道、原宿、代官山その他周辺のどの街に行くにも坂に阻まれる。街として拡大したくても、拡大すべき土地がなかったのだ。しかも、その駅に大正期以降4社8路線が乗り入れ、現在は地下5階、地上4階に駅施設が迷路のように重なる。約350メートル、同じ駅とは思えないほど離れている山手線と埼京線・湘南新宿ライン、乗る場所と降りる場所が全く違う銀座線など、渋谷駅の使い勝手の悪さは挙げだしたらきりがないほど。バリアフリーにも対応できていない。

 加えて、前回の東京五輪のときに急造された国道246号がJRと交差、これが渋谷を東西南北に分割している。そのため、渋谷を訪れる人の90%はハチ公前広場を経てスクランブル交差点を渡り……と、渋谷の“4分の1”を楽しんでいるだけ。街は分断され、残りの4分の3は渋谷として認知すらされていない状態だ。

 それ以外にも地形の制約は渋谷の街にさまざまなデメリットを及ぼしている。例えば、渋谷にはハチ公前広場以上の広場も公園もない。駅前のバスターミナルには空港や日本各地へのバスを集めるだけの余裕がない。一時期はITベンチャー企業が集積していた「ビットバレー」として注目されたが、広いオフィスがないため、成長後は渋谷を離れていく企業が続出、など。

 そうしたマイナスを一気にプラスに転換しようというのが、渋谷大改造というわけだ。

表参道、代官山、恵比寿…“広域渋谷圏”創出がカギ 

 渋谷の再開発では駅周辺に出現するオフィスを中心とするタワービルの数、2027年までと長期にわたる開発期間が話題になっているが、実はこの開発の肝はそこではない。

 ポイントは再開発で登場する駅周辺の建物によって渋谷と周辺の街をつなぎ、“広域渋谷圏”を作ることだ。スリバチの底から建物が立ち上がり、表参道や原宿、恵比寿、代官山にフラットに行き来できるイメージだ。

提供:渋谷駅前エリアマネジメント協議会
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 その意図を分かりやすく伝えるのが、2016年10月24日に記者発表された渋谷宮下町計画と渋谷駅南街区だ。

 再開発事業の中心となる6つのプロジェクトのうち、2017年春に開業予定の渋谷宮下町計画「渋谷キャスト」は最も北側。明治通りを挟んで宮下町公園と向かい合い、建物の目の前はキャットストリート。渋谷と原宿、表参道をつなぐ、流行が生まれる通りだ。

 その立地を意識し、渋谷キャストは“クリエーターのための場”をうたう。一般的なオフィスに加えてシェアオフィスを配し、フリーランスのクリエーターやスタートアップ企業などが利用しやすいようになっているのだ。13~16階に用意された住宅フロアには、水回りなどを共用することで賃料を抑え、借りやすくしたコレクティブハウスもある。1階、建物前にはイベントなどに使える広場、多目的スペースも作られる予定。

2017年春に開業予定の渋谷宮下町計画「渋谷キャスト」
2017年春に開業予定の渋谷宮下町計画「渋谷キャスト」
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 一方、再開発エリアの南側、渋谷川沿いの渋谷駅南街区には、同じくクリエーティブワーカーに選ばれる環境を目指す複合施設「渋谷ストリーム」が2018年秋に開業予定。以前、東急東横線渋谷駅があった場所で、これまでは首都高と国道246号で分断され、訪れる人の少なかったエリアだ。

 そこでこのビルでは地下で東急各線、東京メトロの渋谷駅とつながるのはもちろん、JR渋谷駅と国道246号を横断するデッキでつなぎ、将来的には新設されるJR渋谷駅南改札(仮称)とも直結する予定。山手線の内側、外側をつなぐ東西自由通路も計画されており、人気の少ない渋谷駅南エリアに日の目が当たることになる。

渋谷駅南街区に建設予定の複合施設「渋谷ストリーム」
渋谷駅南街区に建設予定の複合施設「渋谷ストリーム」
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 さらに広域渋谷圏構想にとって重要なのは、渋谷川沿いに約600メートルもの遊歩道が作られる点。これにより、これまでの渋谷になかった水辺空間が生まれるのはもちろん、渋谷駅から代官山方面に抜けられるようになる。

 つまり、渋谷キャストと渋谷ストリーム、この2つのビルが渋谷駅を中心に北は原宿、表参道、南は代官山をつなげるための拠点というわけだ。2012年に開業した渋谷ヒカリエの2階部分が東西を貫いて青山方面への通路となっているように、渋谷再開発においてビルはオフィスや商業施設など人を集める存在であると同時に、街をつなぐ結節点でもあるのだ。

広域渋谷圏が目指す“渋谷らしさ”とは

 渋谷を世界の都市と戦える街にしていくためには目の前の損得を言っていられないというのが、再開発を主導する東京急行電鉄の考えらしい。同社都市創造本部 開発事業部 事業計画部の渋谷まちづくり担当課長で、渋谷駅前エリアマネジメント協議会の事務局長でもある山口堪太郎氏は「渋谷を広域化することで長期的に渋谷全体の底上げを意図したものであり、短期間で収益を上げようとする単独の大型再開発とは異なる」と断言する。

 渋谷周辺には前述した原宿、表参道、代官山のほかにも広尾、恵比寿、中目黒などといった個性ある街がそろう。再開発ビルを拠点にそれらの街を広域渋谷圏としてつなげられれば、中小規模のビルや個人店舗に使い勝手の良い路地に面した古い家屋があるエリアにまで人の流れが生まれ、再開発で失われがちな街の多様性を維持し続けられる。高低差のある街ならではの起伏に満ちた風景の中にいろんなモノが溢れているという、渋谷らしさを失わずに済むというわけだ。

 広域化にはもうひとつ、「ジェントリフィケーションに対抗する」という意味もある。ジェントリフィケーションとは再開発などで地域が活性化した結果、家賃が高騰する現象を指す。そのために個人店舗が成り立たなくなり、資本力のある大手チェーン店に取って代わられることでエリアの人気が落ちていくという悪循環だ。経済原理に基づいて街が変化している限り避けられない現象だが、街を広域と考えればダメージは少なくなる。エリア内のある街の人気が落ちて賃料が下がっても、その安さに引かれて面白い店が集まれば再度その街に人気が出て賃料が上がる、という循環が繰り返されるため、エリア全体としての人気や活力は落ちないことになるからだ。街単位では衰退している場所があっても、広域渋谷圏で見ると地域の価値は維持されるわけだ。

 渋谷の再開発が完成するのは2027年。今から約10年後、日本全体が変わるなかで渋谷がどのような存在になっているか。東急電鉄がうたうエンターテインメントシティーというコンセプトを維持し、ビルだらけのつまらない街になっていないことを祈りたい。

地下2階の東横線·東京メトロ副都心線コンコースから1階JR線改札と3階JR線·東京メトロ銀座線改札を縦につなぐ計画(提供:渋谷駅前エリアマネジメント協議会)
地下2階の東横線·東京メトロ副都心線コンコースから1階JR線改札と3階JR線·東京メトロ銀座線改札を縦につなぐ計画(提供:渋谷駅前エリアマネジメント協議会)
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(文/中川寛子=東京情報堂)

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