VR(Virtual Reality、仮想現実)をマーケティングに活用する手法として、最近増えているのが空間の制限を取り払うもの。今いるのが自宅のリビングやデスクの前、ショッピングモールの一角など、ごく狭い場所だったとしても、顧客にVRゴーグルをかけてもらえば、そこは広大なスペースに変わる。前回(旅のプランの決め手はVR)に引き続き、VRの先進事例を見ていこう。

メルセデスのクルマを置かないショールーム

 メルセデス・ベンツとカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)・マーケティングが協業で、2016年7月13日~9月13日まで代官山蔦屋書店に設置した「Mercedes-Benz Lifestyle Lounge」。そのテーマは、“クルマを置かないショールーム”だ。

 訪れた人は、VRゴーグルとヘッドホンを装着して、360度動画を視聴する。体験できるのは、同社のクルマの試乗や広くて美しいショールームの見学などで、車種はコンパクト、SUV、スポーツモデルなどを選べる。

 360度動画がスタートすると、助手席からの視点になる。内容はプロモーションビデオのような作りで、海岸を走ったり街中を走ったりとシチュエーションが何度か切り替わる。隣には運転手が座っていて、車内の広さ、隣のシートとの距離感、ダッシュボードに配置された機器の様子などをVRで体験できる。視聴にはVR専用ゴーグル「GearVR」を使っており、没入感は高い。

Mercedes-Benz Lifestyle Loungeは、代官山蔦屋書店の自動車関連書籍売り場の一角に設けられていた。VRゴーグルは「GearVR」を使用している。VR体験だけでなく、タブレットを使った電子カタログの閲覧などもできる
Mercedes-Benz Lifestyle Loungeは、代官山蔦屋書店の自動車関連書籍売り場の一角に設けられていた。VRゴーグルは「GearVR」を使用している。VR体験だけでなく、タブレットを使った電子カタログの閲覧などもできる
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クルマも遊園地もVRに入っちゃう(画像)
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クルマも遊園地もVRに入っちゃう(画像)
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360度動画により、走行中の実車内部の様子を体験できる。広大で美しいショールームを見学する動画もあった

【特集】“ヒットを作るVR”~マーケティングに有効か?

 【第1部】JALやH.I.S.が導入
 旅のプランの決め手はVR
 【第2部】メルセデスと蔦屋書店が協業
 クルマも遊園地もVRに入っちゃう
 【第3部】IKEAはキッチンを再現
 VRで式場選びも家具選びも失敗しない
 【結論】活用法はゲームだけじゃない!
 消費者の購入行動にVRが大きく影響する
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ショールームを飛び出して見込み顧客にリーチする

 Mercedes-Benz Lifestyle Loungeは、現在、自動車メーカーが抱える課題解決への糸口ともなる取り組みだ。その課題とは、一般の人たちのクルマに対する関心の低下。特に交通機関が発達した都市部では、クルマ好きでもない限り、クルマに触れる機会は少なくなってしまった。自動車メーカーからすれば、いい商品を開発したところで、見てもらう機会自体が少ない。潜在顧客とクルマとのタッチポイントをどう増やすかは、自動車メーカー共通の関心事だろう。

 Mercedes-Benz Lifestyle Loungeが従来の販売店やショールーム、あるいはWebサイトでのプロモーションと違うのは「VRを用いることで、限られたスペースでもメルセデスの世界観をリアルに体験してもらえること」(メルセデス・ベンツ日本広報)だ。実車なら何台もの車を並べられる広さのショールームが必要だが、これなら1部屋分のスペースで済む。用意されている360度動画を切り替えれば、短時間でいろいろな車種を体験できるのも利点だ。

駐車場には、試乗できる実車も数台用意されていた。ただ、VRで体験できる車種すべてを揃えるとなると、もっと広大なスペースが必要だろう
駐車場には、試乗できる実車も数台用意されていた。ただ、VRで体験できる車種すべてを揃えるとなると、もっと広大なスペースが必要だろう
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 この利点を生かして、Mercedes-Benz Lifestyle Loungeは販売店を飛び出し、人の集まるところに打って出たのだ。今回、Mercedes-Benz Lifestyle Loungeが設置されたのは、代官山蔦屋書店の自動車関連書籍売り場の一角。書籍を選ぶために訪れた人も、ふらりと立ち寄れる場所である。

 期間中、平日は約70件、週末には約100件の体験数があったという。「新しい技術であるVRそのものへのお客様の関心が高いので、メルセデス・ベンツや車に興味のない方にも体験していただき、メルセデスブランドに触れてもらえた。新しいお客様とのタッチポイントとして、一定の成果を上げられた」(メルセデス・ベンツ日本広報)と評価する。

 メルセデス・ベンツ日本では、蔦屋書店で実施したMercedes-Benz Lifestyle Loungeを基にプロトタイプを作り、今後の展開を検討する予定だ。また、ダイムラー本社でもVRや360度動画を積極的に導入しているという。

たった170坪で世界最大の遊園地

 バンダイナムコエンターテインメントの「VR ZONE Project i Can」もまた、VRによってスペースの制限を取り払った例だろう。こちらは2016年4月15日~10月10日まで、お台場ダイバーシティ東京に期間限定で開設されたVRアミューズメント施設だ(関連記事:「怖さで絶叫、膝はガクガク、ナムコのVR施設が楽しい!」「VRで体験 ガンダムとザクの戦闘に巻き込まれる」)。

ナムコが開設したVRアミューズメント施設「VR ZONE Project i Can」。広さは165.26坪(約545.4平方メートル)
ナムコが開設したVRアミューズメント施設「VR ZONE Project i Can」。広さは165.26坪(約545.4平方メートル)
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 VR ZONEでは、165.26坪のスペースに8種類ほどのアクティビティーマシンが並んでおり、崖が切り立つ雪山をスキーで滑り降りたり、殺人鬼が潜む廃病棟から脱出したり、機動戦士ガンダムの手に乗ってザクとの戦いに巻き込まれたりといったVR体験ができる。

クルマも遊園地もVRに入っちゃう(画像)
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クルマも遊園地もVRに入っちゃう(画像)
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スキーの滑降体験ができる『スキーロデオ』。雪山を超高速で滑り降りるゲーム。プレーヤーには右のようなVR映像が見える。ヘッドセットのマイクが呼吸を拾い、息が白く見える
クルマも遊園地もVRに入っちゃう(画像)
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クルマも遊園地もVRに入っちゃう(画像)
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ガンダムの手の上に乗れる「ガンダムVR『ダイバ強襲』」。右がザクとの戦闘中のVR映像

 最大の特徴は、VRゴーグルやヘッドセットといったVR用のデバイスに、振動モーターやダンパーなどを内蔵した床や椅子などの装置を組み合わせていることだ。雪山を滑降すれば足に強い負荷がかかり、ガンダムの手の上に乗ればグラグラと揺れる。視覚や聴覚に揺れなどの体感が加わることで、没入感は数倍になる。従来のアミューズメント施設のものとはまったく異なるアクティビティーマシンに、体験希望者が殺到。体験費用はマシン1台が1回につき1000円前後、体験には事前の予約申し込みが必要にもかかわらず、1カ月先まで予約が埋まる事態になった。

 VR ZONEのプロジェクトを主導するバンダイナムコエンターテインメントAM事業部の小山順一朗エグゼクティブプロデューサーは、VR ZONEを「たった170坪弱のスペースに作った世界最大の遊園地」と表現する。個々のアクティビティーマシンは数メートル四方に収まる程度の大きさながら、ひとたびVR用のデバイスを装着すると、そこは広大な雪山や廃病棟などに変わる。

 従来のテーマパークは、乗り物などを設置し、それらが動くようにしなければならないため、広いスペースが必要だった。当たり前だが、雪山なら雪山、廃病棟なら廃病棟を作らなければならない。アトラクションを設置したり入れ替えたりするにも大きなコストと手間がかかる。だが、それらをVRで実現できるなら、どんなアトラクションも狭いスペースに設置できるし、撤去や入れ替えも簡単になる。

 「現実のすべてを再現する必要はない。過去の経験を呼び起こすようなポイントさえ押さえれば、体が自然と反応し、リアルに感じられる」(小山氏)。VR ZONEでは、VRについてあまり知らなくても、リアル型脱出ゲームなどには慣れ親しんでいる20代、30代がカップルで来場するケースも多く、VRには若い世代に訴求力があることが分かったという。

 メルセデス・ベンツのMercedes-Benz Lifestyle LoungeやバンダイナムコのVR ZONEのように、空間の制限を取り払うVRのメリットは計り知れない。クルマの販売はショールームの外へ、エンターテインメント施設はテーマパークの外へ飛び出し、どこにでも“出張所”を作れるようになるからだ。見込み客を振り向かせたければ、自ら動いて見込み客に会いに行ける――、VRで顧客とのタッチポイントを増やす企業は今後も増えそうだ。

【特集】“ヒットを作るVR”~マーケティングに有効か?

 【第1部】JALやH.I.S.が導入
 旅のプランの決め手はVR
 【第2部】【第2部】メルセデスと蔦屋書店が協業
 クルマも遊園地もVRに入っちゃう
 【第3部】IKEAはキッチンを再現
 VRで式場選びも家具選びも失敗しない
 【結論】活用法はゲームだけじゃない!
 消費者の購入活動にVRが大きく影響する
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(文/湯浅英夫=IT・家電ジャーナリスト、平野亜矢=日経トレンディネット)