自分のこととして引きつけるのにVRは最適

 360度動画を導入した理由について、JALの宣伝部企画媒体グループの波多野力主任は「実体験により近いものを探していた」と話す。国際線の商品宣伝では、テレビCMやラジオ、雑誌などのマスメディアは主に商品やサービスの認知を高めるためのもの、ウェブサイトは顧客にその商品やサービスの価値を「自分のこと」として引きつけて判断してもらうためのものと考えている。

 「JAL SKY SUITEについても、テレビCMなどでだいぶ認知は進んだと思う。次は、座席を予約する際、自分のこととして引きつけて『じゃあ、乗ってみるか』と背中をひと押ししてくれるコンテンツが必要だった」(波多野主任)。ただ、航空機の快適さは、従来のような写真や動画、文章ではなかなか伝わらない。足元の広さ、前の座席との距離など、体感でしか得られない情報を伝えるために、自分の視点で航空機内を体験できる360度動画の導入に踏み切った。

JALの宣伝部企画媒体グループの波多野力主任
JALの宣伝部企画媒体グループの波多野力主任
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 YouTubeでの配信を選んだのは、誰でも手軽に試してもらいたかったからだ。ただ、Oculus RiftなどのVR専用ゴーグルのコンテンツと比較すると、画質や没入感は落ちる。この問題を克服し、見ている人の実感をより高めることが大きな課題だった。

 そこで、足元の広さや機内装備を単純に説明するだけでなく、機内で起こるシチュエーションを360度動画に盛り込んだ。近くのシートに座っている人が席から移動するシーンや、機内食を食べるシーンなど、「あるある」と思えるような具体的なシチュエーションを用意したのだ。これにより、実際に飛行機に乗っているという疑似体験を強化したわけだ。

 一方で、足元の広さなどアピールしたいポイントに見ている人の注意を促す方法も工夫した。見る人が自由に視線を動かせるVRの場合、アピールポイントに気づかないまま動画が終わってしまうことがあるからだ。リアルな空間にはない矢印やキャプションをあえて表示させ、視線をうまく誘導することに成功したという。

旅のプランの決め手はVR(画像)
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旅のプランの決め手はVR(画像)
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動画のところどころに「ATTENTION」という文字や矢印、空間を示す箱の画像などをあえて表示させて、映像を見る人の視線を誘導している

 顧客からは好意的な感想が多いという。「CMではJAL SKY SUITEは広いと言っていたけれど、どれくらいなのか分からなかった。360度動画で実感できたという声が寄せられている」(波多野主任)。それでいて、「制作コストはあまり高くない」と波多野主任。今回の360度動画を制作した映像制作会社のViiberには過去に一般的な動画の制作も依頼したことがあるが、そのときと比較して、コストや手間はあまり変わらなかったという。

 波多野主任は「新たな機体を導入するときやVRの技術が進んだときには、また新たなコンテンツを用意したい。将来的には、360度動画の中で機内食を選べるなど、見ている人の選択によって体験内容が変わるインタラクティブ性を持たせられるといい」とVR活用の展望を話す。

 旅のように「体験」自体を売る商品やサービスは、実際に体験してみないとその魅力が分からないというジレンマを抱えている。テレビCMやカタログを工夫してみても、それはサービス提供者のアピールポイントを一方的に発信するツールでしかなく、顧客に魅力を実感してもらいにくい。だからこそ、顧客が実感に近い体験を試せるVRが、新たなプレゼンテーションツールとして存在感を発揮するだろう。

【特集】“ヒットを作るVR”~マーケティングに有効か?

 【第1部】JALやH.I.S.が導入
 旅のプランの決め手はVR
 【第2部】メルセデスと蔦屋書店が協業
 クルマも遊園地もVRに入っちゃう
 【第3部】IKEAはキッチンを再現
 VRで式場選びも家具選びも失敗しない
 【結論】活用法はゲームだけじゃない!
 消費者の購入行動にVRが大きく影響する
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(文/湯浅英夫=IT・家電ジャーナリスト、平野亜矢=日経トレンディネット)

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