「米のヒット甲子園」(主催:日経トレンディ、特別協賛:象印マホービン)は、消費者目線で今一番食べてほしいお米を選ぶ新米の味覚審査会。その最終審査会が11月21日にパレスホテル東京で開かれた。最終審査にノミネートされた9銘柄を、専門家7人が食べ比べ、「今一番食べて欲しいお米」を選出。どの米が受賞してもおかしくないハイレベルな戦いを制したのは、今秋本格デビューを飾った岩手の「銀河のしずく」だった。新ブランドが受賞に至るまでの審査会の様子をレポートする。
今年からノミネート方法を変更
普段の食事で、どれくらいお米の味を意識して食べているだろうか。
「ふっくらしたご飯が好き」「粒を感じる硬めが好き」「べちゃっとするくらい軟らかいのが好き」など、炊き方の好みはあっても、品種や産地による味の違いまで意識している人は少ないのではなかろうか。
一見、似たように思えるご飯だが、よく見ると品種によって粒の大きさや艶、色が異なり、当然のことながら味も違う。さらに同一品種であっても産地や栽培方法でも味に違いがあり、気候の影響を受けやすいことから年によっても味に差が出てくる。そこがお米選びの難しいところであり、面白いところでもある。
秋の新米の季節、新しい味を求めて、いつもと違うお米にチャレンジしたいと思っている人に参考にしてほしいのが「米のヒット甲子園」。日本の米文化の発展と付加価値のある米作りに励む生産者を応援することを目的とし、2014年にスタートした。米に優劣を付け、味覚をランキングするのではなく、それぞれの米の個性を知ってもらい、米の消費者拡大に貢献するのが狙いだ。
今年で3回目となる米のヒット甲子園。過去2回は、日本穀物検定協会が主な産地品種銘柄に対して実施する「米の食味ランキング」で最高位の特Aを獲得した米の中から審査会にノミネートする銘柄を募集していた。今回はお米の専門家である五ツ星お米マイスターに新米に関するアンケートを実施し、今年お薦めの新米の銘柄を3つずつ挙げてもらった。77人の五ツ星お米マイスターが推薦した160品種の中から、得票数で上位に選出された9銘柄が最終審査にノミネートされた。
ちなみに、五ツ星お米マイスターとは、日本米穀小売商業組合連合会が認定する資格。全国に約400人おり、お米に関する専門職経験を持つ人のみ受験資格がある。
お米のプロが太鼓判を押す9銘柄
米のヒット甲子園2016で最終審査会にノミネートされた9銘柄は下記の通りだ。
品種としては「蛇紋岩こしひかり」と「朱鷺と暮らす郷」が同じコシヒカリなので、9銘柄8品種の戦いとなる。
五ツ星お米マイスターが太鼓判を押すだけあって、9銘柄すべてがおいしいのは間違いない。アンケートで最も多く表を集めたのは「つや姫」。コシヒカリを凌ぐおいしさといわれるだけあって、期待が高まる。アンケートで二番手につけたのは「ゆめぴりか」。第1回の米のヒット甲子園では「ななつぼし」、第2回が「ふっくりんこ」と北海道の米が連続で受賞している。高評価を得ながら過去2回は受賞を逃した「ゆめぴりか」が三度目の正直で受賞となるか、知名度ナンバーワンのコシヒカリがここでも強さを見せるのか、大粒で個性が光る「銀の朏」や「ふくまる」、今年デビューの「銀河のしずく」にも注目したい。
味覚審査は9銘柄を3グループに分けて行った。第1グループは「蛇紋岩こしひかり」「ゆめぴりか」「銀河のしずく」、第2グループは「銀の朏」「つや姫」「朱鷺と暮らす郷」、第3グループは「さがびより」「匝瑳の舞」「ふくまる」。ブランド名を伏せた状態で7人の審査委員に「硬さ」と「粘り」を評価してもらった。
審査時間は1グループあたり10分間。2016年度産の新潟県・魚沼産「コシヒカリ」を基準米とし、審査対象の3銘柄+基準米の4種類を食べ比べてもらう。硬さと粘りは基準米を「5」とし、それより硬いか軟らかいか、もっちりしているか、あっさりしているかを10段階で評価した。 お米は推薦してくれた五ツ星お米マイスターの店から取り寄せ、公平を期すため同条件で精米・洗米・炊飯した。洗米は、とぐ人によるばらつきを抑えるため、洗米機を使用。あらかじめ決めた速度で同回数ハンドルを回し、3回洗米、4回すすぎを行った。洗米時に使用する水の量と種類(浄水/水道水)までそろえた。 炊くときの水加減は、品種により洗米時の吸水量が違うことを考慮したうえで、事前テストにより最適な加水量を検討。米600gに対し水の量は780ccに統一した。
炊飯に使用したのは、象印マホービンの最新圧力IH炊飯ジャー「南部鉄器 極め羽釜 NW-AS10」。グループごとに洗米、炊飯のタイミングを合わせ、「白米」「ふつう」モードで約60分かけて炊きあげ、炊飯が終わったらしゃもじを立て4等分に切り分け、鍋肌に沿ってほぐしてからおひつに移した。布巾をかけ10分放熱してから審査員が試食した。
10分間3本勝負の味覚審査
審査委員は下記の7人。3人は昨年からの続投となり、新たに4人加わっていただいた。いずれもお米に造詣の深い方ばかりだ。
・川崎恭雄氏(審査委員長:神戸の米穀店「五ツ星お米マイスターいづよね」代表取締役)
・細川茂樹氏(タレント)
・小崎陽一氏(イタリア料理研究家)
・小谷あゆみ氏(フリーアナウンサー)
・里井真由美氏(フードジャーナリスト)
・フォーリンデブはっしー氏(グルメエンターテイナー)
・渡辺和博(日経BPヒット総合研究所研究員)
味覚審査は第1グループから第3グループまで、3銘柄ずつ3回に分けて行う。制限時間は1グループ10分、合計30分だ。
審査委員の自己紹介が終わり、和やかな雰囲気でお米に関する情報交換をしていたが、第1グループの皿が運ばれてくると会場は静寂に包まれた。真剣な面持ちで香りを嗅ぎ、観察し、ご飯を口に運ぶ。審査員の箸は、基準米と審査対象米を行ったり来たりしながら、何度も丁寧に味わう姿が印象に残った。時には首を傾げたり、納得したように頷いたりしながら、審査用紙に記入していた。
各審査委員の付けた点の平均値を取り、「硬さ」を横軸、「粘り」を縦軸に4分類すると、しっかりもっちりが5銘柄(蛇紋岩こしひかり/朱鷺と暮らす郷/匝瑳の舞/ふくまる/銀河のしずく)、しっかりあっさり(つや姫/さがびより)と軟らかもっちり(ゆめぴりか/銀の朏)が2銘柄ずつ、軟らかかあっさりがゼロという結果に。「硬さ」も「粘り」も4~6の間に6銘柄が集中した。基準米を5として10段階で評価したので、基準米の魚沼産コシヒカリに近いものが多かったといえる。
それでは各銘柄ごとの主なコメントを紹介しよう。
○蛇紋岩こしひかり
「みずみずしい」(小崎氏)、「粒立ちが良く、適度なもっちり感」(はっしー氏)、「香りが良く、みずみずしい。あっさりしているので、どんなおかずにも合わせやすそう」(里井氏)、「口に入れた瞬間香りが広がった。色艶が良く、甘みを感じた」(川崎氏)
○JA新砂川ゆめぴりか
「ほどよいふっくら感があり、冷めてもおいしい。おにぎりに向いている」(小谷氏)、「軟らかめで、どっしり、もっちり、艶もある。おかずを選ばないバランスの良さ」(はっしー氏)、「軟らか、もっちり。サッカーのポジションでたとえるならゴールキーパー」(細川氏)
○銀河のしずく
「粒感があり、かみ応えがある。余韻が長いおいしさ」(里井氏)、「もっちりしているけれど口ほどけが良い」(はっしー氏)、「後を引かない粘り。口に入ってほろりと消える。寿司にも合いそう」(川崎氏)
○銀の朏
「粒が大きい。あっさりしているが甘みがちゃんと感じられる。適度なもっちり感もあり」(はっしー氏)、「口ほどけが良く、さっぱり。冷めてもおいしい」(小崎氏)、「全体の中で一番個性的に感じた。香ばしい香り」(渡辺)、「弾力があって粘りもあるが、どっしりとはしていない」(川崎氏)
○山形つや姫
「見た目は艶やか。味のバランスが良く、おかずを引き立てる。しっかりしたかみ応え」(小谷氏)、「そこそこの硬さがあり、あっさりしていた。おにぎりにして外に持って行きたくなる。車にたとえるならワゴン」(細川氏)
○朱鷺と暮らす郷
「こくのある甘み。口の中に残り続ける感じ」(はっしー氏)、「少し枯れたような香り。米粒が短く、見た目も味も山の米だなという印象」(渡辺)、「朱鷺と共生する、生産者の取り組みが素晴らしい」(小谷氏)
○さがびより
「粒は若干小さめ。あっさりしたお米。後からじわじわ来る甘さがある」(小崎氏)、「好きなタイプ。なかなかの硬さとあっさりさ。後から個性を感じる。競馬でたとえるなら、後から来る追い込み馬系」(細川氏)、「ほどよい粘りと甘い味わい。喉ごしがいい。香りは薄め」(川崎氏)
○匝瑳の舞
「もっちりしているが、粒の輪郭がはっきりしており粒感を楽しめるバランスの良いお米」(里井氏)、「ふっくら、しっかりしていて主張がある。懐かしい朝ご飯のイメージ」(小谷氏)、「表面は弾力があり、適度な硬さがあるが、中はとても軟らかい。2段階の食感のコントラストが楽しめた」(はっしー氏)
○特別栽培米ふくまる
「粒が大きく、口に入ったときのインパクトが一番強かった。味はさっぱりしており、水を感じるお米」(小崎氏)、「粒の大きさと長さ、このインパクトがおもしろい」(小谷氏)、「強く印象に残った。口に入れたときはしっかりしているが、かんでいくと最後に印象が変わる。競馬にたとえるなら、差し馬」(細川氏)、「特徴的な香りがした。艶とべたつきが少ない印象」(渡辺)、「なめらか。ぐいぐい食べられる」(川崎氏)
2段階の選考を経て1銘柄にしぼる
審査委員長の川崎氏が進行を務め、9銘柄から今年の大賞米を決める最終審査が始まった。全国の五ツ星お米マイスターのお墨付きとあって、「比較が非常に難しい」と川崎氏。どれが受賞してもおかしくない状況だ。まずは9銘柄から3銘柄に絞り、再び味覚審査をして受賞米を決めることになった。
複数の審査委員が高く評価した「銀河のしずく」と「銀の朏」は、満場一致で最終決戦へ。残り1席を票が割れた「ゆめぴりか」「さがびより」「朱鷺と暮らす郷」「ふくまる」の4銘柄で争った結果、「ゆめぴりか」が最終決戦へコマを進めた。
最終決戦は冷めた状態での味覚審査となるため、お弁当やおにぎりで食べてもおいしいかがチェックポイントとなった。食べ終えて、審議を再開すると「銀のしずく」と「銀の朏」が3票ずつ、「ゆめぴりか」が1票という結果に。硬さ、粘りに関する評価が一致しても、それをおいしいと思うかは好みの問題であり平行線が続いたが、さらに審議を重ね、最終的には「銀河のしずく」を大賞米に選出した。
審査委員それぞれの好みとコメントを紹介する。
象印マホービンが考えるおいしいお米の炊き方

今回の審査会でも感じたのだが、米は炊き方によって味覚がまったく違ってくる。家で食べるご飯を今よりおいしくしたいと思ったら、お米選びだけでなく、炊き方にもこだわりたい。昔ながらのかまどと羽釜で炊いたご飯のように、家庭でうまく炊きあげるにはどうしたらいいのか――。米のヒット甲子園の審査会で使用した象印マホービンの「南部鉄器 極め羽釜 NW-AS10」の商品企画担当である象印マホービン 第一事業部マネージャー・後藤譲氏に話を聞いた。
うまく炊くポイントは「『圧力』『強火』『均一加熱』の3つです」と後藤氏。適度な圧力をかけながら強火で沸騰を維持し、釜を均一に加熱して炊きあげるのが理想だ。高価格帯の炊飯器はこの3つのポイントを押さえているものが多い。低価格帯の炊飯器の炊きあがりに満足している人でも、一度、高価格帯の炊飯器で炊いたご飯と食べ比べたら、その違いを感じることができるだろう。土鍋などでもおいしく炊けるが、「火加減や時間の調節が必要なので、毎回同じ炊きあがりにならないかもしれません」(後藤氏)とも。
お米の保存方法や洗い方、計量の仕方も炊きあがりに大きく影響する。お米と炊飯器にこだわっても、これらの方法が間違っていたら台無しだ。
白米は精米したてがベストの状態。買ってきたお米は酸化が進まないように密閉容器に入れ、高温多湿を避けて保存しよう。「冷蔵庫の野菜室なら安心です」(後藤氏)。
精米後は日ごとに鮮度が落ちるので少量ずつ購入するのがお勧め。長くても1カ月で使い切れる分量にしたいですと後藤氏。「玄米で購入すれば長期間保存できるので、家庭用精米器やコイン精米所などを利用して、自分の手で精米するのもいいですね」と後藤氏。

洗米方法は昔と違うので要注意
洗米するときは、やさしく洗う。昔はぎゅっぎゅっと音がするほど米を強くこすり合わせて洗っていたが、今は精米技術が進化したため、力を入れて洗う必要はなく、逆に「米が割れてしまう」(後藤氏)という。
正しい洗米方法は、すすぎを2セット、洗いを2セット(4カップ以上は3セット、8カップ以上は4セット)、仕上げにすすぎをもう2セット行うというものだ。
すすぎは、たっぷり水を入れて2~3回大きくかき混ぜたら水を切る。最初の水はお米がたくさん吸水するので、「浄水やミネラルウォーターなど、なるべくいいお水を使うといいでしょう」と後藤氏は話す。ぬか臭さがお米に吸収されないように、素早く水を捨てることに注力したい。
洗いは水を切った状態で行う。力を入れる必要はないが、米同士をこすり合わせることでぬかを取っていく。手の指を立てて30回(約15秒)ほど鍋肌に沿ってかき混ぜてから、たっぷり水を注ぎ、大きく2、3回かき混ぜてから水を切る。
お米の軽量は正確に行う
炊飯時の水の量は、炊飯器によっかなり差があるので、内釜の目盛りに合わせて水を入れること。話は前後してしまうが、炊きあがりのばらつきをなくすには水加減が重要なので、お米の計量にも注意を払いたい。簡単に正しく計量するには、カップにお米を山盛りすくい、あふれた部分をすりきり棒でそっとすりきる。手で押し込んだり、少なめにすくってつぎ足したりするとお米の量が正確ではなくなってしまう。

今の炊飯器は、炊飯に浸水工程が含まれているので、「洗米が終わったらすぐに炊いて大丈夫です」(後藤氏)。時間を置いてから炊くと、炊飯器が考える最適な炊きあがりより、軟らかめに仕上がることが多いという。鍋で炊く場合は、夏場は30分、冬場は2時間くらい吸水させてから炊く。
炊き上がったら、一度炊飯器のふたを開けて、ご飯を十字に4等分する。それぞれの部分をひっくり返すなどして、手早く余分な水分を飛ばしてから保温しておこう。
保存と洗米、水加減に気をつけて、いつものご飯の味と比べてみてはいかがだろうか。
(文/辛知恵、写真/シバタススム、衣装協力[細川茂樹氏]/ダーバン)