際立つ個性を放つ製品・サービスが生まれる場として存在感を増している「クラウドファンディング」。クラウドファンディングは、ニッポンのものづくりをどう変えていくのか。また、支援者の支持を集めるプロジェクトの共通項とは何か。11月11日(金)12時~13時に「TREND EXPO TOKYO 2016」に登壇する注目プラットフォームの運営者が事前対談を行った。

(写真左)
サイバーエージェント・クラウドファンディング
代表取締役社長 中山亮太郎氏
慶応義塾大学卒業。2006年にサイバーエージェントに入社後、社長アシスタントやメディア事業の立ち上げを経て、2010年からはベトナムにベンチャーキャピタリストして赴任し、現地のネット系スタートアップへの投資を実行。2013年に日本に帰国後、サイバーエージェント・クラウドファンディングを設立し、代表取締役社長に就任。同年8月、クラウドファンディングサービス「Makuake(マクアケ)」をリリース

(写真右)
ソフトバンク
「+Style」事業責任者 近藤正充氏
1999年、ソフトバンクパブリッシング(現:SBクリエイティブ)入社。ヤフープレス、iモードスタイル等の媒体を担当し、2005年にiモードスタイルの編集長に就任。2006年よりソフトバンクモバイル(現:ソフトバンク)に異動し、戦略企画、宣伝・販促企画、サービス/コンテンツ企画、携帯電話/スマートフォン商品企画などを担当。2013年より約2年間シリコンバレー勤務。2015年に帰国し、現職

編集部: まず、お二人がクラウドファンディング事業を立ち上げたきっかけを教えてください。

中山亮太郎氏(以下、中山氏): 私は、2010年からサイバーエージェント子会社のベンチャーキャピタルでベトナムに赴任していたのですが、ふと気付くと、パソコンもケータイも家電も、日本メーカーの製品をなかなか使わなくなった自分がいました。私だけではなく、周りの人もほとんど使っていなかった。海外で生活するなかでの肌感覚として、「『ものづくりニッポン』と言われるけど、本当にそうなの?」と疑問を抱いたのが出発点でした。

 もちろん技術力自体や、ものづくりに従事する人の質、数も含めて日本がトップランクであることは疑いようがない。ただ、新しい価値を持った製品を生み出しづらい環境にあるのではないかと。もっと新しいモノを生み出せる土台を作れないかと考えていたなかで、海外でクラウドファンディングが立ち上がっているのは知っていたので、これを日本でやってみたいと思いました。そうして日本に帰ってきて、13年8月に立ち上げたのが、「Makuake(マクアケ)」です。

モノ系プロジェクトの他、飲食店や食品、イベント、映画をはじめとするコンテンツなど、さまざまなプロジェクトが立ち上がっている「Makuake」。今年は東芝やJVCケンウッド、博報堂などの大手企業がプロジェクトを成功させている
モノ系プロジェクトの他、飲食店や食品、イベント、映画をはじめとするコンテンツなど、さまざまなプロジェクトが立ち上がっている「Makuake」。今年は東芝やJVCケンウッド、博報堂などの大手企業がプロジェクトを成功させている
[画像のクリックで拡大表示]

近藤正充氏(以下、近藤氏): 私は2013年から約2年間、米国のシリコンバレーで業務しておりました。現地では、海外のクラウドファンディングサービスが多くあり、乱立している状態でした。赴任時は、自分自身で現地のクラウドファンディングを通してモノを買っていましたし、イノベーティブで便利なモノが多いことに生活者として感心していました。

 15年に日本に帰ってきたのですが、海外のクラウドファンディングサービスのような新しいモノが生まれるプラットフォーム、仕組み作りをしたいと考えて、今年満を持して「+Style」を立ち上げました。ものづくりがドライブするための仕組みとして必ずしもクラウドファンディングだけがゴールではないので、私たちはIoTに関連した新製品開発を支援するプラットフォームとして、製品の企画段階(プランニング)から出資(クラウドファンディング)、販売(ショッピング)までをカバーすることを特徴としています。

多彩なIoT製品が充実している「+Style」。スマートグラスの「SOLOS」や、自宅での本格的なパーソナルトレーニングを可能にする「Move It」など、海外発の製品もラインアップ
多彩なIoT製品が充実している「+Style」。スマートグラスの「SOLOS」や、自宅での本格的なパーソナルトレーニングを可能にする「Move It」など、海外発の製品もラインアップ
[画像のクリックで拡大表示]

大手メーカーにも危機感が…

編集部: ここ数年で一気にクラウドファンディングが盛り上がってきましたが、メーカー側にも消費者側にも、なぜ今これほど注目を集めているのでしょうか。

中山氏: 大きいのは、メーカー側に危機感が出てきたことだと思います。10~20年前だと流通側のパワーが圧倒的に強く、売れている製品を安く作ったメーカーが勝つ世界でした。しかし、今はコンシューマーのトレンドが変わっており、思い切った製品を出さないとヒットは生み出せない。メーカーは既存製品の機能をバージョンアップさせて、さらに良いモノを作るノウハウはあるのですが、既存概念に縛られない振り切った製品を、リスクを取って出していく、そういったものづくりにおける新しい経済サイクルが求められていることに対応しきれていなかったと思います。

 そこにハマったのがクラウドファンディングの仕組みで、デザインやプロトタイプの状態といった非常にリスクの低い段階でモノを世に出していけます。メーカーに求められている商品開発トレンドと、消費トレンドがうまくマッチしているタイミングが今なのだと思います。

近藤氏: メーカー側は、結構ものづくりで苦しんでいるところが多いですよね。もともと高度成長期に大量生産・大量消費を良しとして、安く大量に作ってそこから少ない利幅で儲ける商売を長年続けてきた。これは、スーパーなどで目の前にあるモノを買わざるを得ない状態という、ユーザーに情報が少なかったから成り立っていたと思います。今、これだけインターネットが発達して、しかもさまざまなチャネルでいろんなモノが売られている状態になると、さすがにそれは通用しなくなってきた。

 最近は海外のモノも簡単に手に入れられる時代です。そんなかで、メーカーは旧態依然とした「儲かるモノしか作りません」「ニーズがわかっているモノしか作りません」というスタンスでは右肩下がりになるばかりということに気付いてきた。そこにクラウドファンディングが出てきたということだと思います。

中山氏: その通りで、クラウドファンディング以前という切り分けがあるなら、以前は流通ステップ、商品開発ステップが20世紀のままだった。新しいモノが世の中に飛び出てくるステップが、すごく昭和的でしたね(笑)。

近藤氏: それでもまだ、意識が変わってきている企業はほんの一握りですよね。いろんな企業がこれから変化していくことで、ユーザー側ももっと盛り上がっていく機運があります。

中山氏: クラウドファンディングはスタートアップという文脈で注目されがちなのですが、これまで運営してきて実感しているのが、膨大に存在する中小メーカーや、世界に誇る大手メーカーまでもが関心を示し始めている。まだ序の口ですけど、これは大きな変化だと思います。

近藤氏: 私どもによく来るのが、大手企業の研究機関からの問い合わせです。例えば、研究開発チームは1年に10製品の開発をしていても、それをマーケティングや商品企画のセクションにプレゼンすると、1~2個しか採用されず、あとはお蔵入り。そうした状態が何年も続いていて、しかも会社の業績は良くなっていない。「実はお蔵入りした商品が出ていたら業績も上がったのでは」と、悶々としている開発者は結構いるのです。

 こうした相談をされたときに、私たちは「この技術なら、こんな企業と一緒に生かしたらどうですか」というようなアレンジをしていきます。自分たちで製品の事前マーケティングをする術がないということであれば、クラウドファンディングを使って消費者のニーズを確認したうえで会社側と交渉を進めればいい。こういう案件が多くなっていると感じています。

中山氏: 現在、大手企業によるプロジェクトがMakuakeでは続々と生まれていますが、大手企業から「大量生産が見込める製品でないと開発が出来ないため、製品を作れない」といった相談も実は多くもらっています。そんな時にCerevo社をはじめとした製造パートナーを紹介し、アレンジすることもあります。もちろん、大手企業に限らずです。

 プロジェクトをサイトで紹介するだけではなく、実際はクラウドファンディングの開始前から、もっと深いところで我々はものづくりの潤滑油として機能していて、大手企業だけでは生まれていなかったプロダクトが世に出るきっかけを作れていると思います。

近藤氏: 企業に眠っていた良い技術が世の中にしっかり伝えられて、しかも消費者にジャッジされたうえで製品化できる。こうしたクラウドファンディングの仕組みは、非常に効率の良いものづくりにつながっていますよね。

編集部: クラウドファンディングが従来のものづくりを変えつつあるのですね。その転換点となったプロジェクトはありますか。

中山氏: 2014年にソニーが文字盤とベルトの柄を変えられる「FES Watch」のプロジェクトをMakuakeで実行したインパクトは強烈でしたね。それまでクラウドファンディングを活用していたのは、個人やチャリティー、インディーズのアーティストなどで、メーカーサイドの認知度は非常に低かった。そんなかで、いきなりスタートアップを飛び越えて世界のソニーが活用したのです。

 実は、ソニーという社名は出さずにプロジェクトを始めたのですが、後に米国のメディアに報道されて世に注目される運びとなりました。「あのソニーがクラウドファンディングを使って商品開発をしている」と、業界がざわつきました。それまで海外ではスタートアップや中小メーカーがクラウドファンディングをいっぱい使っていますよと案内しても、日本では反応が薄かったのですが、ソニーが活用したことで急にクラウドファンディングは「あり」だという流れになったのです。

ソニーがMakuakeで行った「FES Watch」のプロジェクトページ
ソニーがMakuakeで行った「FES Watch」のプロジェクトページ
[画像のクリックで拡大表示]

近藤氏: 我々の+Styleは、まだ事業をスタートさせて半年あまりなので、これから大きな爪痕を残すプロジェクトを生み出していければと思います。現時点でも、ものづくりの大きな変化は感じていて、先ほどの研究開発の方からの話しが多くなっていることや、これまでIT分野にあまり近くなかった業種の大手メーカーがIoTなどに関心を示し始めていますね。

 また、すでに発表させていただいていますが、100年以上の歴史がある紙の専門商社「竹尾」と、紙に電子回路を印刷する技術を持つ「AgIC(エージック)」のコラボで生まれた、長方形の紙を巻くだけで光るライト「Paper Torch(ペーパー・トーチ)」です。このように歴史のある企業もクラウドファンディングに参加するようになっているのが大きな変化ですね。あっ、この商品はIoTではありませんけど(笑)。

「Paper Torch」のコンセプトページ。デザインは佐藤オオキ氏が率いるnendoが担当する
「Paper Torch」のコンセプトページ。デザインは佐藤オオキ氏が率いるnendoが担当する
[画像のクリックで拡大表示]

ガジェット好き=肉好き!?

編集部: クラウドファンディングで成功するプロジェクトの鍵を挙げていただけますか。

中山氏: 実は、ターゲットにコンセプトがわかりやすく伝わっていること、それに尽きるんです。人にふと語りたくなる特徴を持っているかが、大きなポイント。クラウドファンディングで扱うモノは、まだ世にないプロダクトなので、何となく見た目がかわいいという製品よりも、一言で友達に紹介できる強い「語りポイント」が1個あることのほうが重要で、これが成功プロジェクトの共通点だと思います。

「+Style」事業責任者の近藤正充氏
「+Style」事業責任者の近藤正充氏
[画像のクリックで拡大表示]

近藤氏: 同感です。単機能で、「これができます」としっかり主張できるモノのほうが明らかに反応は良いですね。IoTといっても、「これもあれもできます」という製品は説明しづらいし、結局何ができるのかわからない。それよりも、触ったら色が変わるルームライトとか、おやつが飛び出すドッグカメラといった、本当に一言で機能と良さが伝えられる製品が人気になりますね。

編集部: 成功の秘訣については、11月11日(金)12時からの講演で具体的な事例をもとに語っていただけるということで、よろしくお願いします。  話は変わりますが、現状クラウドファンディングを活用しているユーザーについては、どのような傾向が見られますか。

近藤氏: +Styleの利用者は、30代~40代が中心で、男性が若干多い。総じてガジェット好きが集まってくれている印象です。

中山氏: Makuakeは20代中心と思われがちですが、30代がボリュームゾーンなんです。感覚値としては、斬新なアイテムを買って他人と違いを見せたいコンシューマーが多くて、その内訳は新しいモノ好きのトレンドセッターと、フォロワーがいます。フォロワーは、他人と違いを見せたいけど少し安心感も得たいといった層で、プロジェクト公開後すぐに支援するのではなく、支援額が100万円を超えた辺りから動き出すイメージですね。

近藤氏: Makuakeはモノ系プロジェクトだけではなく、映画や飲食店などのプロジェクトもありますが、それぞれに反応する層がいるという感じですか。

中山氏: 意外にも横軸での体験が進んでいますね。飲食店ではローストビーフ食べ放題などのプロジェクトを実施してきたのですが、実は「ガジェット好きは肉が好き」という傾向が見えてきています(笑)。斬新なハードウエアを欲しがるだけではなく、アナログな製品や飲食店のプロジェクトにも積極的に関わっていく。新しい消費トレンドを持つ層が集まっているのかなと思います。

近藤氏: クラウドファンディングに対するユーザーの意識はどうでしょうか。例えば、「製品の配送が1カ月遅れます」というときに、海外ですと待ってくれるユーザーが多い印象ですが、日本のユーザーは厳しいイメージがあります。これは、クラウドファンディングにとっては変えていくべきところだと思っています。

サイバーエージェント・クラウドファンディングの中山亮太郎社長
サイバーエージェント・クラウドファンディングの中山亮太郎社長
[画像のクリックで拡大表示]

中山氏: 以前は、きちんと期日に製品が届くことがサービスの肝になると思っていたのですが、最近見ていると、プロジェクトの実行者が支援者に対してしっかりと遅れる理由を説明すると、製品のお届けが多少遅れても、むしろユーザー体験が上がることがあります。もちろん、期日に届くに超したことはないのですが、日本の厳しい「技適マーク」を取得するのにこういう事情で遅れているなどと裏表なく報告すると、逆に支援者コミュニティでの“世論”が応援モードになる。これは、芸能人のブログを毎日読んでいるとテレビを見るより親近感がわいてくる、相談されるとその人のこと応援したくなる心理と一緒で、日本ならではの現象だと思います。  ただ、もちろんあまりにも配送が遅れることのないよう、親会社であるサイバーエージェントと連携を取りながら審査はしっかりとしており、最近ではその知見も溜まってきています。

近藤氏: しっかりとユーザーを組織化できているということですね。正直、米国ではクラウドファンディングで支援しても1年遅れたり、結局モノが届かなかったりすることもある。海外の人は「しかたないね」で終わらせる雰囲気がありますが、日本で同じことをしたらアウトです。そのようなことがないように、我々の+Styleでも事前審査の段階で「実際に作れるのかどうか」をしっかり判断していますが、ここは確実に守っていきたいですね。

編集部: ものづくりのプラットフォームとして、最近特に力を入れている部分はありますか?

近藤氏: リテールにどうつなげるかが重要だと思っています。+Styleでのテスト販売やプロジェクトを行って、たった100個製品を売って終わりではダメで、実際のリテールで売るためにどう値付けをし、量産展開していくかをサポートしなければならない。そうすることが、ものづくりメーカーの利益になると思いますので、リテールを強化していきたいですね。

中山氏: Makuakeでは伊勢丹新宿本店や、東急プラザ銀座内のHANDS EXPOなど、リアルな場所でMakuake発の製品やサービスを展示・販売しています。やはり実際にモノに触れたり、体験することは重要だと思っていて、面白くて新しいモノが、ネットで見るだけではなく、実際に触れられるからこそ、顧客の「買いたい」とか「応援したい」という“熱量”が上がっていると思います。  また、流通側でも実際に顧客の反応が良かったMakuake製品の取り扱いを決定するなど、Makuakeと流通販路で連携を取り、製品の販売先が決まる事例も増えてきています。

近藤氏: 先日、東京ミッドタウンで行ったイベント「Tokyo Midtown DESIGN TOUCH 2016」に+Styleで扱う40弱の商品を展示したのですが、ひっきりなしに人が集まって、その関心の高さに驚きました。やはり、見て触れるという体験は重要ですよね。

編集部: 最後に、クラウドファンディングは今後、どう進化していきますか。

近藤氏: 利用が加速していくのは確実です。モノを作っている人だけではなくて、サービスやアプリケーション開発をしている業種からのプロジェクト申し込みも増えるでしょうし、中小企業や地方企業の参入も、もっと増えると思います。

中山氏: まず、お金の出し手であるユーザーへの浸透は進むと思います。面白いモノをいち早く手にし、そして作り手側との距離がちょっと近い。そんな消費体験は今の時代に合っています。

 一方で、使い手となる企業の方は、作る能力が豊かなメーカーが次々に使い始める。作る能力はないがアイデアはあるという層についても、量産サポートなどを行うエコシステムが整いつつありますので、今後のポテンシャルは間違いなく大きい。今後は、そういったいろいろな形でのメーカーが生まれ、新しいものづくり企業が爆発的に増えていくことでしょう。

編集部: これからもお二方のクラウドファンディングでは魅力的なプロダクトがいくつも出てくると思います。その辺りは11月11日[金]12時からのご講演のなかで、参加者の方だけに特別にお知らせいただければと思います。

近藤氏、中山氏: わかりました。どうぞよろしくお願いします。

(文/日経トレンディ編集部)

中山亮太郎氏、近藤正充氏が登壇する「クラウドファンディングが変えるニッポンのものづくり」に申し込む