大手メーカーにも危機感が…

編集部: ここ数年で一気にクラウドファンディングが盛り上がってきましたが、メーカー側にも消費者側にも、なぜ今これほど注目を集めているのでしょうか。

中山氏: 大きいのは、メーカー側に危機感が出てきたことだと思います。10~20年前だと流通側のパワーが圧倒的に強く、売れている製品を安く作ったメーカーが勝つ世界でした。しかし、今はコンシューマーのトレンドが変わっており、思い切った製品を出さないとヒットは生み出せない。メーカーは既存製品の機能をバージョンアップさせて、さらに良いモノを作るノウハウはあるのですが、既存概念に縛られない振り切った製品を、リスクを取って出していく、そういったものづくりにおける新しい経済サイクルが求められていることに対応しきれていなかったと思います。

 そこにハマったのがクラウドファンディングの仕組みで、デザインやプロトタイプの状態といった非常にリスクの低い段階でモノを世に出していけます。メーカーに求められている商品開発トレンドと、消費トレンドがうまくマッチしているタイミングが今なのだと思います。

近藤氏: メーカー側は、結構ものづくりで苦しんでいるところが多いですよね。もともと高度成長期に大量生産・大量消費を良しとして、安く大量に作ってそこから少ない利幅で儲ける商売を長年続けてきた。これは、スーパーなどで目の前にあるモノを買わざるを得ない状態という、ユーザーに情報が少なかったから成り立っていたと思います。今、これだけインターネットが発達して、しかもさまざまなチャネルでいろんなモノが売られている状態になると、さすがにそれは通用しなくなってきた。

 最近は海外のモノも簡単に手に入れられる時代です。そんなかで、メーカーは旧態依然とした「儲かるモノしか作りません」「ニーズがわかっているモノしか作りません」というスタンスでは右肩下がりになるばかりということに気付いてきた。そこにクラウドファンディングが出てきたということだと思います。

中山氏: その通りで、クラウドファンディング以前という切り分けがあるなら、以前は流通ステップ、商品開発ステップが20世紀のままだった。新しいモノが世の中に飛び出てくるステップが、すごく昭和的でしたね(笑)。

近藤氏: それでもまだ、意識が変わってきている企業はほんの一握りですよね。いろんな企業がこれから変化していくことで、ユーザー側ももっと盛り上がっていく機運があります。

中山氏: クラウドファンディングはスタートアップという文脈で注目されがちなのですが、これまで運営してきて実感しているのが、膨大に存在する中小メーカーや、世界に誇る大手メーカーまでもが関心を示し始めている。まだ序の口ですけど、これは大きな変化だと思います。

近藤氏: 私どもによく来るのが、大手企業の研究機関からの問い合わせです。例えば、研究開発チームは1年に10製品の開発をしていても、それをマーケティングや商品企画のセクションにプレゼンすると、1~2個しか採用されず、あとはお蔵入り。そうした状態が何年も続いていて、しかも会社の業績は良くなっていない。「実はお蔵入りした商品が出ていたら業績も上がったのでは」と、悶々としている開発者は結構いるのです。

 こうした相談をされたときに、私たちは「この技術なら、こんな企業と一緒に生かしたらどうですか」というようなアレンジをしていきます。自分たちで製品の事前マーケティングをする術がないということであれば、クラウドファンディングを使って消費者のニーズを確認したうえで会社側と交渉を進めればいい。こういう案件が多くなっていると感じています。

中山氏: 現在、大手企業によるプロジェクトがMakuakeでは続々と生まれていますが、大手企業から「大量生産が見込める製品でないと開発が出来ないため、製品を作れない」といった相談も実は多くもらっています。そんな時にCerevo社をはじめとした製造パートナーを紹介し、アレンジすることもあります。もちろん、大手企業に限らずです。

 プロジェクトをサイトで紹介するだけではなく、実際はクラウドファンディングの開始前から、もっと深いところで我々はものづくりの潤滑油として機能していて、大手企業だけでは生まれていなかったプロダクトが世に出るきっかけを作れていると思います。

近藤氏: 企業に眠っていた良い技術が世の中にしっかり伝えられて、しかも消費者にジャッジされたうえで製品化できる。こうしたクラウドファンディングの仕組みは、非常に効率の良いものづくりにつながっていますよね。

編集部: クラウドファンディングが従来のものづくりを変えつつあるのですね。その転換点となったプロジェクトはありますか。

中山氏: 2014年にソニーが文字盤とベルトの柄を変えられる「FES Watch」のプロジェクトをMakuakeで実行したインパクトは強烈でしたね。それまでクラウドファンディングを活用していたのは、個人やチャリティー、インディーズのアーティストなどで、メーカーサイドの認知度は非常に低かった。そんなかで、いきなりスタートアップを飛び越えて世界のソニーが活用したのです。

 実は、ソニーという社名は出さずにプロジェクトを始めたのですが、後に米国のメディアに報道されて世に注目される運びとなりました。「あのソニーがクラウドファンディングを使って商品開発をしている」と、業界がざわつきました。それまで海外ではスタートアップや中小メーカーがクラウドファンディングをいっぱい使っていますよと案内しても、日本では反応が薄かったのですが、ソニーが活用したことで急にクラウドファンディングは「あり」だという流れになったのです。

ソニーがMakuakeで行った「FES Watch」のプロジェクトページ
ソニーがMakuakeで行った「FES Watch」のプロジェクトページ
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近藤氏: 我々の+Styleは、まだ事業をスタートさせて半年あまりなので、これから大きな爪痕を残すプロジェクトを生み出していければと思います。現時点でも、ものづくりの大きな変化は感じていて、先ほどの研究開発の方からの話しが多くなっていることや、これまでIT分野にあまり近くなかった業種の大手メーカーがIoTなどに関心を示し始めていますね。

 また、すでに発表させていただいていますが、100年以上の歴史がある紙の専門商社「竹尾」と、紙に電子回路を印刷する技術を持つ「AgIC(エージック)」のコラボで生まれた、長方形の紙を巻くだけで光るライト「Paper Torch(ペーパー・トーチ)」です。このように歴史のある企業もクラウドファンディングに参加するようになっているのが大きな変化ですね。あっ、この商品はIoTではありませんけど(笑)。

「Paper Torch」のコンセプトページ。デザインは佐藤オオキ氏が率いるnendoが担当する
「Paper Torch」のコンセプトページ。デザインは佐藤オオキ氏が率いるnendoが担当する
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