人工知能(AI)とIoTを組み合わせた「AIoT」というビジョンを打ち出し、クラウドと連携した「人に寄り添う」家電を目指すシャープ。シャープが描くIoTの理想形とは、一体どのようなものなのだろうか。IoT通信事業本部 IoTクラウド事業推進センター所長の白石奈緒樹氏に話を聞いた。

白石奈緒樹(しらいし・なおき)氏<br>シャープ株式会社 IoT通信事業本部 IoTクラウド事業推進センター所長
白石奈緒樹(しらいし・なおき)氏
シャープ株式会社 IoT通信事業本部 IoTクラウド事業推進センター所長
携帯情報端末(PDA)「ザウルス」のOS設計や、シャープの初代アンドロイドスマートフォン開発など、数多くの携帯端末の企画開発に携わる。現在は、IoT事業部門の責任者として、クラウド対応家電の創出、クラウドサービスの拡大を推進する
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IoTに取り組むきっかけはクラウド

――かつてはザウルスなどの開発を手掛ていたそうですね。

白石氏: はい。ザウルスシリーズの後、同じチームを引き連れて、KDDI向けの携帯電話やスマートフォンなどの開発も手掛けていました。ザウルスチームは非常に強力なソフト開発力を持っており、現在のAIoTの取り組みでも活躍してもらっています。

HDDを内蔵した「Linuxザウルス」、SL-C3000(04年発売)
HDDを内蔵した「Linuxザウルス」、SL-C3000(04年発売)
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――PDAやスマホの開発から、どのような経緯でIoTに取り組むこととなったのでしょうか。

白石氏: スマホ以降はテレビや自動車など、さまざまな分野の技術に取り組んでいました。そうこうしているうちに、シャープの多くのカテゴリーで、クラウドーー当時は「サーバー」と言っていましたがーーに接続する製品が生まれるようになってきたのです。

 当初は、PCのソフト開発の延長線上でサーバー側のソフトも開発できたのですが、クラウドの進化と共に大きなパラダイムシフトが起きました。そのため、ソフト面で新しいクラウド環境に対応できなくなる部署が増えていたんです。この状況を解消するべく、各部署のクラウドを束ねて管理する組織を作ったのが、現在の部署の前身です。

――クラウドへの取り組みが、なぜIoTへとつながっていったのでしょう?

白石氏: 昨年にシャープがカンパニー制へ移行した際、私の所属する組織がテレビや白物家電、通信などと一緒のカンパニーに位置付けられたのです。そこでクラウドの時のように、他の分野でもソフトウェアの分野で困ったことがあれば助けることはできないかと、当時の社長である高橋興三氏に相談したところ、「できるなら助けてやってくれ」と言われたんですね。

 それを錦の御旗だと思い、さまざまな部署を訪れて話をしました。今、クラウドを使って商品開発をしている人たちに、共通の価値を提供すれば便利なのではと考えたのです。特に今後は、音声対話技術の重要性が増すと感じていました。そこで、組織を横断してメンバーを集め、集中的に開発する「緊急プロジェクト」を活用し、音声対話の基礎技術を開発。それをクラウドに載せることで、幅広い製品で使えるようにしました。

 この音声対話技術を活用したのが「ともだち家電」(現在の「ココロプロジェクト」)です。対話しながら利用でき、なおかつ機器同士が連携する家電製品の土台を作ったことが、IoTへの取り組みへとつながりました。

「AIoT」の機能を搭載したオーブンレンジと空気清浄機。「ウォーターオーブンAX-XP2WF」(写真左)は、使いたい食材を声で伝えるとレシピを提案してくれる。加湿空気清浄機「KI-WF100」は、花粉が多く飛んでいる日は声で知らせるなどの機能がある。対応製品のラインアップには他にエアコン、冷蔵庫、ロボット掃除機などもある
「AIoT」の機能を搭載したオーブンレンジと空気清浄機。「ウォーターオーブンAX-XP2WF」(写真左)は、使いたい食材を声で伝えるとレシピを提案してくれる。加湿空気清浄機「KI-WF100」は、花粉が多く飛んでいる日は声で知らせるなどの機能がある。対応製品のラインアップには他にエアコン、冷蔵庫、ロボット掃除機などもある
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消費者に商品としての価値を与えるAIoT

シャープの「AIoT」を象徴する製品として発売された「RoBoHoN」
シャープの「AIoT」を象徴する製品として発売された「RoBoHoN」
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――シャープではAIとIoTを組み合わせた「AIoT」というビジョンを打ち出しています。なぜIoTにAIを取り入れるという発想が生まれたのでしょう?

ザウルスと「ともだち家電」の接点~シャープ 白石奈緒樹氏(画像)
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白石氏: 多くのIT企業は、「IoTはクラウドにデータを集めて解析することで価値が生まれる」と説明しています。しかし私は、そうはいかないと思っています。モノをIoTにしようとすると特別な装置を入れなければいけませんし、そのためには追加コストがかかる。半面、ビッグデータがどうこうと説明しても、お客さんはそこに価値を感じていないので、追加コストを払ってまでIoT対応製品を選んではくれないのです。

 では、お客さんが購入した時に意味があるものを提供するにはどうしたらいいか。私が考えたのは、「クラウドのコンピューティングパワーを白物家電に反映させる」ということでした。例えば、最高の焼き加減に仕上げるノウハウをオーブントースターが学び、それをクラウドに蓄積していけば、枚数やパンの質から程よい焼き具合を多くの人に届けられる。そうしたメリットをコンセプトとして掲げるべく、AIoTの概念を打ち出しました。

――自宅の家電機器を全て同じメーカーのクラウドに対応させるのは、難しいのではないでしょうか。

白石氏: 家電機器は10年間は利用するのでそうした問題は出てくるでしょうし、シャープ製品だけがクラウドにつながるのでは、あまり意味がありません。そこでWi-Fi経由でクラウドに接続し、音声対話が利用できるモジュールを作り、他のメーカーなどにもAIoTを活用してもらうためのプラットフォームを提供することにしました。このモジュールは一番新しいヘルシオにも導入されており、声で話しかけて献立を相談するなどの機能を実現しています。

 10月3日に、話しかけて自宅の家電機器を制御する「ホームアシスタント」を発表しました。今後、家の中におけるIoTの中心的な役割を果たすものと位置付けています。詳細は、TREND EXPO TOKYO 2016でお話できればと思います。

シャープが発表した「ホームアシスタント」
シャープが発表した「ホームアシスタント」
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(文/佐野正弘、photo/近森千展)