シリコンバレーの逸材を確保し、開発を加速

――自動運転の開発を加速するため、米国に開発会社を設立しました。

岡島: 自動運転技術だけではなく、人工知能とその応用技術を研究する企業として今年1月、米国にToyota Research Institute(TRI)を設立しました。最高経営責任者(CEO)には、米国の国防高等研究計画局(DARPA、Defense Advanced Research Projects Agency)でロボティクス・チャレンジのプログラム・マネジャーを務めたギル・プラット博士が就任。私はチーフ・リエゾン・オフィサーとして、設立準備から関わってきました。

 自動車業界を取り巻く環境は、急速に変わってきています。自動車に直接関係していない企業や様々な分野の専門家が、「クルマの在り方」について興味を持ち、新しい製品やサービスを実現しようとしています。たとえばGoogleがクルマの自動運転について研究している、ということはよく知られています。想像で言えば、Appleがクルマに大きな影響を与える技術や製品を研究しているかもしれません。

 クルマのことは自動車メーカーに任せておけ、という世の中ではなくなっている、という認識があります。クルマ単体だけでなく、クルマに関わるビジネスモデルも同じ。これまでは「良いクルマを販売する」「所有してもらう」というのが主流でした。しかし今は違っています。クルマを共同で利用しようというカーシェアリングの考え方は広まっていますし、それ自体を事業化している企業も出てきています。Uberのように、手軽にタクシーを呼んだり、ライドシェアができる仕組みを作れば、いわゆる「自家用車」は必要ない、と考える人も増えてくるでしょう。

 こういった環境の変化に自動車メーカーがどう対応するのか。その選択肢として自動運転技術があるのです。

――なぜ、米国で開発強化するのでしょうか。

岡島: トヨタ社内だけで開発するより、ITやAIの先端研究が盛んな地域に出向き、大学や企業と協業して進めたほうが良い結果を得られると考えたからです。

 自動車メーカーとしての開発、生産力はもちろん世界トップの自信があります。しかし、AIの研究、その研究結果を自動車に応用する技術開発はどうか。私が説明用に作ったプレゼンテーションがあるので、それを見ていただくとよくわかります。AIやIT分野には、トヨタよりはるか先を走る巨大企業がいます。こういったライバルと競争し、自分たちが目指す分野で勝つには、その分野のトップクラスの人材が必要になります。その人材が得やすいのが米国、シリコンバレーやマサチューセッツだったということです。

岡島氏作成の資料「イノベーション実現に向けた、AI・ロボティクス研究の新しい取り組み」より。ITのトップ人材を集めて、開発を促進しようという、TRIの狙いがわかる
岡島氏作成の資料「イノベーション実現に向けた、AI・ロボティクス研究の新しい取り組み」より。ITのトップ人材を集めて、開発を促進しようという、TRIの狙いがわかる
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――具体的には、どのような活動を。

岡島: 2008年に自動運転の開発を始め、本格化するため2010年には米国に開発拠点も作りました。しかし、それだけでは足りなかった。同じころにIT企業もAIを使った自動運転の開発を始め、短期間で大きな成果を挙げるようになっていました。

 自動車メーカーのモノづくりは、「ピラミッド型」の産業です。メーカーが仕様を決めて、それに合わせた部品、その部品のための部品などを、多くの企業に製造してもらいます。このピラミッドのなかに「AI」という分野はありません。どこか、これまでとは違ったところから調達しなくてはならないのです。

 従来の積み上げ型開発、改善とは違った発想が必要。そこで、何でもピラミッドのなかで解決するのではなく、これまでつながりのなかった企業、大学などと協業しよう、「脱自前主義」「オープンイノベーション」を掲げたのです。

 その具現化が、TRI設立です。人工知能、ロボット開発に多大な貢献をしてきたプラット博士をトップに、その知識や経験、人脈をフルに生かして、AI活用を研究しようというものです。TRIでは、設立から5年間で約10億ドルの予算を用意し、4つの目標を目指してAIの研究に取り組んでいます。その1つが、「事故を起こさないクルマ」を作るという究極の目標です。