ゆるキャラのようなかわいい見た目で、メカ好きの男性だけでなく、子どもや女性からも人気を集めるコミュニケーションロボット「BOCCO」。その開発を手がけたのは、“ロボティクスで世の中をユカイにする”をテーマに斬新な製品をつくり続けるユカイ工学だ。TREND EXPO TOKYOに登壇する同社CEOの青木俊介氏に、BOCCOが生まれた背景やこれからのロボットの役割などについて聞いた。

青木俊介氏<br>ユカイ工学 CEO
青木俊介氏
ユカイ工学 CEO
2001年東京大学在学中に、チームラボを設立、CTOに就任。その後、ピクシブのCTOを務めたのち、ロボティクスベンチャー「ユカイ工学」を設立。ソーシャルロボット「ココナッチ」、脳波で動く猫耳「Necomimi」、フィジカルコンピューティングキット「konashi」などIoT(モノのインターネット)デバイスの製品化を数多く手がける。2015年7月より、家族をつなぐコミュニケーションロボット「BOCCO」を発売、2015年度グッドデザイン賞を受賞
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BOCCO
BOCCO
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「かわいいロボットを作ってみたい」

――ロボットに興味を持ったきっかけを教えてください。

青木俊介氏(以下、青木): ずばり、中学2年生のときに観た映画『ターミネーター2』の影響ですね。映画の中でエンジニアがパソコン上でAI(人工知能)を開発するシーンがあって、そのシーンがめちゃめちゃカッコよかったんです。実はロボット好きといっても、強いロボットや戦闘型ロボットには興味がありません。ドラえもんや漫画『Dr.スランプ』に出てくるアラレちゃんのようなかわいいロボットを作ってみたいと思っていました。

――それから、どんな流れでロボット業界へ?

青木: 東京大学工学部の計数工学科で、AIについて学びました。すぐにはロボットの道には進まず、大学4年のときに同級生とともにチームラボというソフトウエアの会社を始めました。でも、やっぱりロボットを開発したかったので、会社を辞め、事業を立ち上げたのは2006年のことです。2005年の愛知万博にトヨタが開発した“バイオリンを弾くロボット”が登場するなど、人型ロボットが注目され始めたころですね。

――最初に手がけた事業は?

青木: ユカイ工学の設立当初は、国の補助金でロボットを開発しました。企画を作り、国の機関へ提出し、開発の資金をもらうというスタイル――。仕事というより、サークル活動のようなノリでしたね。最初に作ったロボットは「目玉おやじロボット」。鳥取県境港市の水木しげる記念館に向けて開発したロボットで、館内にいる目に見えない妖怪を手のひらサイズの目玉おやじロボットを使ってゲットするというシステムです。

――今年ブームになった「ポケモンGO」を思わせますね。

青木: そうなんですよ。当時はニュースで取り上げられるなど、話題を集めました。「妖怪とITがコラボ!」のような報道をされましたね。

――その後は?

青木: 2011年にユカイ工学を株式会社化しました。クライアントからの依頼を受けることが多くなりました。2014年、プロジェクト・チームneurowearより発売された「Necomimi(ネコミミ)」のプロジェクトにも携わりました。Necomimiとは、耳型のコミュニケーションツールで、頭に装着することで脳波を読み取り、その人の気分を耳の動きで表現します。集中度が高まると耳がピンと立ち、リラックスするとゆっくりと耳が下ります。

ロボットで家族をつなげたい~ユカイ工学 青木俊介氏(画像)
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「BOCCOのおかけで、声のやり取りが可能になった」

――Necomimiは大ヒットとなりましたね。そして、2014年に発表したロボット「BOCCO」も大きな注目を集めています。

青木: BOCCOはスマートフォンと連動して、家族をつなぐコミュニケーションロボットです。どんなことができるかというと、例えば、仕事が忙しくて家に帰れないとき、家で留守番をする子どもの様子が気になるでしょう。そうしたときに外出先からスマホを使って、自宅に置いてあるBOCCOにメッセージを送ることができます。そのメッセージをBOCCOが読み上げます。

――ほかにはどんな機能が?

青木: 自宅の玄関ドアの開閉をセンサーが感知して、BOCCOを通じてアプリに通知。外出先でも、子どもが無事に家へ帰ってきたかどうかが分かります。ほかにも、さまざまなセンサーを開発中。子供のいる家庭に向けて、役に立つ機能をどんどん追加していきたいと思っています。

――BOCCOの前にも、家庭向けをうたうロボットは存在していました。でも、なかなか普及しませんでした。その原因をどう分析していますか。

青木: 従来のロボットは、家の中でどのように使われるかを、明確に提示していませんでした。だから、何に使っていいのか、よく分からなかったんです。そうしたロボットは、ただのおもちゃだと思われる。私も購入したことがありますが、自宅のリビングに置いておくと、妻から「遊んだ後は片付けてね」と言われてしまう。そこで、BOCCOは使うシーンをはっきりと示すことを心がけました。妻に受け入れられるには、明確な理由が必要です。

ロボットで家族をつなげたい~ユカイ工学 青木俊介氏(画像)
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――妻を納得させるには、デザインも重要ですね。

青木: その通りです。リビングに何を置くかの決定権は、たいてい女性が握っている。妻とか、娘さんとか。ずっと置いておくためには、女性に支持されるデザインでなければなりません。サイズも重要です。大き過ぎると存在感が強く、邪魔に感じてしまいます。ソフトバンクのPepperは飲食店などの接客用にはいいが、一般家庭には大き過ぎるでしょう。プロトタイプをたくさん作り、現在のBOCCOの姿になりました。

――開発だけでなく、デザインもユカイ工学が担当?

青木: わが社のデザイナーが担当しました。デザインのコンセプトは“座敷わらし”です。座敷わらしは、家庭に幸せをもたらし、その家を繁栄させてくれます。ネーミングのBOCCOは、東北弁で子どもを意味する“ぼっこ”から取りました。温かみとちょっとレトロな趣があって、気に入っています。

――一般家庭に普及させるには、価格設定も重要ですよね。

青木: 家庭向きであれば、3万円程度が上限と考えていました。BOCCOは3万1320円なので、イメージ通りの価格を実現できましたね。ここ数年、スマホが普及し、部品の価格が急激に下落したことが追い風になりました。例えば、2013年に1万円だった基板が今は数百円。今後、ロボットの開発がますます加速していくでしょうね。

――BOCCOの開発に費やした時間は?

青木: アイデアを練り上げるのに半年ほど時間をかけましたが、制作期間はわずか2カ月程度。アイデアを形にし、プロトタイプを完成させるのはユカイ工学の得意分野です。社内に電気系に強い人、塗装が得意な人など、専門的な強みを持つスタッフがそろっています。

――購入者からは、どんな声が届いていますか。

青木: 「仕事から帰ると自分の子どもはすでに寝ていて、おやすみのあいさつができなかった。でも、BOCCOのおかけで、声のやり取りが可能になった」というような反響を、小さなお子さんを持つお客様からいただいています。僕の息子も小学2年生ですが、「やりなさい」なんて一言も言っていないのに、BOCCOを主人公にした絵本を作った。BOCCOが世界を冒険するストーリー。BOCCOへの愛情を感じ、幸せな気分になりました。

――今後、BOCCOは進化していく?

青木: SIM版のBOCCOを開発しています。開発の理由は「BOCCOを実家の母親に送りたいけど、Wi-Fiがない。新たにWi-Fi環境を整えると、月々4000~5000円の支払いになり、かえって金銭的負担をかけてしまう」という声が多かったためです。SIM版であれば、電源を入れるだけでネットワークに簡単につなげられる。地方在住の高齢者も利用しやすいのではないでしょうか。

――BOCCOをはじめ、家庭用ロボットはどんな役割を担っていくのでしょうか。

青木: 音声のやり取りをメインにしたコミュニケーションロボットとして普及していくでしょう。僕には、「家の中にはこれ以上画面を増やさないほうがいい」という持論があります。最近は、せっかく家族が一緒にそろっているのに、それぞれがスマホのスクリーンを見るなど、バラバラの状況になっています。そうした悪しき状況を改善するために、インターフェイスに画面ではなく音声を活用したい。

 ロボットが発する声は、スマホの画面と異なり、家族全員で共有できますからね。キャラクター性を持ったロボットであることも重要です。四角い箱状の物体に話しかけるより、ロボットのほうが楽しい気分になれます。

――ロボットが家族の一員になるのですね。

青木: そうです。ただし、見た目を人間に似せる必要はありません。人間に近づけると、かえって不気味に感じてしまう。ドラえもんのように、長年愛され続けるキャラクター性。これが今後のロボット開発の大きなポイントになります。

(文/川岸徹、写真/シバタススム)

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