人工知能(AI)関連の技術の中で、今、もっとも注目されているのが「ディープラーニング」だ。ディープラーニングとは、脳の神経回路にヒントを得た「ニューラルネットワーク」をベースにした機械学習の手法。AIが膨大な画像、音声、テキストなどのデータを分析・学習することで、場面に合わせた対応策を導き出すことが可能になる。その能力は、ある領域においては人間と同等、あるいは「すでに人間を超えた」とも言われている。
ディープラーニングを活用したシステムを作るうえで欠かせないのがGPU(グラフィックス・プロセッシング・ユニット)と開発環境。その二つの有力ベンダーであるNVIDIAを訪問し、TREND EXPO TOKYO 2016に登壇する井崎武士氏に、人工知能の現状と人々の生活にどんな恩恵をもたらすのか聞いた。
「ゲーム以外にもGPUの活躍領域は広がっている」
――エヌビディア(NVIDIA)とは、どんな会社なのでしょうか。
井崎武士氏(以下、井崎): エヌビディアはコンピューターのグラフィックス処理や演算処理の高速化を目的としたプロセッサー「GPU」の開発・販売を手がけています。当初はゲーム分野での活用が中心でしたが、近年はビジネスの現場への導入も盛んです。例えば、医療現場のCTスキャンでは、取得した大量のデータを映像化する際に当社の技術が使われています。
――CPUとGPUの役割の違いは?
井崎: GPUはCPUのアクセラレータとして動作します。かつてはグラフィックス表示する映像をCPUの計算によって作り上げていましたが、現在は専用の半導体であるGPUに処理を任せることで負担を減らしています。というのも、GPUはCPUよりも画像処理が速く行える設計になっており、美しい映像表現を短時間で表示できますし、その性能もかなりのスピードで向上しています。
――エヌビディアではGPUをどのように活用しているのでしょうか。
井崎: GPUが画像処理するだけでなく、計算処理に活用することを目指し、2006年から「CUDA(クーダ)」を提供しています。CUDAは大量のコアを持つGPUで並列コンピューティングを実現する開発環境です。当初は画像処理の分野で力を発揮していましたが、近年は医療、防衛、金融など、さまざまな分野で導入が進んでいます。
――具体的にどのくらいのスピードで普及しているのでしょう。
井崎: 2008年に15万件だったCUDAのマニュアルのダウンロード件数が、2016年には350万件に伸びました。ユーザーが増えるとともに、CUDAの授業を行う大学も増加しています。2008年は60校でしたが、2016年には950校になっています。最近では「CUDAを使えると就職に有利」という状況が生まれているとも聞いています。