「伝える部分と感じていただく部分のバランスが重要」

――仕入れる和菓子はどのようにして見つけるのでしょう。

畑: ほとんどの場合、気になるお店に普通の客として食べに行き、通ってみる。ひと月ごとに作るお菓子が変わる店のお菓子は、1年間毎月通わないと全部知ることができません。一つひとつの上生菓子を全部食べて覚えているので、いざ取引になったとき「あの月に出していた流しもの(※1)を前倒しにしましょう」とか、「あの月の餅もの(※2)を一つ入れましょう」といった提案ができます。

※1 流しもの:流し固めた和菓子。水ようかんなど
※2 餅もの:餅菓子。大福など


ほどよく伝え、感じてもらう~高島屋 畑 主税氏(画像)
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――ワカタク(「和菓子老舗 若き匠たちの挑戦」)はどのようにして始まったのですか?

畑: イベントを企画してスタートしたのではなく、まったくの自然発生です。2014年、ある和菓子イベントを横浜店で開催したときに、食事会を開きました。老舗の若い店主が集まったので、一人ひとり跡を継ぐことになった理由を話してもらったところ、人の数だけ深いドラマがあって。みんなが意気投合して「このメンバーで何かやれたらいいよね」と盛り上がったんですね。それで次の日さっそく会社のイベント担当部署に電話して「9月にスペース取れる?」と予約を入れて、イベントやりましょうと。

――素早い展開ですね。

畑: 僕、食事の席での軽い約束が嫌いなんです(笑)。言ったら必ずやる。今では色々なところで「畑は話したことを真に受けて全部実行するから、うっかりしたことは喋らないように」と言われているようです(笑)。

――ワカタクの方々は今の時代の和菓子に危機感を感じていたのでしょうか。

畑: 危機感というよりは、今あるものをそのまま受け流すのは嫌だ、作りたい、売りたい、発信したいという気持ちだったと思います。

――蜂蜜や紅茶、ブルーベリーといった「お題」の食材を取り入れた新商品をお披露目するなど、ワカタクは新しい試みが満載ですね。

畑: 実演と販売とイートインの3要素が合体しています。出展者が共有のスペースで和菓子を作り、みんなで売るというイベントです。

――本来、製法には各店舗の企業秘密もあるかと思います。それを共有スペースで作るということは、相当異色な試みですよね。

畑: そうですね(笑)。この6月に開催したワカタクではメンバーから「かき氷をやりたいんです」と言われて、「機械はどうするんですか?」「持ってきます」ということで、急きょかき氷のイートインコーナーも造りました。

――すっかり高島屋の名物企画ですね。

畑: 和菓子の注目度がこのごろ目に見えて上がってきたのかな。でも、これは後からついてきたことです。ワカタクは若いご主人たちが自分の言葉で伝え、お客様がダイレクトに受け止める。ここにお客様が楽しさを見出してくれればいいというイベントです。

――作り手が自分で語る、伝えるということに消費者の購買欲をかきたてるカギがありそうです。

畑: 本来和菓子店は、説明する必要がなかったと思うんですね。例えば「金つばとどら焼きでは餡を変えている」とか、「季節により餡の炊き分けもしている」といった細かな苦労は「あえて言わなくてもお客様が分かってくれている」と、お客様側に託してきました。でも、今はネットやハウツー本でさまざまな商品の説明的な描写が細かく為されているので、和菓子だけ「自分で感じてください」というのは通用しません。そこでワカタクのような「伝える」イベントが好意的に受け止められているのだと思います。ただ、そうはいっても、喋り過ぎると和菓子の奥ゆかしい部分を消してしまうことになる。ネット社会の今だからこそ、伝える部分と感じていただく部分のバランスは、気を付けていきたいですね。

(構成/宮坂敦子、写真/シバタススム)

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