「最後の一手がスピーディに出せるようになりました」

――“フリーランス”のバイヤーとは、非常に特殊なお仕事ですね。

山田: そうですね。今は情報こそが力です。僕が実際に動いてみて肌感覚でつかんだ小売りの状況は、クライアントさんにいい形でフィードバックしています。これだけ毎日情報がリリースされていますが、実際のところ会社の中にいるだけでは、今、起きていることはあまりつかめません。とはいえクライアントさんも精度の高い情報のインプットを欲しています。だから僕のような、現場を走り回っている雇われのバイヤーがやっていけるのかもしれません。

今は総合性と多様性が大事~メソッド 山田遊氏(画像)
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――たくさんのものの中から、将来ヒットする商品を見分ける「コツ」はありますか?

山田: どうなんですかね……。僕は長くショップのバイヤーをやってきて、失敗することもすごく多かったんです。輸入した商品がまったく売れなくて、自分で店頭に立って気合で売ったこともありますし(笑)。そういう経験をしながら、精度をみがいてきたんです。お店を経営している友人がよく「在庫は勲章だ」と言うんですけど、本当にそうだと思います。敗北の積み重ねが在庫になり、その在庫があるからこそ売れるモノが見えてくる。

――ヒットを生み出す精度が上がってくると。

山田: そうです。例えば「全部売れる商品だけで店を作ってくれ」と依頼を受けたとして、世の中で売れている商品だけを集めてお店をオープンしても、どうしても売れるモノと売れないモノが出てきます。当たり前なんですよ。お店のロケーションとかお客さんの層、そのお店の主要価格帯でも全然変わってきますし、棚のどこにあるか、スタッフの接客でも全然違ってきます。

 じゃあ売れない商品をどう使うか。どうしても売れない商品が出てきてしまうなら、お店の存在価値を高められる商品をその枠に置く、とか。売ることよりも売れないことに注力すると見えてくるものもあるんです。

――人はどういうときに購買意欲を起こすと思いますか?

山田: 今は例えばひとつの商業施設を見たとき、あちこちのお店で同じ商品が売られているということが多々ありますよね。そんな中でお客さんが、どこでその商品を買うのかというと、「自分が買いたいお店」で買っている。つまり、「もの」じゃなくて、売り方まで含めた「こと」で人は購買意欲を起こしていると思います。他所にはない商品をもってくるというのも非常に大事だけれども、同じような商品でも、見せ方とか売り方、置き方、説明の仕方とかトータルで、それを取り巻く環境でいくらでも違って見せられる可能性があるのではないでしょうか。

――今は「モノが売れない時代」と言われます。そんな中で打開策は?

山田: 総合性とか、多様性が大事になってきていると思います。モノが売れていた時代は、セグメントして、購買層のターゲットを絞って……というのが一般的なマーケティングでした。ヒルズ族ならこんな車に乗って、こんなものを食べて、こんなソファを使ってというふうに……。

 でも今は価値観がちょっとミックスされた人が多い。昔ならマックが好きな人はファストフードだけ、高級レストランが好きな人は高級店だけといったセグメントでしたが、人間、マックフライドポテトが食べたいときもあれば、高級イタリアンを食べたいときもあるよね、と。その気持ちにどんどん素直に行動するようになっているのかなと思います。そこを見越した店づくりをすれば、マックに行く人も高級店に行く人も総取りできるのかなと。

――しかし、セグメントできない分、より一層、品ぞろえが難しくなるのでは?

山田: それはやはり難しいですけど、僕の場合は経験のうえで感じているというものが大きいかもしれませんね。例えば「SOUVENIR FROM TOKYO」というセレクトショップは、Tokyoといいながら地方の商品も置いています。東京生まれの僕がいいと言っているんだからいいと割り切って、世界中のTokyo的なものを集めました。この感じは非常に感覚的に見えるかもしれませんが、でも、遡って考えるとロジックがあるんです。

――将棋のプロがそうだといいますね。経験もロジックもたくさん持っているんだけれども、最後の一手をどう打つかというのはひらめきのカンみたいなものだと。

山田: 近いと思います。『三月のライオン』(注・羽海野チカ原作の将棋漫画)を僕、愛読してますから(笑)。昔はすごく時間をかけて考えないと最後の一手は出せなかったけれど、修行を繰り返すことで、これまでの経験や知識を掛け合わせたり、展開させたりといった最後の一手がスピーディに出せるようになりました。

――今後、やってみたいことは?

山田: これからのお客さんは、人とのつながりの実感を今以上に求めてくると思います。モノを作って売ってお客さんとの会話をしっかり結ぶといった、一対一の積み重ねをもっと追求していきたいですね。大企業とパイの取り合いをしても僕らはリアルじゃ勝てません。でも、モノがお客さんに手渡されていく過程を大事にしていくことで、「なんだか面白そうだね」とか、「わざわざ遠くから買いにきたよ」とか、大企業の売り方に負けない仕組みがもっともっと作り出せると思います。

(構成/宮坂敦子、写真/シバタススム)

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