売って終わりではブランドは築けない

 製品が持つ本質価値の訴求に加え、ソニーマーケティングが重視しているのが、前述のソニーストアなどを核とした「カスタマーマーケティング」だ。

 河野社長は、「これまでは売ってしまったら終わりという意識がどこかにあった。だが、お客様の目線で活動を考えた場合、購入時だけが重要ではない。購入前には、商品に関する様々な情報を得たり、製品に触れたりできる場を求めている。また、購入後にも、買ってよかった、使ってよかったと思っていただけなくては、顧客価値が最大化できない。購入前、購入時、購入後のすべてにわたって、満足度を高めるための活動が必要になる」とする。これが、ソニーマーケティングが取り組む「カスタマーマーケティング」の基本的な言える 考え方だ。

 具体的には、会員サービス「MySony」を通じて新製品情報を提供したり、ソニーストアで発売前製品の先行展示をしたりしている。MySonyの登録ユーザーに対しては、メールや電話を通じて3カ月以内に3回コンタクトを取り、「こうした機能があるのを知っていますか」「いま、こんな楽しみ方が人気です」といった情報を提供して、購入した製品の使いこなしや製品の楽しさの発見につなげている。ソニーストアでは、随時セミナーを開催。αなら、「子どもをかわいく撮影する方法」「桜をきれいに撮る方法」といったテーマで、スマートフォンでは実現できない、デジタル一眼ならではの撮影方法を伝授している。

ソニーストアで開催されたデジタル一眼カメラ「α」の体験会
ソニーストアで開催されたデジタル一眼カメラ「α」の体験会
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 これらはいずれも購入後の満足度を高めてもらうための施策だ。「新規のお客様も大切だが、既存のお客様を大切にする姿勢がなかったら、新規のお客様が増えても、購入後の満足度が上がらず、また離れていく。パイは決して広がらない」(河野社長)。既存顧客の満足度を高めることで、ソニーファンを増やし、追加購入や買い替え時にもソニー製品を選んでもらうというサイクルを作ることが、ソニーの存在感を高めることにつながると考えている。

 実際、ソニーストアで「α」のセミナーを受講した人が、交換レンズやアクセサリーを追加購入したり、サブカメラとしてコンパクトデジカメの「RX」シリーズを購入するといった例は多い。また、ソニーストアを出店すると、そのエリアにおけるソニー製品のシェアが伸びるという結果も出ている。地域にある他店のソニー製品の売り上げも伸びるということだ。地域の販売店との共同販促キャンペーンを実施したり、ソニー製品に触れる場が増えることで、エリアにおける認知度が高まったり、満足度が向上するといったことにつながっているからだ。河野社長が「ソニーが構造改革を進めるなかでも、ソニーストアの閉店だけは行わなかった」というのも、ソニーストアが、カスタマーマーケティングの実現には不可欠な拠点であると認識しているからだ。

 ソニーならではの製品の価値を訴求するために、ソニーマーケティングが取り組む顧客体験価値の最大化。それがソニーファンの拡大に寄与しはじめ、ソニー復活の足がかりとなっているようだ。

最新製品もいち早く体験できる
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(文/大河原克行)