既存の事業部ではアイデアが拾えない

 SAPの生みの親であり、現在は新規事業創出部の担当部長としてSAPを統括する小田島伸至氏によれば、SAPの立ち上げにあたっては「ソニーの中には既存の事業部では拾えないアイデアがたくさん転がっているのに、それを眠らせたままにしておいていいのか」という問題意識があったという。強い意欲やアイデアを持つ社員がいても、既存の事業部の枠に収まらなければ表には出てきにくい。社員としても、誰に相談すればいいのか、そもそも実現可能かも分からない。

 受け皿となる組織が必要ではないか――この考えを平井社長や十時裕樹業務執行役員 SVP(当時、現ソニーモバイルコミュニケーションズ社長兼CEO)に伝えたところ、「やってみろと言われた」という。当初の担当は小田島氏1人。だが、社内で募集を始めてみると次々にアイデアが寄せられ、その数は2年間で550件に至った。

SAPを統括する新規事業創出部担当部長の小田島伸至氏
SAPを統括する新規事業創出部担当部長の小田島伸至氏
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 SAPの特徴の一つが、社内スタートアップの形を取っていることだ。製品化されるまでの過程は、まず3カ月に1回のオーディションでアイデアを募集する。そこから何段階かのスクリーニングを経て、最終的に残ったアイデアに事業検証として3カ月分の期間と資金、組織を与える。3カ月後に成果物と今後の展望などをプレゼンさせ、それが期待できるものであれば次のステップに進める。あとはこのサイクルを続け、徐々に検証期間は長く、資金も大きくして、アイデアを具体化していく。アイデアの形が定まったら、クラウドファンディングで一般消費者から支援を募る。目標金額に達したものが、実際に製品化される流れだ。製品化されても、課された収益を上げられなければ、そこで事業はストップとなることもある。

 個別の事業の規模は、従来よりもはるかに小さい。SAP発の製品の一つ「wena wrist」の開発にかかわるコアメンバーは10人。製造や販売、マーケティングにかかる組織や費用を抑えることで、小さなリスクで新規事業を生み出すためだ。wena wristの開発者である新規事業創出部wena事業室の對馬哲平氏は、「従来の製品が1000人がかりで1000億円を稼ぐプロジェクトだとしたら、SAPの製品は10人がかりで10億を稼ぐプロジェクト」と話す。

ソニー本社内にある「クリエイティブラウンジ」。3Dプリンターやレーザーカッター、基盤加工機などがあり、アイデアを試してみたい社員が自由に利用できる
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