書類を作る際には、その役目を明確にしておかなければならない(図1)。これまでに筆者が開催したプレゼンのセミナーの経験では、ほとんどの人がプレゼンのスライドと企画書を混同しているのが実情だった。
よく「PowerPointで作ればスライド」「Wordで作ると企画書」と言う人が多いのだが、これも間違っている。確かにWordでは企画書を作ることができるし、PowerPointではスライドを作る。だが、PowerPointでも企画書を作れてしまうのが混乱の一因だ。
そもそも、企画書とは「企画を伝えるための書類」だ。一般的には、伝えるべき内容がすべてテキストで記載されている。つまり、読むだけで企画の内容が理解できなければならない。書類そのものが重要な意味を持っているのだ。
ところが、プレゼンで使うスライドは、口頭での説明を補助するためにある。だから、スライドを見ただけで企画の内容すべてが理解できなくてもよい。プレゼンの主役は、あくまでも口頭での説明だ。
企画書は「小説」 スライドは「紙芝居」
これは、小説と紙芝居に置き換えるとわかりやすい。小説(企画書)には挿絵が入っていることもあるが、基本的には文章を読んで内容をすべて理解できる。対して紙芝居(スライド)は、絵だけを見ても理解できない。語り手の言葉が加わってこそ価値がある。
スライドはつまり紙芝居だ。最悪なのが、プレゼンで話すべき内容をすべてテキスト化してスライドに貼り付けること。現場でよく見かけるのだが、こんなスライド作りはやめるべきだ。
また、プレゼンの現場に同席していなかった人に、スライドを渡すのは間違っている。読んだだけではわからない資料を渡すのはただの手抜きだ。読めばすべてがわかる企画書を別途用意して渡すべきだ。
スライドと企画書をうまく兼用したいなら、スライドのノート部分(発表者用のメモ欄)に話す内容をテキストで入力しておくのがベターだろう。
プレゼンの成否を決めるキラーインフォメーション
「キラーインフォメーション」とは、プレゼンの中で最も価値のある情報だ(図2)。

新製品の紹介を例に考えてみよう。例えば新しいスマートフォンの特徴について伝えたいとする。特徴は数え切れないほどあるはずなので、メモなどにどんどん書き出していこう(図3)。カタログや仕様書などを見て、言いたいことをすべて抜き出して準備する。
メモに並んだのは、あなたやあなたの会社が言いたいことだ。この中から、相手が最も聞きたいこと、一番うれしいことをあぶり出す。これがキラーインフォメーションだ。
つまり、プレゼンで一番大事なのは、自分が言いたいことではなく、相手が聞きたいことで、この情報が、相手の心を揺り動かす。
もしかすると、図4のようにあなたが言いたいことと相手が聞きたいことが乖離(かいり)しているかもしれない。その場合には、相手が聞きたいことがキラーインフォメーションになる。
そもそも、相手が聞きたいことを言わずに自分が言いたいことだけを伝えようとするから、「聞く耳を持ってもらえない」という事態に陥るのだ。
たくさん伝えようとすると相手に伝わりにくくなる
もちろん、あなたが言いたいことを伝えてもかまわない。まず、キラーインフォメーションを一番に伝えるようにして、そこに加えて伝えていけばよいのだ。特徴が10個あるならすべてを羅列してもいいだろう。
あとは、取捨選択の問題だ。たくさん伝えようとすればするほど、実は伝わりにくくなることに気を付けてほしい。相手の頭の中が“いっぱいいっぱい”になってしまう。
キラーインフォメーションだけは、確実に伝えるように留意する。それはもしかすると、価格など、あなたにとって都合が良くない情報かもしれない。しかし相手が知りたいことは必ず質問される。ならば最初から伝えたほうがよい。プレゼンで結果が出ない人は、キラーインフォメーションを正しくあぶり出せているか、もう一度確認してほしい。
相手が最も聞きたいことを見つけるためには、ターゲットを理解している必要がある。相手の立場に立って考える。必要なら、ヒアリングをして相手が聞きたがっていることを探り出すのだ。
必要な情報とプレゼンの素材を集める
スライドを作り始める前に、情報と素材について簡単に取りまとめておきたい(図5)。情報とは、製品やサービスの価格や仕様、市場の概況などだ。例えばスライドの前段に「○○市場は前年比で105%と伸びています……」といった情報を入れることはとても多い。こういった情報はグラフになるのが普通だ。また素材とは、写真や動画、図解などだ。
まず、手元にあって使える情報や素材をピックアップしておく。さらに、手元にはないけれど使いたい情報や素材は、手に入るのか、または撮影するなどして新規で作成するのかを調べておく。手に入れたグラフなどの見栄えが悪ければ作り替えも念頭に入れよう(図6)。素材があるかどうかだけではなく、そのクオリティーについても検討を加えるわけだ。例えば写真があっても、見栄えが悪いなら、撮り直しが必要になるケースも出てくる。
スライドの作成前に情報・素材集めを完了しておく
スライドを作り始める前に、使うものをおおむね準備しておくのがポイントだ。スライドを作り始めてから「ここに製品の写真を入れたい」と思い立って探しているようでは、余分な時間がかかる。しかも、作業の途中でさんざん探して見つからないと、予定していたスライドが成り立たなくなり、プレゼン全体の構成を作り替える必要も出てくるだろう。
最初に全部準備してから作業するのがスライド作りの基本。この情報と素材探しには、かなりの時間がかかるので、どのくらいの日数を割り当てるかもポイントになる。
例えば、スライド作成の時間が7日間あるとしよう。実際にスライドを作り、予行演習に2日かかるなら、残り5日間をかけて情報と素材を探し出すことになる。効果的なプレゼンを実施するためには、相手を説得できる情報やインパクトのある素材をそろえておくことが重要だ。
スライド作りは構成から始まる
スライドの「構成」とは、順番と考えてよいだろう。文章で説明していく企画書なら書く順番を考えるのが構成だ。そもそもが、紙芝居方式のスライドでは、文章でまとめる企画書よりも構成の組み立てがしやすい。例えば全10枚のスライドを作るなら、どの内容のスライドを何番目に持ってくるかを考えるのが構成だ。
相手にとって最も価値のある「キラーインフォメーション」を用意したとしよう。仮にそれが「価格の安さ」だとする。このキラーインフォメーションは、何枚目のスライドに持ってくるのが最適だろう?──こう考えていくのが構成作りの作業だ。
図7をご覧いただきたい。キラーインフォメーション(重要なポイント)の位置は、最初、最後、真ん中と3つのパターンが考えられる。採用するべきは、最初か最後なのだ。それぞれに効果が異なるので、選び方は重要だ。
相手がその内容に関心がなければ、初頭効果を狙って、最初にキラーインフォメーションを持ってくる。逆に関心があるなら、相手の判断は、最後の情報に影響されやすいという近接効果を狙って、最後に持ってくる。聞き手の理解度や関心度によって、構成が変わることを肝に銘じておきたい。
全体像を示す「アジェンダ」 どの部分の説明かも明確に
スライドが多くなるなら、冒頭にアジェンダを用意して、「これから説明する内容」を伝えておく(図8)。

アジェンダはプレゼンの「目次」のようなものだ。項目をあらかじめ明らかにすることでプレゼンの全体像を把握してもらいやすくなる。このアジェンダはプリントを渡した後でも、必要なページを探すのに便利に使えるはずだ。また、各スライドにはプレゼン全体のどの部分の説明なのかがわかる図を付けておくのも有効だ(図9)。
