プレゼンは、そこで使うスライドの作成前から始まっていると考えたい(図1)。スライドがきちんとできていないようでは、現場でうまくプレゼンできるはずがない。
“これまでのプレゼン”は、PowerPointでスライドを作成し、プロジェクターに投映して説明していく作業を指すことがほとんどだった(図2)。ところが最近は、様相が変わってきた。プレゼンとは、そもそも情報を人に伝えるための作業だ。そこでPowerPointを使ってスライドをめくっていく紙芝居的な説明が、わかりやすいので受け入れられてきたわけだ。

しかし、一方的にスライドをめくって説明していくプレゼンは、ビジネスの場で主流とはいえない。例えば、商談や打ち合わせは、4~5名程度で行われるのが普通だ。そんなときにも、PowerPointのスライドを提示することが多いが、多人数を相手にプロジェクターで説明するプレゼンとは根本的なあり方が違う(図3)。

一方的に説明するのではなく、相手の意見やニーズを引き出すのが目的になることも多い。つまり、自分がしゃべって説明するだけでなく、相手にも話してもらうことが大切になるのだ。
図4のシートをチェックして、スライドを作成する前にプレゼンの目的と目標を明確にしておこう。「新製品を販売店に説明する」といったプレゼンは、いわば従来型でこちらから一方的に説明してわかりやすければよい。
目的や対象人数に最適な機材とスライド構成を選ぶ
「新製品の商談で顧客にとってどの機能が魅力的なのかを探りたい」──このような商談、もしくは「営業会議で販売方法を討議する」──こんなケースでは従来のプレゼンとは違うスライドが必要になる。そのプレゼンでの目的が書かれていることが重要になってくる。ときには結論がなくてもかまわないプレゼンもあるのだ。
人数が少なく、討議形式のプレゼンではプロジェクターよりも、タブレットを利用するのが向いている。気軽に画面を指し示しながら、お互いに会話ができるからだ。もちろん、プリントアウトしてもよいだろう。ただ紙媒体では、動画やアニメーションなどが使えない。
このように、スライドを作り始める前に、目的と目標、説明の場の様子がしっかり把握できていないとプレゼンの成功はおぼつかないのだ。新商品説明会で使ったスライドを相手の意見を引き出したい商談に流用するのは、基本的には誤りだと理解したい。
ターゲットを決め、参加人数を把握する
そもそも、誰がそのプレゼンに参加するのかが明確でなければ、効果的なスライドは作れない。相手の関心や自分の立場などについても、しっかり把握しておこう。単に参加者の名前や肩書だけでは情報不足だ。
ターゲット像を明確に必要項目を表にまとめる
参加者がどんな気持ちでプレゼンに臨むのかを最初に確認しておく必要があるのだ(図5、図6)。「先方から依頼されたコンペなので、相手は真剣に聞く」というケースがある一方で、「こちらから売り込んだ製品の説明を、渋々ながら聞いてもらえる」ということも。もしくは「月例の会議で予算の分配を話し合う」といった会議でも、スライドを使うことは少なくない。
つまり、誰が参加するかだけでなく、どんな気持ちで臨むのかがとても重要になる。無理して新製品を説明させてもらうときには、相手の気持ちは盛り上がっていないし、聞く準備もしていないだろう。より詳しく、わかりやすい説明が求められるはずだ。部内の会議で上司が出席するだけなら、大まかな理解はできているだろうから、まとめのスライドでOKだろう。逆に経営陣に説明する際には、企画が成功する可能性と収益、リスクなどを明確に伝えなければならない。あなたの熱意よりも重要なデータがたくさんあるのだ。
プレゼンの内容を明確に
プレゼンの実施が決まったら、必要な事項を調べておこう。筆者は何度となくプレゼンの現場に立ち会っているが、当日になって「プロジェクターがつながらない」「部屋が明るすぎてよく見えない」といったトラブルに出合うことは多い。目的を達成するためにも、まず図7にある項目をしっかり押さえておくべきだ。
例えば、参加人数が決まれば、印刷部数も明確になる。
また、部屋を下見できたら、必ずスマホやデジカメで写真を撮っておく。それを基に見やすく、また話しやすい場所を考えて座席を決めよう。キーマンには一番良い席に座ってもらうべきだ。
また、相手の意見を聞きたい場合には、参加者を考慮して席を検討したほうがよい。よく話すことがわかっている相手は、少し離れた位置にするのが賢明だ。近い相手とずっと話し続けてしまうと、周囲が割り込みづらいからだ。あらかじめ会場を撮影しておけば、席とプロジェクター、投映先の位置が前もってわかる。
図7の表を埋めることで、プレゼンに必要な実質的な時間も見えてくるだろう。ほとんどの商談や打ち合わせなどは、1時間程度確保されていることが多い。ところが、実際に部屋の行き来に時間を取られたり、挨拶なども必要だ。実質的に使えるのは、45分もないといったケースもままある。
プレゼンの時間割も重要、進行の目安を把握する
スライドを作り始める前に、時間の使い方を大まかに考えておく。持ち時間がわかったら、配分を想定しておこう(図8)。現場では、予定通りに進行しない場合が多いが、想定すらしておかないよりははるかによいはずだ。
持ち時間の配分の際、相手から話を聞いたり、状況をヒアリングしたい場合には、どのタイミングでどのくらい聞くのかを考えておくことが大切だ。この作業をしっかりやっておけば、「質問が多くて説明しきれずに終わった」「最後にまとめて意見を聞いたので、最初に説明した項目についての質問が出なかった」といった失敗を未然に防止できる。
全体の時間割が頭に入っていてこそ、プレゼン中に時間の使い方の調整もできるわけだ。もちろん、すべて想定でかまわないが、当日の様子を考えて、図8のようなチャートを作ってみるとよい。手書きのメモでOKだ。作業してみると、予想以上に説明する時間が少ないとあらためて感じるはずだ。
伝える内容、聞き出したい意見の取捨選択をこのタイミングで大まかに考えておくべきだ。欲張りすぎて、短い時間に要素を詰め込むと失敗する。多少早めに終わるのはかまわないが、尻切れトンボになるのは最悪だ。